〝本来〟の主人公アスター
「が、はァ……!!」
同時に断末魔を叫び、ふたりの男が倒れる。
ウィング・シティ第3警察署署長アラビカVS最重要指名手配犯カルエ・キャベンディッシュ。
勝者、カルエ。
「カルエ!! しっかりして!!」
ルキアはカルエを揺さぶる。バチバチッ、と彼の身体は帯電していて、目には覇気がない。いまにも死んでしまいそうな状態である。
「はあ、はあ……。カルエはどうなった?」
胸の激痛に悶えるマルガレーテは、胸元を手で抑えながらカルエたちのもとへ向かっていく。そして、彼女の顔は真っ青になった。
「おい……、ソイツ、死ぬぞ?」
「え……っ」
「早くあたしの囲ってる病院へ連れて行こう。もう一秒すら惜しい」
カルエを受け入れるまともな病院などない。ここはマルガレーテの言うように、闇医者でもなんでもすがるべきだ。
と、思っていたら、
「ボス。火の粉が飛ばなくなったが、カルエは無事なのか?」
テレポートのギアを持つ、マルガレーテの右腕ジーターが現れた。彼は両手に眠りこけているカリナを抱えていて、カルエを見た途端すべてを理解したらしい。
「とりあえず、テレポートだ。まさかこんなガキがアラビカに勝つとは」
仰向けに倒れ、焦点が溶けているかのように合わないカルエの身体に触れ、ジーターとカルエは消えていった。
「まあ……、共倒れかもな」
そう言い残したのを、ルキアは聞き逃さなかった。
「とにかく、もうここは安全じゃねえ。カルエのことを思うのは良いが、オマエまで死んだら意味ねえぞ? ルキア」
「……、カルエは死なないわ」
「知ってるさ。あのアラビカに勝った男が、そう簡単に死んでたまるか」
焼死体になっていくアラビカを眼中にも入れず、ふたりの無法者は警察署から去っていく。
*
「汚職警官がやられた?」
赤髪の少年は、怪訝そうな表情だった。
実のところ、アラビカを襲撃しようと画策していた者はカルエだけではない。彼は恨みを買いすぎているので、一矢報いるために汚職警官へ挑もうとする馬鹿は絶えない。
が、この少年は一矢報いるどころか、アラビカを倒そうと思っていた。
「ええ、犯人は最近MWFに指定された無法者カルエ・キャベンディッシュよ」
傍らには少女もいる。長い髪でアルビノの少女だ。
「根性あるな。こりゃ、おれも負けてられないぜ」
「勝ち負けの問題じゃないでしょ。肝心なのは、貴方の目指すウィング・シティに一歩近づいたこと」
「いやぁ……」
赤髪の少年は、ニヤリと笑う。
「男だったら強ェのに憧れるモンさ。いつか手合わせ願いたいね、カルエ・キャベンディッシュ」
赤髪の少年。いまはまだ名前をあげているとは言えない存在。それでも、近々最重要指名手配犯に指定されるであろう存在。そして、ウィング・シティを変革する者。
そんな本来の主人公アスターの態度は、本来のヒロイン、ベルファを呆れさせるだけだった。




