追いかけっこ
追いかけられるのは(物理)は、お好きですか?
暗いトンネルの中を、指先をわずかに光らせて、布団騎士ジャンビは進んでいる。
後ろを歩く聖女を支えているのは、神殿の下位神官の少女、傍付きのケイだった。そのケイは聖女の衣装が汚れないようにと、裾やベールを持ち上げながら苦労しつつ、よろける聖女の腕を取り震えながら歩いていた。石畳や掘り抜いた石がむき出しの地下通路は女性の華奢な靴では歩きにくい、特に今日の聖女様の靴はパーティ用のピンヒールだ、これでは距離は稼げ無い。
さらにその後ろには、機嫌がよさそうに鼻歌交じりのヴィが、ゆっくりと続いていた。聖女達には気付くことも出来ないだろうが、地下通路の彼方此方には平民の騎士達が配置されていた。
平民以外の余計な騎士や魔術師に、聖女の拉致が気づかれないようにと、慎重で厳重な警備が敷かれているのだった。それだけ聖女の件は極秘裏に、邪魔が入らない様に行われているミッションなのだ。
『予定より進めていない、もう少し急ぎたいのだが。やはり貴婦人にはこの地下通路は歩き難かったか、今更引返して靴を調達する事もできないし・・不敬だがこの際抱き上げて運ぶか』
ジャンビは内心焦っていた。
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あの時、拉致の瞬間・・玄関へと歩く聖女様と傍付きの神官を攫うのは造作も無い事だった。角を曲がった途端、通路を大勢の騎士で塞ぎ、顔なじみのジャンビが騎士が控える扉を見せて
「玄関前で少々問題が発生しました、迂回の為此方からお願いします」
と嘘を付けば、簡単に誘導に乗ってくれたのだから。2人は途中まで特に不信にも思わなかったに違いない、さすがに階段を下りて行き、狭い通路に行きついた時には絶句しておられたが。
神官の若い女は取り乱して、ジャンビに抗議して来た。
「何故神殿を、聖女様をお守りする白騎士が、このような真似をなさるのですか」と。
「必要な事なのです、いつか聖女様にもご理解いただけると存じます」
詳しい話は、たどり着いた先でいたしましょう。ジャンビのその言いように。
「では、あなた方は手先に過ぎず、黒幕は他にいると言う事ですね。ならば貴方達と此処で交渉しても仕方が無い。この子の安全だけ要求しましょう」
聖女は落ち着き払ってそう答え、我々に同行してくれた、くれたまでは良かったものの。
歩くのが遅い・・・
ピンヒールの踵の靴だとかで、通路の石畳の目地に踵を引っ掛けては転びそうになっている。そのたびに、ケイが慌てて支えるているが大変そうだ。
『代えの靴を用意するべきであったか。まったく、女の靴までは考えに入れてなかった』
・・・ジャンビが朴念仁と言われる所以であろう。
「寒くない大丈夫?もっと私の傍に寄りなさい、保温の魔術が掛かっているからね、暖かいわよ」
此方の気も知らないで、聖女様は呑気な事を話している。
「聖女さんよ~、お清めの時みたいに空中に浮かんで進めないのか?」
「そうやって進んでも良いのですけれど、強い魔力が発生しますから此処でやっても大丈夫かしら?この子や周囲に控えている誰かさん達にも障るんじゃないかしら?」
食えねえ女だな・・・ヴィが呟く。
20分ほど歩いただろうか、予定の半分も進んでいないが。
「まぁ、女の支度は長く掛かるものだからな、多少の遅刻は想定内だろうぜ」
ヴィは楽観的な男だ、だからこそ悲観的なジャンビと馬が合うのかもしれない。
それが、突然。
「うわわぁぁぁ~~~何だ!これは!!イッテ~~~ェ!!!」
「化け物だ!誰か、助けてくれ~~~!!!」
大声が通路の中に響いてきた。余りにも大勢の人間が叫ぶので、反響して何方から聞こえてくるのか方角が全然解らない、音がワンワン響いて大変に五月蠅い。
「化け物?王宮に魔獣でも出たのか?」
静まれ!魔力が拾えない。ヴィが叫ぶ。
ヴィの指示も虚しく、バタバタと通路内を走り回り、逃げようとする音が彼方此方から聞こえる。こんなにも怪しい敵が近くに居るはずなのに、敵の魔力が少しも感じられない。
「なんだ?魔術師長でも、出張って来たか?面倒だな。」
聖女は小さく息を吐いた、今のセリフで魔術師達が関与した可能性は消された。第2王子は違うだろう攫う理由が無い。
残るは王妃か?第1王子派か・・それとも二人で結託しているのか?
