シーン4:.王子側の判断確定
王子の周囲では、定期的な状況整理が行われていた。
それは会議と呼ぶほどのものではなく、報告と確認が重なるだけの、日常的な作業に近い。
側近は、王子の対人関係を簡潔に整理する。
衝突は発生していない。
誤解の兆候もない。
感情的な混乱を示す記録も存在しない。
学園側からの報告も同様だった。
規律違反なし。
不適切な言動なし。
周囲の生徒との摩擦も確認されない。
教師は、それを評価と呼ばない。
ただ、事実として確認する。
「特に対応事項はありません」
それだけである。
判断は、自然に収束していく。
管理は不要。
介入も不要。
注視の優先度は、低い。
誰かが意図的に決めたわけではない。
問題として扱う理由が存在しない以上、
制度は次の案件へと関心を移すだけだった。
この過程で、ひとつの位置づけが静かに確定する。
主人公は、
物語的な危険因子ではない。
衝突を引き起こさない。
秩序を乱さない。
是正や排除の対象にならない。
同時に、
物語的な推進力でもない。
状況を動かさない。
関係性を変質させない。
次の展開を呼び込まない。
王子自身も、その整理を受け入れる。
問題が解決した、という感覚はない。
そもそも、解決すべき問題が提示されていない。
彼が選好しているのは、ただ一つの状態だった。
問題が発生していない状態が、
そのまま継続していること。
それは安堵でも、達成感でもない。
管理者として、王子として、
最も負荷の少ない状況が維持されている、という事実確認に過ぎない。
こうして、彼女は
注意を引く存在でもなく、
排除される存在でもなく、
日常の中に静かに配置され続ける。
世界はまだ、
この静けさに意味を与えようとはしていなかった。




