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八度

「…お洋服?」


食事も終わり、デザートのブドウの皮を剥きながらエンニチと遊びに来ていたルツ(白ヒヨコの名前だそうだ)に食べさせていた時だ。パパさんが頭を優しく撫でながらドレスを仕立てようと言い出したのは。


「そうだよ。セーラはもうすぐ三歳だ。三歳になったら神殿で魔力測定と属性を確認した後で王様に会うんだよ。だから世界で一番可愛いセーラのドレスを作ろうね」

「ドレス、たくさんあるからいらない」


おいおいパパさんよ。クローゼットの中にはまだ袖を通してないドレスが山のようにあるのだが。

貴族は一度袖を通したドレスは二度と来ないと聞いた事があるが元一般庶民には難易度が高いぞ。

眉を寄せた私が断わると、慌てて懐柔してくる家族たち。


「聞いたかい?私たちのセーラは何て慎み深いんだろう」

「大丈夫、誕生日のプレゼント。だから幾らでも作っていい」

「くぅー!本ッッとその辺の女どもに聞せてやりたいぜ。セラフィーナ様、たまのプレゼントです。遠慮なく貰えばいいんすよ」

「そうだよ、子供が遠慮なんてしなくていい。ドレスでもお菓子でも本や家や宝石でも何でも言いなさい」


……私を堕落させようとする敵が身内とは世知辛い世の中である。

だいたい誕生日以外にも週一ペースで君らから何かしらプレゼントを貰っているのだが。

不満気な私に気付いているだろうに、パパさんはそのまま締め括った。


「だから気にしないで受け取っておくれ。

急だが今日の三時ごろに仕立て屋が来るからお昼寝は早めにしようね」

「…あい」

「セーラはどんな色でも似合うから迷いますね。ふふ、楽しみだなぁ」


はぁ、既に決まっていたか。

セレブ共に何を言っても無駄だった。

早々に説得を諦めた私は、パパさんの腕に大人しく抱き上げられそのままベッドへ降ろされ毛布を掛けられる。サッと右にエンニチ、左にはルツが毛布に潜り込んだ。

家族のエンニチは兎も角ルツ、君遠慮が無いね。

向こうから、『リアン工房の…』『デザイナーが…』だの聞こえてくる。もう好きにしてくれ。

若干不貞腐れた気持ちで目を閉じた。







「まあまあまあまあ!!カ、カワイイ〜〜〜ンッッ!!天使よ、天使ちゃんが居るわ〜んっっ!」


微睡みを覚ます若干かすれ気味の甲高い、けれど初めて聞く声。

目を開ければ赤い色が視界に入る。


ぼんやりとした焦点が真っ赤な髪の美人さんを映し出した。

前髪と一緒にポニーテールにした真っ赤な髪、形の良い額と吊り上がり気味の瞳。一見肉食系美人さんに見えるが私の目は誤魔化されない。

女性にしては大きく張った肩幅と首筋、少し出ている喉仏。まごう事なき男性である。


アンタ誰やねん。


まだボヤける目をぐしぐしと擦りくわぁ、と欠伸を一つ。その間も途切れる事無く可愛い可愛いとエンドレスに続く歓声と黄色い声が上がり続ける。

偏見はないが家族以外で初めて会うのがオネエとは何とも微妙だ。


まだハイテンションで何事かを叫んでいるオネエに挨拶はしなければなるまい。なんでも挨拶は上の者からする決まりがあるらしい。

要は下っ端が話しかけるんじゃねぇよ、と言ったところだろうか?



「…こんにちは、セラフィーナです。オネエさんは誰ですか」

「まあまあ!挨拶もきちんと出来るのですね!お姉さんの響きがス、テ、キ。

ゴホンっ、失礼致しました。今回、いえ今後セラフィーナ様のドレスを作るリアンと申しま、す……ふふ近くで見ると…ふふふ白い肌、サラサラな白銀色の髪…アメシスト…ううん、優しい紫の瞳だわ……こ、こんな子が世界に存在したなんて!!

正にこの世の奇跡!噂に名高いグラージュ家の至宝!生きてて良かった!神様ありがとうございます!

ああ、こうしちゃいられない。紙紙紙、早く紙とペンを!インスピレーションが溢れ出してくるわーっ!」


笑って恍惚として感謝して叫んで、忙しい人だ。

因みにお姉さんではなくオネエさんだがな。

おいおい、宰相様パパさんに紙とペンを取らせたぞ。しかも依頼人そっちのけでデザイン画を描き始めてるし。

突っ込みどころ満載だが鬼気迫るものを感じさせる勢いに誰も話しかける事が出来ず見守る事しか出来ない。

家族たちを黙らせるとは恐るべし。

男の人にしては細長く、しかし節くれた指がシャカシャカとペンを走らせ紙を破る音と共に左側にはデザイン画が次々積み上げられてゆく。

不安気に顔を引きつらせたルイス兄が足元に滑るように落ちてきたデザイン画を拾い上げ、目を輝かせた。


「す、凄い!見てください、これ絶対セーラに似合いますよ」


興奮しながらパパさん達に見せれば家族たちの歓声が上がる。

なんだなんだ?


「流石は国一番と名高いリアンの作だ。この裾の所などはセーラの可愛らしさを十二分に引き出している」

「僕、こっちの方がいい」

「俺はこっちのフリルがふわふわして良いと思いやす」

「ここに花を取り入れても可愛らしいね」



デザイン画を手にヒートアップする面々に前世数少ない友人内の一人の姿が重なる。

結婚して落ち着いたが、友人はとある会社の受付嬢だった。

しかし爽やか笑顔の華やかな部署の裏側では日々ストレスが溜まるらしく、給料日の度に呼び出されては服だ靴だバッグだアクセサリーだの衝動買いが凄かった。

美人さんが一人バーゲンで歴戦の戦士達おばちゃんに戦いを挑む姿は勇ましく此方が圧倒されるパワーだった。

私は大量の戦利品を押し付けられただ呆然と眺めているだけだったのだが……思い出したら何か精神疲労が半端ない。

一般的に男は女の買い物時間や服選びにウンザリするのが大半らしいが、うちの家族は当て嵌まらないようだ。

……ふぅ、暫く終わりそうも無いしもう一眠りするか。



おっと、その前に私の前散乱してある猫やウサギの着ぐるみのデザイン画は処分するとしよう。





◆◆◆◆◆◆◆





『ドレスの色は白だ』

「シュバルツ様、それは横暴です。セーラのドレスは瞳と同じ紫色にします」

「待って下さい父上。セーラには絶対可愛らしいピンクが似合いますよ」

「ダメ。緑がいい」

「俺はオレンジ色がいいな〜って、、何ですかエンニチ様?足で紙をタシタシと。……色見本?、、エンニチ様は黒がいいんすね」

『我の言う事が聞けないと言うのか』

「それとこれとは話は別です。セラフィーナは私の娘。これは家族内の事ですので」

『何を言っている。あの娘は既に我が娘も同然よ。

親が可愛い娘の晴れ衣装を選んで何が悪い』

「い、いつの間に娘になったんすか?」

「シュバルツ様、それは卑怯です」

「暴君」

『権力を今使わずにいつ使うのだ?』



「…何で白いヒヨコが喋ってるのかしら?……それにシュバルツ様って……ふふ、あたし疲れてるのね」







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