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乙女ゲーのヒロインに転生するも王子が好みではない  作者: 南蛇井


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シーン3:世界の戸惑い

公式の場を離れたところでも、接触は避けられなかった。

廊下の角で、偶然に歩調が合う。

行事の準備中、短い待ち時間が生じる。

誰かが席を外した一瞬、非公式と呼べる間が生まれる。


そこで王子は、ごく軽い働きかけを行う。


冗談とも言えないほどの軽口。

場を和らげるための、形式的な気遣い。

言葉にしない視線や、沈黙の共有。


それらは、誘いではない。

試みですらない。

ただ、関係性が自然に変化する可能性を含んだ、ごく弱い刺激に過ぎない。


主人公は、それらをすべて同じ方法で処理する。


冗談は、冗談として受け取る。

意味を広げず、適切なところで軽く返し、終わらせる。


気遣いには、礼を述べる。

感謝は示すが、感情の色を付けない。

それ以上の反応は添えない。


視線が交わっても、そこに意味を返さない。

間が生じても、沈黙を膨らませない。

ただ、必要な時間が経過するのを待つ。


その態度は、冷淡ではない。

無視でも、拒絶でもない。

不作法な振る舞いは一切含まれていない。


だが、感情が立ち上がらない。


驚きも、照れも、動揺もない。

無自覚な反応が、次の行動を呼び込むことがない。


王子は、その応答を自然に受け取る。


不快ではない。

踏み込みすぎたとも感じない。

同時に、深掘りすべき兆候も見出せなかった。


彼の内的な処理は、簡潔にまとまる。


――特に問題は起きていない。

――距離感は、適切である。


そこから先を考える理由が、発生しない。


軽度の誘因は、誘因のまま消える。

反応が返らないことで、未成立のまま完結する。


こうして、天然や無自覚によって起動するはずだった出来事は、

失敗することも、否定されることもなく、

ただ、起きなかったものとして処理されていく。


誰も、それを不自然とは呼ばない。

正しく応答され、正しく終わっているからだ。


世界はまだ、

この「起きなさ」を、異常として認識していなかった。

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