25.モブ
未遭遇だったハブガ攻略対象キャラと出会えた私は、憂鬱な気分も忘れふわふわした足取りで本校舎へ入った。
一年生であるコリンくんには、一年の教室か出没スポットの音楽室へ行かないと、滅多に会うことができない。
ゴールデンロッド学園では一年生が三階、二年生が二階、三年生が一階の教室を使用している。
また、コリンくんの出没スポット音楽室も三階にあるため、ハブガでも遭遇率の低さは上位に入るキャラだろう。
まあ好感度が上がれば遭遇率も上がるのだけど、モブには関係のない話だ。
そう、本来のモブの立ち位置は、あんな風に当たり障りのない会釈をされるくらいのものなのに。
段々とモブとは言えなくなっている自分の立場を思い出し、脚が震える。
だけど…
いつの間にか差し掛かった玄関ホールで立ち止まると、下駄箱を眺めた。
下駄箱スルメ事件。
あの時、ポプリに声をかけたことが、全ての始まりだったのかもしれない。
あの時ポプリに声をかけなければ、私はモブに徹することができたのかもしれない。
では、今にも泣き出しそうだったポプリを見て見ぬふりしていたら良かったのか。
……しなくて良かったと思う。
むしろ声をかける勇気を持てて、良かったと思う。
ぼんやりと下駄箱を眺めていた私は、不意に誰かに頭を掴まれた。
「よぉ、クレナ=ローゼル。張り込みか?」
「キャラウェイ先生…」
「うちの妹と一悶着あったんだって?やっぱ変わったよなぁお前」
私の頭を固定し、なんなら指圧しながら言う俺様教師に驚きながらも、ふと口許が緩んだ。
ゲームのキャラ設定は横暴な俺様教師。現実にいたらお近づきにはなりたくない存在である。
でも実際関わってみたら、意外と生徒をよく見ていることが分かった。
いい先生と、言えるんじゃなかろうか。
「先生、モブがでしゃばっても良いと思いますか?」
ふと、そんな問いが漏れていた。
端から聞けばまったく意味の分からない問いかけだ。
だが、キャラウェイは私の頭をぺしっと叩くと
「俺様以外全員モブなんだから、気にせず好きなことすりゃいいんだよ!」
と、ふんぞり返って言い放つ。
何とも俺様な言い分だけど、その軽やかさが私には有難くて、思わず声を出して笑っていた。
目尻にちょっとだけ涙が溜まっていたのは内緒だ。




