行きつく先は
聖女様、危うし!
俵担ぎされていい加減疲れた聖女様は、ゲホが出そうと呟いてみた。
効果覿面で、晴れて肩から降ろされお姫さま抱っこにと進化した。
観客が居れば、美男美女のカップルにホォ~~となっただろうが。
残念ながらここには誰も・・蝙蝠しか居なかった。ケイはかなり息が上がっていたが、どうにかこうにか付いてきていた、かなりの俊足のようである。実のところは聖女様が、ケイに癒しの魔術を常に送り続けていたからなのだが・・。
「この扉を開ければ有る所に入りこむ、君は此処でしばらく待っているように」
ジャンビから支持が出た、以前のケイならば喜んで従っていただろう。
「いいえ騎士ジャンビ様、それはなりません。聖女様を女性の傍仕えが一人も居ない状態で、男性だけにお任せして行かせる訳にはまいりません。聖女様の名誉に関わります!私は、絶体お傍を離れません!」
ケイは必死で訴える。
「へぇ、おまえが死ぬ事になってもか?」
ヴィが挑発するように吐き捨てて、馬鹿にしたようにケイの顔を覗き込む。口の端が少し上がっていて、あざ笑っているような気分の悪くなるような顔だ。
「お供いたします」
ケイの決意は変わらなかった、強い目でヴィを睨み返す。
その様子を黙って見ていた聖女様は、襟の後ろ・・薄手のマントに隠れて目立たない様に付けてある黒い石を気づかれないように・・ブチッと外してそっとケイに手渡した。『持って居なさい』目線で指示を出す。
死ぬ事になるとは・・多分、魔力の強い王宮の一部に入り込むのでしょう。
黒は【厄除けの石】と、あの子が言っていた、ケイの守りに成りますように・・聖女は密かに祈っていた。
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扉を開けても、そっけない石を削りだした階段が続いていたが、何回か扉を開ける度に段々と豪華になって来た。壁の石も、ほのかに黄色味を帯びた石になっていて・・王族の黄金と呼ばれる大理石の様だった。
王宮の噂話はケイも聞いていた。
黄金の大理石・・平民は陰で、PISS色の大理石と悪口を言っていたが。
『PISS色としたら、随分と水を飲み過ぎた様な薄い色だわ』
最後に、殊更殊更大げさで、豪華なキンキラが付いた扉を開けると・・此処はもう王宮の最深部だった、王族の住まう部屋が並ぶ後宮の一角に出たのだ。貴重な鏡なども壁に飾られ、絵画や、彫刻や・・もう、盛り沢山でお腹一杯な感じの部屋だった。神殿には見られない、贅を尽くした調度品にケイはただただ驚くばかりだ。漂う魔力も強いのだろう、ケイは少し気分が悪くなってきた、眩暈がして吐き気がする。しかし聖女様に渡された黒い石を、胸の近くで握りしめると呼吸がだいぶ楽になったきた。ケイはそっとヴィ達に気づかれない様に、黒い石を胸の内ポケットにしまった。
『聖女様はやはり素晴らしいお方だ、こうなることを見越して、私にお守りを下さった』
しかし、その素晴らしいお方は・・抱かれて揺られ続けたのが悪かったのか、部屋に着いて見てみたら、なんと意識が無かったのだ。
「あぁ、聖女様なんと御いたわしい。其処の長椅子に横になって頂きましょう、騎士様気を付けて運んでくださいませ」
ジャンビも夢中で走ったので、聖女の様子はチェックしていなかった。驚き慌てて長椅子に横たえる。大丈夫だろうか・・。やはり貴婦人には厳しい道中だったか、聖女に思わず手を伸ばしかけたがケイに邪険に払われる。
「聖女様に、むやみにお触れにならないで下さいませ!」
忠犬が、ここにも爆誕していた。
「そうとも、彼女に触れて良いのは、この私だけだからね」
突然の声に驚いて振り向くと、其処には余りにも派手な服装で、泣き黒子が・・あんたそれ、大きすぎるんじゃね?みたいな優男が立っていた。
「誰・・・」
「ほう、この私を知らないとは。無理はないか、つまらん神官の身では高貴な公達の顔は拝めないだろうからな」
嫌な奴を実体化して、服を着せ、声を当てたようなキンキラが鷹揚に喋る。
ジャンビが膝をつき騎士の礼を取った。
「君も跪きなさい、この方は第1王子様だ」
ケイは驚き、震えてながら、ジャンビの後ろに回り跪き下を向いた。
『この方が、この方が噂の・・・顔だけ王子!』
ケイが思慮深い少女で良かった、詩乃ならそのまま口に出していた事だろう。
「約束通り連れて来てやったぜ、気を失ってはいるがどこにも怪我はねえ」
此方は約束を守った、今度は其方も約束を果たしてもらおうか。
ヴィは王子に膝を付くことも無く、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま態度も悪く言い放った。
「約束?この私が、お前の様な下賤な者達と約束をするとでも?」
「王子、それはあんまりでございます。」
ジャンビが膝でにじり寄りながら、王子に訴える。
「聖女様を貴方様の御前に御連れしたら、軍の指揮権は第2王子から、この私へと移していただけるお約束でしたよね。此処に約束の書状もございます」
胸の内ポケットから書付を取り出した。
「軍はもう第2王子の圧政で疲労困憊なのです、このままではもう平民騎士達も大人しく従ってはくれません。軍が瓦解すれば、地方の平民にもこの王都にも害が及びます。もう国中の何処もかしこも、ギリギリのところで何とか持ち堪えている有様なのです」
