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第九話:地属性『天級』の【ギフト】

 私がナディヤ商会の会長として仕事を始めるのは、三月になる。

 それまで、カルさんから【ギフト】の使い方を教わる事になった。

「まあ、使い方と言っても、簡単なんだけどね」

 発動自体は、幼児でも可能だものね。

「先ずは目を閉じて、自分の中に女神の力があるのを感じてみて。球形の温かい力を感じる筈だよ」

 目を閉じて『女神の力?』と心の中で呟くと、光の球が見えた。そして、全身に温かさを感じた。

「感じました」

「じゃあ、此処に、チューリップの球根を置くから、手を翳して芽が出るのを想像してみてご覧」

 目を開けると、皿の上にチューリップが置いてあった。食器の皿では無く、植木鉢に上げた水を受ける皿の事だ。

 言われた通りにすると、光の球から小さい光の球が分離して球根に吸い込まれ、ニョキッと芽が出た。

「流石『天級』だね」

 上級でも、もっとゆっくり芽が伸びるのだとカルさんは言った。

「じゃあ、花を咲かせてみようか?」

 咲かせてみると、私がよく知っているチューリップとは違っていた。細く尖ってる。

 異世界だから違うのだろうか? それとも、地球にもこんなチューリップが在るのだろうか。

「これで、冬でも花を売れますね!」

「そうだね」

 品種改良も出来るだろうなぁ。



 チューリップは使用人に鉢に植えて貰い、私とカルさんは庭に出た。

 今度は土を操ってみるのだ。

 雪かきされて地面が露出している場所に立つ。

「それじゃあ、泥団子を作ってご覧」

「はい」

 泥が団子状になるのを想像すると、私の身体から小さい光の球が出て泥に埋まり、其処の泥が動いて丸まった。……ゴーレムっぽい物を作れそうな気がする。

「作るのは、泥団子だよ?」

 泥団子の形を変え始めた直後――多分、二秒ぐらいで――、カルさんに止められた。……笑顔なのに怖いです、お兄様。

「地属性は、植物を操る・土を操る以外に、地面を介して情報を得る事が出来る。例えば、大通りに男性何名・女性何名・馬車何台・猫何匹とか」

「へー。女装・男装していても判るんですか?」

「いや、そこまでは……」

 カルさんは、困ったように笑った。

 カルさんでも何でもは知らないよね。



 そして、三月になった。

 雪解けの季節である。

 もう直ぐ忌中が終わるある日の夜……いや、朝早く、まだ日も登らない時間に、私は異変を感じて飛び起きた。

「アンヌさん! カルさんを呼んで!」

 侍女のアンヌさんを起こして、そう頼む。

「お嬢様! どうされました?!」

「西で山が崩れて、村が呑み込まれた!」



 一時間後、各店の支配人達が応接室に集まっていた。

 地属性『天級』の【ギフト】によって王都の西方向の山の麓の村が土石流に呑み込まれたのが見えたから何とかしたいとカルさんに説明すると、カルさんが彼等を呼び出したのだ。

「何処なのか、判る?」

 テーブルの上に広げられた地図には、主要な山や川・誰が領主なのか等が書き込まれていた。

「この地図は?」

「ナディヤ商会情報部が作製しました」

 こういう世界じゃ、地図は軍事機密じゃないの?

 聞けばやっぱり機密だそうで、各国を敵に回さないよう販売を自粛しているそうだ。……外国の地図もあるのか。

「それで、どの辺りかな? 一番近い西の山はクラロス伯爵領になるけど」

 カルさんが指を差したクラロス伯爵領は、王都からそれほど離れていなかった。

「どの辺りと言われても……手がかりになるか分かりませんが、崩れた山は禿山でした」

「では、クラロス伯爵領で間違いありませんね」

 材木店の支配人が頷いた。

「クラロス伯爵領はかつては森林資源が豊富でしたが、人口増加による伐採や盗賊団が起こした森林火災等で大きく減少しています。昨年秋、バルデラー山が禿山になったのを確認済みです」

 そこへ、ドアがノックされた。

「失礼致します。シリウス殿下がいらっしゃいました」

 ローエンさんの言葉に、私は首を傾げる。

「どうして、殿下が?」

「銀獅子騎士達が報告したんだろうね」

 ああ。そう言えばアンヌさんに頼んで、私の護衛の任に就いている彼等に、山津波の救助に行くかもしれないと伝えて貰ったっけ。


「山津波が村を呑みこんだそうだな?」

 応接室へ行くと、シリウス殿下は開口一番そう確認して来た。

「はい。恐らくクラロス伯爵領のバルデラー山です」

「そうか。クラロス伯爵領なら行った事がある。瞬間移動で送ってやろう」

「瞬間移動が出来るんですか?!」

 【ギフト】って凄い! と私は驚く。

「天属性『天級』だからな」

「はー。……あ、救助にはクラロス伯爵の許可が必要ですよね?」

 面子がどうとかで断られるかも。

「そうだな。『天級』のお前が救助したいと言うのを拒む事は無いだろうが」

「じゃあ、救援物資の手配をしましょう! 土砂や岩は私の【ギフト】で何とかなるから……」

「怪我人は、俺の【ギフト】で治してやろう」

「ありがとうございます。用意するのは、飲食物にテント? 服、下着、防寒具……赤ん坊がいるかもしれないから、乳母とオムツ。……女性用品も」

 最後の部分は、アラクネさんに囁いた。

「布ナプキンですね?」

 私は頷いた。

 因みに、この国の女性用下着はショーツタイプだ。ナディヤ商会が売り出して一般的になっているらしい。一昔前はドロワーズを直穿きだったらしいが。尚、外国はどうなのかは聞いて無い。

「そう言えば、素材は何ですか?」

「ナディヤ商会で販売している物はリネンです。メジュフェ商会でもリネンですが、質は悪いですね。デシン商会ではコットンです」

 私は前世で使った事が無いので、リネンとコットンのどちらが良いのかは判らない。それ以前に、この世界の布ナプキンの品質が現代日本の物と同じとは限らない。

「うちの商品の評判は、どうなの?」

「もう他所の商品は使えないと、大変好評を頂いております」

「……それを支給して、今後の生活大丈夫かしら?」

「数年は使えますよ」



 明け方。

 シリウス殿下の瞬間移動でクラロス伯爵の屋敷近くに移動し、クラロス伯爵家を訪れた。

「バルデラー山が土砂崩れを?!」

 来訪理由を告げると、未だ報告が届いていなかったらしくクラロス伯爵は困惑した様子になった。

「近くに禿山が在りますよね? そこがバルデラー山なら間違いありません」

 移動して直ぐに【ギフト】を使って山を確認した私は、断言した。

「そうですか」

 クラロス伯爵は、救助に乗り気では無いのかお茶を口にする。

「救助しないのか?」

「……殿下。私は、バルデラー山に植林したのですよ」

 まだ二十代のクラロス伯爵は、疲れたようにそう言った。

「数年前から毎年です。その度に勝手に伐採され、前年より樹木が減って行った……。自業自得ではありませんか」

 見張りは大勢置けず、罰しようにも誰がやったのか判らない。柵を設置しても乗り越えられるか、破壊される。危険を説いても無駄だったのだとか。

「他所者が伐採したのかもしれませんよ?」

「……そうかもしれませんね」

 短絡的に決め付けているのか・何か根拠が有るのか、気の無い返事を返す。

「まあ、お前が治める領地だ。好きにすれば良いさ」

 シリウス殿下が、そう言って立ち上がる。

「だが、俺達も『天級』として好きにさせて貰うぞ」

「ご存分に」

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