白の神殿騎士達が、彼らの為に動く理由は?第2王子の持つ、軍の統制権を奪うつもりとか?
『はぁ、私にはまったく関係の無い事じゃない・・・いい迷惑だわ』
ヴィが立ち止まって様子を窺っていると、バタバタと走る足音が近づいて目の前の横道を通り過ぎて行った・・何と、騎士達は。
「パックン何とか?」思わず呟く聖女様。
黄色い球に追いかけられていた、球に有る大きい口には鋭い歯がズラリと・・それが口をパクパク閉じたり開いたりしている。地下通路の壁にブッかっては弾み、騎士達の周囲を飛び回る。大きな口で騎士の頭やお尻に噛り付いては、走れ~走れ~と追い立てて行く。
「痛」「いてぇ!」 「おわぁぁ止めてくれぇ~~」
クスッ、面白そうに聖女が笑った。
「あんなもの見たことねぇ、あのオマケのチビが作りやがったのか?」
狭い地下通路で剣を振り回せば、同士討ちになる危険が大きい。
チビめ、余計な事をしやがって!怒っていたヴィの顔面に球がヒットする。
「畜生!舐めた真似しやがって!」
お前らはこいつらを引き付けてとにかく逃げ回れ、チビの作った物なら殺傷能力は無い、大した怪我もしないはずだ。空いてる地下の部屋に誘い込んで閉じ込めてしまえ。いいな!」
ヴィは大きな声で指示を出すと
「ジャンビ、聖女を担げ!走るぞ!」
そう言うが早いが3人を置き去りにして走り出した、慌てて聖女を担ぎ走るジャンビ、その後を衣装を抱えて必死について走るケイ。
『・・結局こうなるのね、肩が食い込んでお腹が痛いわ』
生涯初の抱っこが、お姫様じゃぁなくて俵担ぎだなんて・・恥ずかしくて誰にも言えやしない。これが黒歴史って言う奴なのね。・・聖女様、完璧すぎて今まで黒歴史などお持ちで無かったのだが、異世界で黒歴史デビューを飾った様だ。
肩に担がれ1人暇な聖女様は、服に沢山付いている細かい光る石をブッチブチとむしり取り、通路にポトポト落としていった。
『これで、気が付いてくれるかしら?たしかこんな童話あったわね』
お仕置きされる悪い魔女は、誰かしら・・・?