盛大に泣きが入った。
「ふん、その方達が不甲斐ないから、第2王子などに良い様にされているのではないのか?」
そう言いながら、王子は聖女の元に近づいていく。
ケイは思わず聖女を庇おうと、ジャンビの後ろを飛び出し、王子の進路を塞ぐように膝を擦って移動した。恐ろしさから体は震え続けていたし、目はきつく瞑っていたが、それでも両手をひらいて通さない意思を示した。
「ふん、聖女に集る小蠅めが」
王子が軽く手を振ると、ケイの身体が吹き飛び壁に激突した。そして、そのまま床に落ちバウンドし、ピクリとも動かなくなってしまった。ケイの傍で膝を折っていたジャンビも、口の端から血が滲んでいる。
『腐っても王族か、魔力だけは強いぜ』
だから死ぬって警告しただろうによ、融通の利かない女はこれだから面倒だ。
死体を葬るのも、案外面倒臭いものなんだがね・・ヴィは腕を組んだまま王子を睨みケイの方を見もしない。その王子もケイの様子を気にする事も無く、優雅に歩を進めると聖女の眠る長椅子の傍らに立った。
「物事には順番と言うものが有る、まず聖女を手に入れ、その聖女に選ばれ、王太子として認められなければ軍を動かす事など出来まいよ」
王子がパチッと指をならすと、風采の上がらなそうな魔術師のローブを着た男達が数人部屋に入って来た。
「お前達は、もう何度も失敗している・・次は無いものと思え」
「ふん・・誘惑の魔術か・・・」
馬鹿にしたようにヴィが笑う、ジャンビは目を固く瞑り下を向いた。
「本来はこんなものに頼らずとも、この私に会いさえすれば聖女の心も靡いたのだろうが・・。惜しい事よ、神殿何ぞに籠って貝のように固く心を閉ざし、誘い出したくても出て来もしない。これでは愛を囁き様が無いじゃぁないか、全く持って無粋の極みとはこの事だ」
・・・これは不本意ながら、非常手段なのだよ。
「はじめろ」
王子の指示で、魔術師の男たちが動き出す。
聖女様の長椅子を円形に囲み、魔術陣を展開する、低く不気味に呪文が唱えられ始める。魔力が渦を巻き始め、暗い影を落とし聖女の身体に近づいていく。王子もヴィも笑っている中、俯き跪いているジャンビの拳は震えていた。
****
そのころ、②は側近の秘書官達に本当にグルグル巻きにされ、御神輿のように担ぎ上げられながら軍の広場まで連れてこられていた。
「何だ!プマタシアンタル!!俺は忙しいのだ!下らない事だったら、容赦しないぞ下らない」
吠えている、元気そうで何よりだ。
ロープを解かれようやく解放されると苛立ちは極限に達していた、バルコニーの前に呆然と突っ立っている忠犬の肩を乱暴に掴み、脇に付き飛ばそうと呼吸も荒く前に躍り出た。
怒鳴ろうとした口が半開きになり、呼吸が止まる何より・・喉がヒュッと鳴った。
『・・・なんだ・・・これは・・・』
軍の広場には、詩乃の作ったカラーボールで染色され、蛍光色のオレンジ色に染まった大勢の平民の騎士が座り込んでいた。チンチクリンの描いた地下通路にいた、赤い点々よりも数が多いのは、どう言う訳なのだろうか。軍の広場は今、一面のオレンジ色で光り輝いていた。
詩乃は防犯カラーボールを作る時に、密かに<レッドジャスパー>と言う石を、粉末にして混ぜ込んでおいた。
「レッドジャスパー」
・・・腐れ縁的な関係を、清算したい時に役立に立つ石。
相手への依存心や優柔不断を解消し、新しい人間関係を助けてくれる石と言われている、嫌いな人にパワハラ・セクハラされて困った時にも有効な石である。心配事を抱えて、イライラしている時にはストレスも解消してくれる優れもの。古代ペルーでは魔除けとされ、危険や災難から身を守ってくれる聖なる石と思われていた・・だそうだ。
A平民騎士達も困っているなら、自分から意見を発言しなきゃね。
今は身体全体に魔除けが染まっているんだから、大丈夫・・多分だけどね。
頑張って、②なんかに負けないで、自分の権利を守らなきゃ。
聖女様やオマケなんかに、頼っていたら駄目でしょうが・・・大の男が。
最もらしい事を言っているが、要するに自分の事は、自分でして下さいって事だね。
人は、これを「丸投げ返し」・・・と呼ぶ。
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言葉も無く立ち尽くす第2王子、傍らには騒ぎを聞きつけてやって来た王妃が立っていた。
「前代未聞の珍事ですわね、これをどう収めるかによって、貴方の資質が問われる事でしょう。・・存分になさい、そのうち第1王子も此処にやって来るでしょう、聖女は貴方の裁きを見ていますよ』
アドバイスと言うより、脅迫めいた言葉を残し、さっさと後ろに下がってしまった。気が付けば、バルコニーには高位の貴族ほか有力な地方貴族など、大から小まで大勢の貴族が詰めかけて王子の去就を眺めていた。
②は、冷たい汗が背中に流れて行くのを感じていた。
【あなたは、平民も泣いたり喜んだりする、同じ人間だと思う心が無い】
チンチクリンの声が聞こえて来る様だ、すべて俺1人の責任だと言うのか。
何をするべきか、何が出来るのか・・心が決まらない②の後ろで。
「第1王子様と聖女様の、御成りでございます。」
2人の登場を知らせる、侍従の声が響いた。
②王子絶体絶命!




