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14 循環の光と、滲む闇

いきなり帰ってきたかと思ったら、


今まで浮いた話の一つもなかった息子が、

見知らぬ少女を抱き上げて連れてきた。


しかも、魔力酔いを起こさせた状態で。


あまりの衝撃に、言葉を失う。


いつからだろう。

笑顔を貼り付けたまま、

まるで、人形のように感情を動かさなかった我が子が――


あんなに焦った顔をするのは。


純粋に、嬉しかった。


だが、状況が状況だ。


「本当に大切に思うのなら、彼女のことを最優先に考えなさい」


それだけを告げた。


しゅんと肩を落とす姿に、

まだ子供だったのだな、と苦笑が漏れる。


「しかし……魔力媒介者、か」


一拍、思案する。


「……いや。“循環の乙女”なのか」


胸騒ぎを覚えながらも、

アステリア公爵は窓外へと視線を向けた。


どうか――


息子の未来が、穏やかなものであるように。




そっと目を開ける。


「ここは……?」


見慣れた寮の天井ではない。

病院の特別室でもない。


ブラックティーの優しい香りが漂う、

落ち着いた客間だった。


「フィリア! 目が覚めたかい」


すぐそばに、安堵を滲ませたエルヴィン。


「うっ……」


大丈夫、と答えようとしたが、

身体全体に鉛のような重さが残っていて、

正直まだしんどい。


「魔力過多による魔力酔いだそうだ。

出した方が楽になるみたいだから……

一旦この魔石に、魔力を入れることはできるかい?」


差し出されたのは、先ほどエルヴィンのために

魔力を入れようとしていた、あの魔石。


重すぎず、軽すぎず。

――投げるのにちょうど良さそうな重さ。


(投げないけど。)


思わず小さく笑うと、エルヴィンが覗き込む。


「本当に大丈夫?」


笑みを含んだままフィリアはこくんこくんと頷き、

体内に滞った魔力を、ゆっくりと魔石へ流した。


虹色の雫を、一滴ずつ落とすように。


ゆっくり、優しく。


魔石の中に、色とりどりの光が渦を巻き始める。


赤、青、緑、黄……どの色も、主張しすぎず、


互いに絡み合いながら、ゆらゆらと波打つ。


……綺麗。


思わず見惚れてしまう。


エルヴィンも、その輝きに目を奪われていた。


「とても……綺麗だ」


じっと見つめていたくなる、不思議な魅力。


まるで、世界の全ての属性が優しく共存しているような。


魔石の縁まで魔力を注ぎきると、

頭のぼんやり感がだいぶ消え、身体が軽くなった。


「残りを……僕にくれないか?」


低く落ちた声に、空気がわずかに震える。


エルヴィンの指先が、触れるか触れないかの距離で止まった。


翠の瞳は、どこか飢えたように揺れている。


「全部、出して?」


その言葉に、どきりとする。


おずおずと手に触れる。


自分から触れるのは、こんなにも緊張するのだと初めて知った。


絡めた指から、ゆっくりと魔力を流す。


包み込むように。

溶け込むように。


エルヴィンの呼吸が、わずかに乱れた。


顔を逸らされる。


銀髪に隠れた、耳が赤い。


「大丈夫?気持ち悪い?」


流れを止めようとすると、


「止めないで。もっと……」


甘えた声。


潤んだ翠色の瞳がこちらを見る。


まるで甘える猫のように、指先にすり寄る。


その姿があまりに色っぽくて、


フィリアは慌てて手を離した。


「エルヴィン様も魔力酔いしてますよねっ!」


ふにゃりと蕩けた表情で見上げられ、

フィリアは真っ赤になるしかなかった。



フィリアに魔力を渡した後、

エルヴィンは自身の魔力の残滓で、

彼女がどこにいるかわかるようになっていた。


あの時、アクセサリー店で“偶然”会えたのは、

その残滓を辿ったからだ。


少しでもフィリアに自分の魔力を留めておきたいと、

欲を出した。


強い魔力を一気に流してしまったせいで、

彼女は魔力酔いを起こしてしまった。


完全に、僕の落ち度だ。


しかし……フィリアの魔力は、本当に綺麗だったな。


全属性に変換できるからか、

どの色にも染まらず、混ざらず、

全ての色が主張しすぎずに、ゆらゆらと波打っている。


素敵な贈り物をもらったな、と

虹色に光る魔石を眺める。


そして、先ほど魔力を流された時のことを思い出す。


――あれは、本当に……やばかった。


フィリアを体現するような、優しくて暖かな魔力が、

包み込むように、じわりと流れ込んできた。


熟れた桃のような――

とろりと蜜を含んだ甘い香りが、口の中に広がる。


逃げ場もなく満たされていくような濃密な甘さに、

思考がゆっくりとほどけていく。


まるで濃厚なキスをされているような錯覚に落ちる。


魔力の流れがゆっくりだからか、


身体の芯から溶かされていくような、


理性が溶ける。


……とても甘くて――美味しかった。


あのまま、全部味わい尽くしてしまいたいと――

そう思ってしまうほどに。


足りない、と感じてしまう自分がいる。


顔が熱くなる。


魔力酔いとはいえ、あんな恥ずかしい姿を見せてしまった。


幻滅されていないといいが……。


あの時、運ばれていなければ、

何をしていたかわからない。


エルヴィンは額を押さえ、深く息を吐いた。


「……気をつけないと」


それでも。


胸に抱いた魔石の温もりに、

自然と頬が緩むのを止められなかった。



「闇の門より、瘴気の漏出を確認!」


王宮魔導先遣隊の報告が響く。


隊長は静かに門を見上げた。


神話でしか語られないはずの存在。


光・火・水・風・土の五聖者が

闇を封じたとされる伝承。


その証明が、今ここにある。


禍々しい石造の門。

閉ざされているはずなのに、

黒い瘴気が滲み出している。


ここ数年、闇の魔獣は増え続けている。


森は侵食され、

人の足を拒む地が広がっていた。


――やはり、ここか。


門の扉は閉まっているにも関わらず、


漏れ出てくる瘴気はとても濃い。


開いてしまった時、世界がどうなるのか……

考えるだけで背筋が凍る。


「再封印を試みる。総員、術式展開!」


だが――


「隊長! 抑えきれません!」


瘴気は生き物のように暴れ、

魔力を侵食する。


必死の形相で声を張り上げる隊員。


全力で魔力を消費しているせいか、

先ほどまで元気だった顔に、疲労と青白さが濃く浮かぶ。


――瘴気の影響か。


引かざるを得ない。


「全隊撤退! 早急に王宮へ報告し、隊を組み直す!

瘴気に触れて身体に異変が出た者は、速やかに申し出よ!」


隊長は振り返りながら、静かに呟いた。


「闇が現れる時期が……来たのか」


黒い霧が、静かに森を覆い始めていた。

お話をお読みいただきありがとうございます。

また、ブクマなどしてくださった方、ありがとうございます。本当に励みになります(*´꒳`*)



フィリアの手に、ほっぺすりすり猫エルヴィンのイメージイラストを置いておきます。

作者に 効果が ばつぐんだ!

※AIが作成してくれました。

挿絵(By みてみん)

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