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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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ジェラルドの秘密

「俺は詳しいことは知らない。ただ、ブルーノが自慢げに『俺たちは女王の命で精霊王の森に行った』と言うのを聞いたことがある。何か悪事を働くためだろう、とは思ったが…。池に毒を……とか、そんな話をしていた気がするがよく分からない」


ジェラルドの言葉を聞き、精霊王様の目が鋭く光った。


激しい怒りが伝わってくる。怖い。


「なるほど…間違いないな。女王が破落戸を雇ったと…そういうことだな。女王がこそこそと雇うのは……疚しい汚れ仕事をさせるためか。女王に仕える騎士たちは主君がそんな連中と接触していることを知らないのか? もしくは騎士にやらせるとか……」


ジェラルドは頷いた。


「現状、近衛騎士団は王都の治安を守るので手一杯だ。人間を襲う魔物も出てきて王都から逃げ出す人が増えている。騎士団長は誇り高い男だ。女王の欲望のための汚れ仕事など引き受けないだろう」


騎士団長はモニカさんのお兄さんだ。頑張ってくれているんだな。


「王都の民衆が逃げていく代わりに破落戸や怪しげな術を使う輩が王都に入ってきている。女王は、辺境伯領の町や村は強姦、略奪し放題だと言ったらしい。ある程度戦力になりそうな人数が集まったら、ゲリラ的に町や村を襲うつもりだ。民衆に罪はない。対策を講じた方がいい」


ジェラルドの表情は強張っている。それを聞いたティベリオの顔色が変わった。


「分かった。隣の領地に近い町や村の警備を強化しよう。早急に対策する」


それを聞いてジェラルドは安心したように微笑んだ。


「ブルーノとかいう破落戸がどこにいるのか分かるか?」


精霊王様は腕を組んで熟考した後、ジェラルドに尋ねた。


「……奴らは辺境伯領の下調べをしているはずだ。どこの町や村が襲いやすいか……。ブルーノからの情報を受けて辺境伯領への襲撃を開始するのだろう」

「なるほどな。よし……」


そう呟いた精霊王様は何かを念じているようだった。


すると、すぐにココとピパが現れた。精霊王様が耳打ちすると二人は頷いてまたポンっと消えた。


多分だけど……奥方様を殺そうとしたブルーノたちを探すよう指示したのだろう。


その後、精霊王様は体の向きを変えてジェラルドの顔を睨みつけた。


「……破落戸の話はさておき、私はそなた自身に非常に興味がある。……何故精霊王の血を引く人間がこんなところに存在する?」

「精霊王様の血筋!?」


思わず叫んでしまった。だって、精霊王様の血筋を引く人間なんて……あり得るの? 転生した時のお爺さんもそんなこと言っていなかった、と思うよ。


ジェラルドも驚愕のあまり口をポカンと開けている。なかなか見られない表情だ。


「…は!? 何の話だ? 俺が? 精霊王の血筋?! あり得ない!」


他の面々もそれぞれ信じられないという顔つきで呆然としている。


「お前の両親は何者だ?」


精霊王の問いにジェラルドは赤ん坊の時に死んだ、と答えた。


「ただ……俺の母親はムア帝国先代皇帝の娘の一人だった」


えっ!??


「ユリアには話さなかったが…。皇女と言っても先代皇帝には男女合わせて五十人以上の子供がいた。その中でも俺の母親を産んだのは身分の低い妓女だったらしい。皇女の一人として正当に扱われたことなどなかったと聞いている」


ジェラルドが淡々と説明するのを、私たちはただ聞くしかなかった。


「……父親のことはまったく分からない。一応皇女だった母親は皇都の城に住んでいたが駆け落ち同然で城を飛びだした、と養母は言っていた。養母のイリスは母親の侍女で行動を共にした…らしい。実母とは生涯の親友だった」


ジェラルドが珍しく声を詰まらせた。


「両親とイリスは遠隔地の村に落ち着いて幸せに暮らしていたそうだ。やがて俺が生まれた。ところが、素性も分からない男と駆け落ちした皇女を許せないと先代皇帝が刺客を送り両親を殺した…そうだ」


