12.この世界での葛藤は
スルメが異世界転移の産物だったことが判明したところで予鈴がなった。
隣国の港町に住むヨヘイさんの人生は気になるところだが、とりあえず授業に戻らなくては。
時間を取ってしまったからと店の片付けを手伝おうとしたが、
「誰かに見られたらお嬢さん困るんじゃないですか~?」
というクリストフの提言で、一足先に校舎に戻らせてもらうことにする。
クリストフからは困ったことがあればいつでも相談にのると言ってもらったし、レイヤードもいるし、私の転生生活は中々に快適なのかもしれない。
……いや、なんか、快適すぎて、こう、逆に物足りないかもしれない。
この世界にない知識とか出ちゃったらどうしよう!先の展開読んでるのがバレて問い詰められたらなんて答えよう!でも、一人で乗り越えなきゃ…そう、この世界に転生者は私だけなんだから…!みたいな葛藤はこの先登場しないことが確定したわけだ。
まあ、困らないに越したことはないから、いいんだけどね!
微妙な気分のまま午後の授業も終わり、寮に戻る。
学生寮は石造りの建物であり、その外観は古めかしく、質実剛健!という感じで、貴族の子供達が暮らす建物と言うよりは騎士団の駐屯地である。
いや、乙女ゲー的にどうなのこの寮!もっとこう、華やかなのあるでしょ!とは思うが、ハブガの世界なのでしょうがない。
そしてこの乙女ゲーっぽくない寮でももちろん乙女ゲーイベントは発生するのだが、ポプリが編入したての頃とか夏休み前とかあとは冬イベントの頃なので、今のところは特にないだろう…と、考えて思い出した。
『恋するハーブガーデン』はポプリ=カモマイルが編入してくる5月から聖バーベイン祭のある12月25日までのストーリーである。
聖バーベイン祭に学園で行われるダンスパーティーで、お目当てのキャラとダンスを踊るのが最終目標なのだ。
各キャラとのエンディング後のエピソードが追加決定!という公式からの発表があったのは、そう、私が死ぬ前日のことだった。
──今となってはもはや見ることは叶わない幻である。




