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第七話:仏の顔も三度だからね

2015/03/28 社長を支配人に変更。

 告別式が終わった頃には、すっかり日が暮れていた。

 埋葬は、明日行われるそうだ。

 遺族の人達――王都在住者も含めて――には、今回の事件で亡くなった親戚の屋敷の一つを宿として提供している。まだ解雇していないその屋敷の使用人達がもて成している筈だ。

 因みに、遺族には後日、補償金を渡すらしい。


 クッキーを食べながら、今日の会葬者を思い返す。

 顧客である多くの貴族の代理として、その家の使用人達が訪れた。

 両親や親族・使用人達の友人・恩師・先輩・後輩達も――全員ではないだろうが――やって来た。自称『ユーアン様の庶子・私生児の親』は、一人も来なかったけれど。面会に来たら嫌みの一つでも言ってやろう。

 全員――ティティを除く――に返礼品を渡したのだけど、足りたのかなぁ? 百人は軽く超していたよね?



 翌日。

 馬車に乗って墓地に向かう。

 昨日曲がった場所で曲がらず王宮前広場を通り、南へ向かう大通りを南進する。途中にナディヤ商会の本店・支店・病院・ホテル等が在ったので、カルさんがその都度教えてくれた。

 町外れ近くまで来た所で、馬車は右折した。

 

 辿り着いた墓地には、既に墓穴が掘られており・棺も移動させられていた。

 カルさん曰く、通常は、聖堂から遺族が徒歩なり馬車なりで葬列を作って棺を葬送するそうだが、今回は棺の数が多過ぎるし・墓地まで遠過ぎるので、夜の内に神聖騎士達の手で馬車に乗せての移動となったらしい。

 そこへ、シリウス王子の銀獅子騎士団の二人が近付いて来た。

「おはよう、二人共」

 私から声をかける。

 カルさん達から教えて貰ったのだが、ゾルゾーラ王国の貴族社会では、基本的に目下の者が目上の者に先に話しかけるのは失礼になるそうだ。つまり、『天級』とは言え平民の私には当て嵌まらない。但し、相手が普段王侯貴族を相手にしている場合は違う。彼等は、私が王族より偉い『天級』だから、王侯貴族に対するのと同じ態度を取らなければならないと思っている筈だ。

 なので、先に話しかけたのだ。

「おはようございます、ナディヤ様」

「名前の方で呼んでくれる? カルさんもナディヤだし」

「承知致しました。フローラ様」

 今回の護衛は、二人共銀髪で目は茶色だった。

「名前は?」

「ウェゼン・デルタと申します」

 彼は、長い髪を後ろで束ねている。

「アダラ・イプシロンと申します」

 こちらは、例の女顔の美少年。

「宜しくお願いします。今日は何時まで?」

「御帰宅されるまでと言い付かっております」

「そう」

 そして、勤務形態等について教えて貰った。

 三交代で、日勤は基本的に8時から16時までの8時間だそうだ。私が16時まで帰宅しない場合は、延長。夜勤の早番が基本的に16時から24時までの8時間。日勤が延長した日はその分短くなるので、此処が一番楽なんじゃないかな? で、夜勤の遅番が0時から8時までの8時間。但し、私が8時前に出かける場合は延長。下手をすれば16時間以上働く事になる。尤も、8時前に出かける事なんて先ず無いだろう。多分。まあ、私の居場所が判れば交代する事は可能だろう。

 ところで、まさか、飲まず食わずなのだろうか? トイレは行けるんだよね?