精霊王様の目が鋭く光り、恐ろしいほどの怒りを感じた。


「恐らく…妻を最初に殺したのだろう。夫の方を人間ごときが殺せるはずがない。愛する妻が殺されたのを見て、絶望して自ら死を選んだに違いない」


精霊王様の確信めいた言葉を聞いて、ジェラルドは驚いたように目を瞬かせた。


「何故それを……? イリスの話だと、目の前で妻を殺され父は怒り狂い刺客らをその場で全滅させたそうだ。その後、母親の遺体に縋りついたまま二人で石になったと……。本当かどうか分からないが、そういう風に聞いている。……あなたは父親をご存知なのですか?」


精霊王様が納得したように頷いた。


そして大きく溜息をついてジェラルドを見つめる。


「ああ、そなたの父親は…おそらく私の兄だ。兄は数十年前に人間の娘に恋して人の世界で生きることを決めた」


その場にいた全員が息をのんだ。


「兄はルーペースといって岩石に宿る精霊だった。普通の精霊には実体がない。人間との間に子供が作れるのは実体を発現させられる精霊王の血を引く者だけだ。だから精霊の血を引く人間がいるとしたら、それは当然精霊王の血筋になる。そなたを見た時、直感的にもしかしたら、とは思ったがな…」

「精霊王の血筋だから魔法が使えるし、精霊を見ることもできるのか?」


ジェラルドの言葉に精霊王様は頷く。


「そうだな。ルーペースはムア帝国にある鉱山を訪れるのが好きだった。ムア帝国で偶然ルーナという皇女に出会い恋に落ちた。ルーペースは精霊王の座を継ぐ予定だったが全てを捨て人間の世界に飛びこんだ。ひっそりと幸せに暮らしていると思っていたのに…。まさかそんなことになっているとは!」


固く拳を握り締めて精霊王様は悔しそうに自分の腿を叩いた。


ジェラルドは話を続ける。


「両親が殺された後も俺はイリスに引き取られ平穏な生活を送っていたんだ。だが先代の後を継いだ現皇帝が、魔力を持つ人間がいるという噂を聞いてしまい…。利用価値があると思われてしまった。イリスを人質に取られて皇帝の都合で使われる道具になりさがった…」

「ほぉ、知らぬとはいえ精霊王の血筋の者に随分不遜なことをしてくれる…」


精霊王様の目がギラリと光り眉間の皺がさらに深くなった。ジェラルドは深くため息をついた。


「お前たちの国の女王とムア帝国は密かに手を結んだ。次に女王が辺境伯領に侵攻する時には背後からムア帝国が襲ってくる。同時侵攻だ。戦に買ったら辺境伯領がムア帝国の領土になるという条件で……。その代わりに女王が要求したのが聖女の奪還だ」


ティベリオが「なんだと!?」と立ち上がる。


ムア帝国は不可侵条約を結びたいと伝達してきた。それは…罠、ということだね。油断させておいて辺境伯領に侵攻し、その領地を自分のものにするつもりか……。女王がそれを認めたということが驚きだ。自分の領土が減るってことだもんね。それほど切羽詰まって魔力が必要なのか…?


不可侵条約なんて申し出ておいて影でそんな動きをしていたのか…。やっぱり油断はできない。外交ってホントきな臭いな。


「俺は辺境伯領に間者として送られてきた。聖女が逃げこんだ後の辺境伯領を探ってこいとムア帝国から派遣されたんだ。その後、ブルーノやガイウスと協力して聖女を誘拐し王都に連れていけという命令に変わった」

「なるほどな…。汚いやり方だ。イリスはまだ人質になっているのか?」


精霊王様の質問にジェラルドは悔しそうに頷く。


「聖女を女王のもとに連れていけば人質を解放する約束だったが…。聖女がいなくなった今、その約束は反故にされてしまっただろうな」

「愚かな人間たちに精霊王の一族を敵に回したらどうなるか教えてやらないと…」


ニヤリと嗤う精霊王様を見て冷や汗が背中をツーっと伝うのを感じた。



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