ファスタが引き抜かれた そして誰もいなくなった
「いやいやいや、そのりくつはおかしい」
ようやく再起動を果たしたラステが、サートの脱退を止めようと割って入ってきた。
「つーか何なんだよお前らあ!何で急にこんな示し合わせたように!」
全員が異なる理由で脱退を決めているわけで、示し合わせたわけではない。が、偶然かというとそういうわけでもない。スタットの解雇がきっかけで連鎖的に脱退が相次いだだけだ。それは金銭面での理由もあるが・・・。
「いやはや、わが雇い主殿はなんとも人望のないことだ」
ファスタの言葉が、最大の理由だったのではないだろうか。
「サート様の脱退手続きが完了いたしました」
「あ、ども」
サートはごくあっさりと。
「じゃあリーダー、じゃなくて元リーダー、またそのうち!」
フォイはおどおどしながら。
「さっき言った気もするけど・・・さよなら」
スタットは仏頂面で。
「まあもう会うこともないだろうけど」
そして、セカンはあくまで丁寧に。
「長年ご交流いただきありがとうございました」
そして付け足された爆弾発言。
「ああ、【星と雷】の資産は相当目減りしたので、あまり贅沢に散財しない方がよろしいですよ」
「はあ?!」
スタットはゼロだから除外するとして3人分の退職金を支払った【星と雷】の資産はのこりわずかとなっていた。それこそ・・・。
「吾輩の労働報酬には影響はないのでしょうな?」
ファスタに支払う報酬の余裕などないほどに。これからの【星と雷】は、国際司書なしで財宝の情報が記された古文書を集め、翻訳家なしで古文書を翻訳し、盗賊なしで謎掛けを解読して前衛職2人だけでダンジョンを攻略していかなければならないのだ。今まで通りの収入が期待できるはずもない。
「あ、そうだ。ファスタのおっさん」
「何だ小僧」
「俺らこれから帝都に行くんだけど、前衛職が足りないんだ。もしよかったら、こっちに来ないか?」
「スタットおおぉぉーっ!」
リーダーの目の前で堂々と引き抜きをやらかすスタットの行動に、ついにラステが我慢の限界を超えた。剣に手をかけ、ギルドの中だというのに一気に抜き払う、完全な戦闘態勢だ。当然スタットはラステがそのぐらいやらかすであろうと予測はしていたが。
「てめえだけは!追放だけじゃなくてぶっころおーっ!」
ラステの剣技にスタットが勝てるはずもない。が、ここはギルド内である。警備スタッフが即座に反応・・・。
「緊急召喚【アーティラリー】!【ファニング】!」
突如としてラステの目の前に巨大な魔法の大砲が出現し、2発を立て続けに放った。ほとんどひとつの音にしか聞こえないほどの速射であった。ラステは避けることも防ぐこともできず正面からこれを受けて吹き飛び、壁に叩きつけられた。
これを撃ったのは警備スタッフではなく。
「こんなところで何てことをするんですか!危ないじゃないですか!」
セカンに精算書類を渡した後、諸規則について説明を続けていたギルド職員の女子であった。
「え?お姉さん警備の人?」
てっきり警備スタッフが飛び込んできてラステを取り押さえてくれると考えて行動していたスタットが戸惑ったように質問する。
「ではないですけど、このぐらいはできないと冒険者さんたちの相手はやってられませんから。あ、警備さんたち、ラステ様を奥の部屋に連れて行ってくださいな。あとでちょっとお話しないといけないので」
今度は本当に警備のスタッフが駆けつけて、気絶しているラステを担ぎ上げて運んで行った。
「あんな召喚魔法初めて見た」
魔法使いのフォイでも驚くような特殊な魔法だったらしい。これはアーティラリーという大砲を何もない空中に出現させて発射する魔法だ。緊急召喚とつくとおり素早く扱えるのが特徴だが、消滅も早い。ファニングと呼ばれる射撃方法によって連射することで召喚時間の短さを補うことができるが、これはかなりの高等テクニックである。ギルドの受付嬢がとんでもない魔法技術の持ち主であったことを知って、旧【星と雷】メンバーズだけでなく周囲にいた冒険者たちも驚いていた。
「あ、そうだ。話を戻すけど」
「おおう、そうだった。吾輩を・・・どうすると?」
「【星と雷】でまともな報酬が期待できると思うなら断ってくれても構わないが、俺たちと一緒に帝都に行かないか?そのあとは古文書を調べて財宝を探す冒険の旅だ」
「なるほど、悪くない」
「国際司書と、古代文字の解読ができる魔法使いと、どんな暗号でも解いてしまう盗賊と、旅慣れた荷物運びのパーティーだ」
「それは十分な報酬が期待できそうだ。よろしい、受けよう。【星と雷】の契約には途中解約の違約金が設定されていなかったから、今抜けても文句を言われる筋合いはないだろう」
交渉が成立した。
「ところで、リーダーはセカン殿か?」
「あ、私は帝都の図書館で働く予定だから旅にはついていけないわよ。探してほしい資料があったら手伝うぐらいはできるけど」
「となるとフォイ殿・・・は小さすぎるか。サート殿か」
「いやいやいや、私がリーダーになったって普段は単独行動だし」
「となると・・・消去法でひとりしか残りませんな」
「決まりね」
「まあ・・・いいんじゃない」
「いいと思うよ、一番に新パーティ立ち上げたようなものだし」
まさか自分がリーダーになろうとは、それも一応形式的には満場一致でなどと思ってもいなかったスタットは言葉もない。しばらく目線を泳がせていたが、やがて心を決めたらしく4人の仲間たちをしっかりと見て言った。
「ファスタ、セカン、サート、フォイ。これからよろしく」
こうして、高ランクパーティ【星と雷】は事実上消滅を迎えた。
スタットの脱退から4時間55分後のことであった。
リーダーが負傷して離脱した【星と雷】構成員がゼロとなったのでパーティは消滅しました。
ラステにはソロでがんばってもらいましょう。これにて自滅RTA完結となります。ありがとうございました。