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第89話 生放送の微笑みと傲慢なる宣言

挿絵(By みてみん)


 夜のテレビ局。全国ネットの報道特別番組のスタジオは、ピリピリとした異様な熱気に包まれていた。

 眩しい照明の下、メインキャスターの席に座るのは、看板アナウンサーの水瀬栞である。彼女の美しく整った顔立ちには、連日の凶悪事件に対する深い悲しみと、真実を引き出そうとする真摯な決意が宿っているように見えた。


 その対面に座るのが、聖女教の実質的な代表者であり、現在日本中の非難の的となっている源田壮一郎だ。

 源田は不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、無意識に自身の右膝をトントンと軽く叩いている。数千万人が見つめる生放送のカメラの前だというのに、彼の態度はどこまでも傲慢で、微塵も緊張した様子は見られない。


 カメラの赤いランプが点灯し、水瀬の落ち着いた、しかし芯のある声が全国の茶の間へと響き渡った。


「今夜は、現在世間を大きく揺るがしている幼児連続誘拐殺人事件について、最前線で渦中におられる源田壮一郎理事長にお越しいただきました。源田さん、よろしくお願いいたします」


 水瀬は深く頭を下げた後、真っ直ぐに源田を見つめる。


「単刀直入に伺います。警察の捜査が完全に難航する中、源田さんたち聖女教の皆様が、標的とされている少女を完璧に守り抜いている手腕は、確かに驚くべきものです。しかし――あなた方が強固な防衛線を敷いたことで、結果的に犯人が標的を変え、他の無防備な子供たちが犠牲になっているという厳しい声が世間から上がっています。この現状について、どうお考えでしょうか」


 相手を無闇に責め立てるのではなく、あくまで悲劇を止めたい、被害者の無念を晴らしたいという水瀬の誠実な問いかけ。視聴者の誰もが、彼女の言葉に深く頷いただろう。

 しかし、源田は鼻で短く笑い、無表情のまま冷酷に言い放つ。


「愚問だな」


「……愚問、ですか」


「我々が少女を守っているから被害が拡大したのではない。警察が我々レベルの警備を敷けない無能だから、ゴミに隙を突かれているだけだ。我々は身内を守るための正当な防衛を行っているに過ぎない。お門違いな責任転嫁はやめたまえ」


 血も涙もない源田の正論に、スタジオの空気が一瞬で凍りつく!

 しかし水瀬は怯むことなく、悲痛な表情を作ってさらに踏み込んだ。


「ですが、あなた方が介入し、得体の知れない力……世間ではオカルトや魔法などと噂されていますが、そういった力を見せつけたことが、犯人の異常なプライドを強く刺激したのではないでしょうか。犯人は新たな声明文で、自分を『天使を解放する救世主』だと名乗っています。このような危険な思想を持つ相手に対し、力で対抗し挑発するような真似は、あまりにも危険ではありませんか?」


 水瀬の言葉には、これ以上の犠牲者を出したくないという強い祈りが込められているかのようだ。

 だが、源田は苛立たしげに右膝を叩く手を止め、深くため息をついた。


「君も、そして世間の連中も、根本的な勘違いをしているな。我々は犯人を挑発などしていないし、刺激すらしていない」


「勘違い……? では、犯人が声明文であなた方を名指しし、異様な執着を見せているのは何故だと?」


「恐怖だよ」


 源田の低く冷たい声が、スタジオの空気を震わせる。


「犯人は我々に刺激されたから狙っているのではない。我々の持つ『本物の力』を遠巻きに見て、己の矮小な存在が脅かされることに恐怖し、怯えきっているだけだ。だからこそ、絶対に手を出せない陣地に寄り付かず、反撃してこない弱い子供ばかりを狙って必死に強ぶっている。それが、自称・救世主様の惨めで滑稽な正体だ」


「源田さん、それはあまりにも過激な……っ」


 水瀬が止めに入ろうとするが、源田は彼女の言葉を無慈悲に遮った。

 そして、インタビュアーである水瀬から完全に視線を外し、自身を映し出す大型カメラの黒いレンズを真っ直ぐに見据えた。

 重い機材を構えるカメラマン越しに、画面の向こうに潜む『猟奇殺人鬼』へと直接その剥き出しの眼光を向けたのだ!


「救世主だと? 芸術だと? 笑わせるな」


 静かだが、圧倒的な威圧感を伴う声が全国に響き渡る。


「お前は、薄汚れた世界から天使を解放する崇高な存在などではない。ただの弱い者いじめしかできない、無力で惨めなゴミだ」


 源田は論理的かつ徹底的に、知能犯としてのプライドを冷徹な刃で切り刻んでいく。

 その最中、カメラの横に座る水瀬の様子が明らかにおかしくなっていた。彼女が手元の台本を握る指先は白く血の気を失い、微かに、だが確かな怒りを孕んだように小刻みに震え始めている。


「警察を出し抜いた程度で、自分を特別な天才だと錯覚しているようだがな。お前がやっていることは、泥水の中でコソコソと這い回り、見つからないように息を潜めているだけのネズミと同じだ。本物の魔法の前では、お前の小手先の細工や、薄っぺらい悪意など、塵ほどの意味も持たない」


 カメラを見据える源田の目は、獲物を確実に追い詰める捕食者のそれだった。


「声明文で吠える暇があるなら、我々の前に姿を見せてみろ。だが、お前には我々の前に立つ勇気も知能もないだろうな。――一生、その泥臭い地下に引きこもって震えていろ。薄汚いネズミめ」


 その堂々たる傲慢な宣言に、スタジオのスタッフたちは息を呑み、水を打ったような静寂が落ちた。


 数秒の重い沈黙の後、水瀬がハッとして息を吸い込む。


「……っ、源田理事長、本日は貴重なご意見をありがとうございました。番組の途中ですが、お時間となりましたので……インタビューはここまでとさせていただきます」


 水瀬は必死に声を絞り出し、なんとか番組を締めくくった。


 カメラの赤いランプが消えた瞬間。

 源田は水瀬に見向きもせず、挨拶すら残さずに席を立ち、スタジオの出口へと歩き出す。彼は、自分の放った言葉が確実に知能犯の最も脆い急所を抉り、その歪んだプライドを完全にへし折ったことを確信していた。


 薄く冷酷な笑みを浮かべ、無敗の策士は夜のテレビ局を後にする。


 一方、スタジオに取り残された水瀬は、俯いたままピクリとも動かなかった。

 完璧だったはずの慈愛の笑顔は完全に消え失せている。前髪の影に隠れたその横顔はひどく青ざめ、彼女は己の唇を血が滲むほどに強く噛み締めていた。

 台本を握り潰すその手の震えは、もはや恐怖によるものではない。

 その瞳の奥に宿っていたのは、自身の神聖な番組を土足で踏みにじられたことへの怒りか、それとも傲慢な男に向けられた、底知れぬ憎悪か――。


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― 新着の感想 ―
今夜はが本夜になっているよ(*´∀`*) 初の書き間違いかな?(笑)お祝いしなくちゃ〜(≧∇≦)b(悪い意味ではありません)
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