第82話 魔法学院、生徒募集開始!
アメリカ合衆国との歴史的な同盟締結、そして核という旧時代の抑止力が消滅した世界。
未曾有のパラダイムシフトに各国の首脳が右往左往する中、震源地である日本の港区・白亜の洋館では、次なる「爆弾」の投下準備が静かに進められていた。
「……さて。これでまた一つ、世界がひっくり返るぞ」
源田壮一郎は、ノートパソコンのエンターキーを静かに叩いた。
画面に『更新完了』の文字が表示される。
それは、「ヒール屋」もとい「聖女教」の公式ウェブサイトのトップページ。
これまで『一回一万円』というシンプルなメニューしかなかったそのサイトに、突如として仰々しい特設バナーが出現したのだ。
バナーをクリックすると、飾り気のない、しかし世界中の権力者が血眼になって求めるであろうテキストが羅列されていた。
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【国立魔法自治区立・魔法学院 第一期生募集要項】
当院は、新時代のインフラとなる「魔法」を正しく導き、世界を清浄に保つための人材を育成する教育機関である。
■理事長:源田 壮一郎
■校 長:ヒミコ
■所在地:東京都港区(旧〇〇小学校跡地)
■応募資格
・魔力の適性があること。
■不問事項
・学歴、年齢、性別、前職一切不問。
■国籍要件
・日本国籍を有する者のみとする。
(※ただし、アメリカ合衆国およびクライ国に付与した各1名の特別枠を除く)
■選考方法
・書類選考後、現地にて適性検査および面接を実施する。
・虚偽の申告、および当院の「聖域」を乱す悪意を持った者は、面接の段階で『お掃除(物理・精神)』の対象となるため留意すること。
■学費
・年間 365万円(1日1万円)
「……送信、と。さあ、どう出るか」
源田がコーヒーを口に運ぶ間にも、サイトのアクセスカウンターは天文学的な速度で跳ね上がり、サーバーが悲鳴を上げ始めていた。
◇
数分後。
日本のインターネットは、完全に臨界点を突破した。
巨大匿名掲示板「Dチャンネル」のサーバーは一時的にダウンし、復旧した直後から凄まじい勢いでスレッドが乱立し始めた。
【速報】ヒール屋、ついに「魔法学院」を設立www【日本限定】
1 :名無しさん@聖女教信者:
おい、公式サイト見たか!?
ガチで学校作る気だぞあいつら!!
2 :名無しさん@無職:
応募資格:魔力の適性のみ
不問:学歴、年齢、性別
きたああああああああああああ!!
俺みたいな35歳ニートでも魔法使いになれるチャンスきた!!
今日から俺は魔法少女になる!!
3 :名無しさん@港区民:
>>2
お前はただの魔法おっさんだ、目を覚ませ
8 :名無しさん@お掃除済み:
学費「年間365万円」って高え!って思ったけど、よく見たら「1日1万円」計算かよwww
ヒール屋の理念一貫しすぎだろwww
10 :名無しさん@投資家:
>>8
港区の一等地に通えて、世界最強の魔法使いから直接指導受けて年間365万は安すぎる。
卒業後の見返り考えたら1億でも安いレベル。
15 :名無しさん@愛国者:
それよりもこれ見ろよ。
【国籍要件:日本国籍を有する者のみ】
うおおおおお!! 源田さんマジ国父!!
日本を世界最強の魔法大国にする気満々じゃねーか!!