「【ギフト】を聞いても良いかな?」

 カルさんが確認する。

「私は土属性上級。アダラは水属性上級です。攻撃・防御は出来ますが、回復は出来ません」

「悪魔の【ギフト】持ちと戦って勝つ公算は?」

「中級ならば、卑劣な手を使われない限りは負ける事は無いでしょう」

「それは頼もしいね」



 遺族を乗せた馬車や司教達を乗せた馬車も到着し、そろそろ埋葬を始めようかと言う時、一台の安っぽい装飾でゴテゴテした馬車がやって来た。

「メジュフェ家の馬車です」

 ミハイルさんが教えてくれる。

「フローラ! どういう事なの?!」

 馬車から降りて此方に駆け寄ろうとしたティティは、警備の王国兵に止められた。

「神聖騎士団が、あたくしの屋敷に勝手に入って、服とか靴とか奪って行ったのよ! あたくし達、お友達なのに酷いと思わないの!?」

 私を殺したあいつなんじゃないだろうか?

「お友達じゃないし、服や靴等を接収されるより死刑の方がマシだと思っているなんて、変わった人ですね」

「まあ! お友達じゃないなんて、遠慮しなくて良いのに! でも、あたくし、死刑の方が良かっただなんて思って無いわ! お友達なんだから、『一生、赤禁止』の命令を撤回させて頂戴!」

 流石に破ったら死刑という言葉に本気を感じ取ったのか、今日は赤い靴は履いて来なかったようだ。オレンジ色である。

「フローラのお友達になりたいなら、相応しい礼儀作法を身に付けてからにしてよ。はっきり言って、君はお嬢様と言うより野性児だね」

 カルさんがティティに辛辣な言葉をかけた。

「お嬢様に何て酷い事を! 関係無い人は引込んでいてください!」

 昨日も一緒にいたティティの従者らしき男性が、カルさんに怒鳴る。

「それ以前に、埋葬に関係の無い君達が墓地から立ち去るべきだよ。でも、野性児だと思われたいなら、幾らでも居ると良い。尤も、その場合は逮捕されるだろうけど」

 罪状は何だろう? 妨害罪?

「あたくしとフローラの仲を裂こうとする貴方なんかの言う事なんて」

 その時、我慢の限界に達したのか、神聖騎士達がティティと従者をお縄にした。

「処刑して宜しいでしょうか?」

 司教が私に確認する。

「今回は止めて。次は止めないけれど」

「……では、今回は?」

 私は、遺族の皆さんとナディヤ商会の支配人達を手の平で指し示した。

「一人頭、百万円の慰謝料」

 そちらを見たティティは、人数の多さに顔色を変えた。

「後、貴方達にも。……彼等にもね」

 司教達を見て、そして、警備の兵士達を振り返る。

「そ、そんな大金……!」

 軽く一億円を超えるだろう。

「メジュフェ商会にとっては大金なのかな?」

 カルさんが首を傾げた。

「払えるわよ! でも! どうして、関係無い人にまで払わなければならないの!」

「僕等は皆関係者で、君達だけが部外者なんだけれどね。会長なのに解らないのかな?」

「解ったわよ! 払います!」

 ティティがそう怒鳴ると、神聖騎士達は彼女達の拘束を解いた。

「友達からお金を取るなんて……」

「『天級』への不敬罪を随分軽く見ている様だけれど、処刑代わりの罰無しに許して貰えると思ったら大間違いだ。フローラの慈悲で助かったのに感謝の言葉の一つも無いなんて、君はやっぱり処刑を望んでいるのかな?」

「……ありがとう。……ございます。フローラさ……ま」

 ティティは不承不承そう言った。

「では、三日後の10時に大聖堂まで持って来るように」

 司教がそう告げると、二人は駆け去って行った。

 三日後に追悼式を行う事になっているのだ。



 予定より遅くなったが、フローラの父ユーアンの棺から埋葬を行う。

 カルさんと男性支配人達が棺を墓穴に運び、司教が祈りを捧げたり聖水を撒いたりした後に、埋めて墓石を置いた。

 それを、フローラの母クロリス・叔父・叔母と繰り返して行く。

 ナディヤ一族の埋葬が終わると、次は男性使用人達だ。

 彼等の遺族の男性達が、誰のものとも判らない棺を穴に入れて行く。

 女性使用人の埋葬が終わった頃には、日が暮れていた。……冬の日没は早いなぁ。



 三日後。ティティは不満げながらも慰謝料を支払った。

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