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一方の詩乃はと言うと<ラリマー>を使って、聖女様の後を一人追っていた。
その途中から真っ暗な地下通路に、点々と光る詩乃が作ったスパンコールモドキが落ちている。
「あああぅぅぅ聖女様、気持ちは解るけど、これ付けるの大変だったんだけどなぁ~」と、思わず悲しくなってぼやいてしまう。完璧だったドレスにハゲが出来てしまった。
それから途中で部屋に閉じ込められていた、パクパクちゃん達を発見したので、救出し新しい指令を与えた。
「コンビニ 防犯 カラーボール!」
詩乃は何百何千と言うカラーボールを作り出すと、犯人直撃!和解するまで色が落ちないよっ!と願った。「犯人追跡、やっちまいな!」と叫んだ。
四方八方に飛んでいくカラーボール、これで駄犬が捕まえ損なっても言い逃れなんて出来ないよね。
いい仕事をした、グッ ジョブって奴だ。イイネが沢山もらえそうだね。
・・そんな事をしながら、更に追跡は続く。
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そのころ王宮に戻っていた②は、詩乃からの連絡が無いのにイライラしていた。
王宮のどこに聖女が現れるか、その場所が問題だった。異母兄弟の部屋に、何の先触れも無く飛び込んでいく訳にはいかない。王妃には使いを出してみたが、もうすでに王宮のホールに向かっていると連絡があった。だとすると、王妃は白か・・やはり、黒幕は第1王子か。
【私達の世界では無体な真似をされたら、その命を散らせと教えられていますから】
詩乃の脅しが、よほど効いているのか②は心配で堪らない。
王宮の玄関に近いホールを、青熊の様にウロウロと歩き回る。
その姿は、傷心感が溢れていて、見るものに戸惑いと・・・ざまぁ・・を感じさせていた。女は聖女に嫉妬を抱いて、男は手に入らない高嶺の花を思って・・だ。よほど肝が据わっている御令嬢でなくては、今の②にアピールする事も、声を掛ける事も出来ないに違いない。流石の貴族達も御令嬢たちも、戸惑いながら②を遠くから眺めているばかりだった。
「女官長!あの者の連絡はどうした、まだ何処か特定できていないのか!」
魔術具に何度叫んでも、反応が無い・・・何をしているんだ女官長は。
イライライライライライライライライラオラ・・・。
・・女官長はと言うと、お湯を沸かしてお茶を飲んでいた。
朝から仕事が詰まっていて、いい加減疲れていたのだ、お茶の一杯も飲みたくなるではないか。優雅にお茶を楽しむ、女官長の傍らには・・沸騰している薬缶の中に通信の魔術具が沈んでいた。向こうの世界の家電品と同じく、魔術具は水に濡れると壊れてしまう。
女官長は思う・・・。
「私は、あの小娘が嫌いだと思っていたけれど・・聖女も。お育てした、王子も本当は嫌いだったんですね・・・きっと」
異世界の女どもに振り回されて右往左往する、公達達を見ると滑稽で・・馬鹿らしくて、情けなくて・・何もする気になれなくなったのだ。
『長く王宮に居すぎましたね、今更帰りたい故郷も有りませんけれど。会いたい人も、会いたい妹も特にいないわね・・私に会いたい人もいないでしょうけど』
ずっと親の言う通りに、世間の常識に合わせて生きて来たのだけれど、今は虚しさだけが募っていく。
今の王宮の、あの混乱ぶりは何なのだろう。
聖女が、あのオマケが現れてから、女官長の持つ常識が次々と壊されていった。
奴隷の小娘が王族の、王子に反論し忠告をする、あり得ない事だ不敬罪であろう・・それなのに、それが咎められもしない。つい最近まで、とても考えられなかったことだ。
一人、厭世観に浸る女官長・・疲れすぎだ、休暇を取った方が良いぞ?詩乃ならそう言いそうだ。
女官長は黙って熱いお茶を、カップにもう一杯注いだ。
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軍の訓練広場の、こんなところに扉が?っと言う場所から、突然夥しい騎士達が飛び出してきた。出口に数少ない信用できる近衛隊を配備し、手はず通りに捕まえようと準備していた駄犬は目を見張った。
何故なら彼らは何の塗料かは知らないが、蛍光色に光る禍々しいオレンジ色にアチコチ染まっていたのだから。その数に愕然とする、これでは平民の騎士のほとんどではないか。
ほとんどの平民騎士が、軍に、王子に背を向けて陰謀に加担していたと言うのか。
王子の傍に居ながら、少しも造反に気づかなかったとは・・俺の目は、節穴か。
この人数を処罰したら軍自体が崩壊してしまう、どうする・・・。
「王子をすぐに此処に連れて来い!聖女は後回しだ首に縄を付けても引っ張ってこい!」
②第一主義の忠犬が、部下にとんでも無い事を伝える。
「・・・これでは、もはやクーデターだ。」
こうして聖女様の後を追っているのは、詩乃だけになっていた。
昔のTVゲームは、ゆっくりで良いですね。
今のゲームは目が回ります。1度だけプヨマスターになった事があります。