22 :名無しさん@海外駐在:
今海外のSNS見てるけど、マジで地獄絵図だぞ。
「なんで日本人だけなんだ!」「今すぐ日本国籍をメルカリで売ってくれ!」「私の国を捨てて日本に帰化します」って各言語でトレンド入りしてる。
30 :名無しさん@特定班:
(※ただし、アメリカ合衆国およびクライ国に付与した各1名の特別枠を除く)
アメリカはハワードの娘のアリスちゃんだろ。
超大国アメリカと同列に1枠ゲットしてるクライ国、どんだけ勝ち組なんだよ。
45 :名無しさん@国際政治:
共和国がさっき緊急会見開いてたぞ。
「特定の国籍のみを優遇するのは国際法違反であり、不当な差別だ。我が国のエリートも無条件で受け入れるべき」ってキレ散らかしてた。
51 :名無しさん@お掃除済み:
>>45
源田「当院は完全な自治権を持っている。文句があるなら国際司法裁判所にでも訴えろ。なお受付はしない」
源田さんなら平気でこれくらい言いそうwww
66 :名無しさん@受験生:
そんなことより、面接の注意事項が怖すぎるんだが。
【虚偽の申告、悪意を持った者は面接で『お掃除(物理・精神)』の対象となる】
これ、他国のスパイとか工作員が潜り込もうとしたら、その場でレイナ様に心読まれて即落ち確定じゃん。
スパイが入学する隙ゼロで草。
72 :名無しさん@社畜:
理事長が源田って時点で、少しでも嘘ついたら魂ごと差し押さえられそう。
圧が強すぎて合格発表より先に遺影の準備が必要な件。
90 :名無しさん@ヒミコ様ガチ勢:
お前ら、一番大事なこと見落としてるぞ。
【校長:ヒミコ】
これだよ。
91 :名無しさん@ヒミコ様ガチ勢:
よし、今すぐランドセル買って小学校からやり直してくるわ。
105 :名無しさん@お掃除済み:
全校集会でお話するヒミコ校長を想像して浄化された。
校長先生の訓示「みんなでおにぎり食べようねー!」
これだけで志願者一億人超えるだろ。学校行くだけで毎日『ヒール』される神環境。
130 :名無しさん@魔法使い志望:
問題は「魔力の適性」だな。どうやって測るんだ?
やっぱりツナマヨおにぎりを10秒で完食できたら適性アリってマジ?
145 :名無しさん@お掃除済み:
>>130
それただの早食い大会定期。
でもワンチャンありそうで怖いのがヒール屋クオリティ。
◇
世界中が阿鼻叫喚と熱狂の渦に飲まれている頃。
当のヒミコは、真新しい名刺の束を不思議そうに見つめていた。
そこには『魔法学院 校長 ヒミコ』と印字されている。
「……ゲンさん。校長先生って、何する人?」
ヒミコが小首を傾げると、源田はコーヒーカップを置き、不敵に笑った。
「一番偉い奴だ。お前がルールを決めていい」
「ルール……」
ヒミコの瞳が、きらりと輝いた。
「じゃあ、学校の給食、毎日おにぎりにしていい? ツナマヨの日と、しゃけの日と、梅干しの日!」
「……栄養士が泣くぞ。まあ、好きにしろ。お前がトップだ。だが、毎日おにぎりだと生徒から苦情が来るかもしれないぞ」
源田は呆れながらも、ヒミコの頭を軽く撫でた。
「大丈夫。ツナマヨ食べたら、みんな笑顔になるから」
ヒミコは名刺を胸に抱きしめ、港区の夜景が広がる窓の外を見た。
かつては冷たい研究所のベッドで「データ」として生きていた少女。
それが今、自分の「学校」を持ち、新しい生徒(お友達)を迎えようとしている。スパイのような悪意を持った人間は、レイナの目と源田の面接で弾き出されるため、この学び舎に足を踏み入れることはできない。入ってくるのは、純粋に魔法を学ぶ者たちだけだ。
「……みんなでお掃除して、おにぎり食べる。楽しみ」
ヒミコの無垢な笑顔は、国家の思惑も、ネットの狂乱も、すべてを平和なツナマヨ色に染め上げてしまうほどに輝いていた。
世界がどう喚こうと、ここは彼女の聖域だ。
新時代を牽引する「魔法学院」の門が、いよいよ開かれようとしていた。
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