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王子様の憂鬱

いきなりキレるおばさんは、お好きですか?

 「お前、何処から現れた・・。って言うか、何処へ行っていた」

興奮の為にまともに喋れない②の代わりに、駄犬が詩乃に話かけて来た。


「そんな事より!聖女様は?聖女様に何かあったでしょ!!」

走り続けて来た為に声が枯れて喉がヒリヒリする「水」と唱えると、詩乃は手から水を溢れさせゴクゴクと飲み干した。はぁ~ぁ生き返る、プファ~ッ。

仕事上がりのサラリーマンの様に、水を飲み干し首を振る詩乃。


その様子を見ていた女官長は米神をピクピクさせていた、血圧が上がっている様だ大丈夫か?詩乃が水を出すのがそんなに不思議か、不愉快か?


「聖女様はどこ?何か異変は?」

「聖女様は現在行方不明です。お披露目の御仕度を終わらせて、神官の傍付きと共に玄関に向かったはずなのですが。ほんの少しの間に消えて居なくなりました」

女官長が代わりに説明する。


「消えて居なくなったなどと、間違っても言うなぁ~~」

②はもう錯乱状態である、顔を真っ赤にして叫んでる。


「もう!いい歳こいて、あんた五月蠅いよ。」

「俺はまだ18歳だぁ!!」

「げえぇぇぇぇぇ~~~~!30歳位だと思っていた」

「痛い痛い痛い~~~~」

正直に叫んだ詩乃の頭を女官長が拳骨でグリグリした、色々とイライラも溜まっていたのだろう、詩乃の頭が一人で鬱憤晴らしを受けた形で御愁傷様様・私としか言いようがない。

ううぅぅ~~痛みで涙を堪えながら、詩乃はテーブルの上に置いてあった、もう一つの<空の魔石>を手に取り床に押し付けた。


「地下通路 マップ再現 実行!」

詩乃の手の中に有る石が カッ と光ると、床に地下通路の地図がみるみるうちに広がって行った。


「こ、これは・・なんだ、何の地図だ。こんなもの見たことが無いぞ」

②と駄犬が驚いている、女官長は沈黙を保っていたが。


「平民の騎士は皆知っていると思う、このラインが王宮から外に出られる道で、騎士達は此処を使って自主的に休みを取って街に出かけている」

此処に戻って来たのもこの道を使った、詩乃は地図の線を指さしながら教える。

神殿の周りにも何ヶ所か、この通路に入り込める入り口が有る。離宮の中にも入り口が有ったのだから、神殿の内部に入り口が有っても何の不思議もない。


神殿の正面玄関は?

詩乃の質問に女官長が指さして示す、御仕度をした控えの間はこの辺です。


詩乃は鞄の中なら袋を取り出すと、一本の糸にぶら下げられた石を出した。

「ラリマー」

空と海を合わせたような淡い水色の優しい感じの石だ、それを、女官長の指さしたあたりの上に垂らす。


「何をしている?そんな魔力も籠っていない石を、どうするつもりだ」

「聖女様が着るお披露目の衣装に、光る石を沢山付けたのは私だよ。その中にいくつか『厄除け』の石、つまり悪い事が起こらないようにと、御呪いの石を付けておいたんだ。なのに、その中のいくつかが壊れたような嫌な音が聞こえた気がして、此処まで戻って来たんだけど」

嫌な予感が当たっちゃったな・・・小さな声でそう呟く。


「それでこの石は<ラリマー>と言って、聖女様の衣装に付けられている<ラブラドライト>と言う石と、とても相性が良いんだ」


垂直に垂らされた石は、初めはピクリとも動かなかったが、やがてゆっくりと大きく揺れ出した。

聖女様の石「ラブラドライト」が導きの石、そしてこの「ラリマー」が引き寄せの石。

揺れている石が一定の方向に強く揺れ出す、石が地下通路の地図の線上を伝い動き出した。ダウジング・・失せ物を探すのによく使われる方法だ、原理は知らないが神秘系の雑誌で読んだ。


「此方の方角だ・・・先には何が有る?」

「これだけではまだ解らん、王宮に向かっているが。王妃の所に行くのか、それとも兄の所か」

「追います!」そう言って、駄犬が走り出そうとした。

「ダメ!!」


詩乃が強く制止する。

「強い魔力の者が近づくと相手に気取られる、細い脇道が何本も有る地下通路で、隠れられたら探しようがない。それに、あんたの魔力は独特だから誰が探しに来たかすぐにバレる」

だから行っては駄目だ、ステイしていろ。


詩乃はもう一つ<空の魔石>を鞄から取り出すと、地図に向かって「ソナー」と呟く「実行」。すると地図の彼方此方に、赤い点々が浮かび上がり虫の様に動き回っているのが解る。


「今、地下通路に入っていて、魔力を隠せない人間がこれだけいる」

「この点が騎士なのか?こんなにいるのか・・裏切者が!」②が激高する。


「裏切る?騎士に成るのに忠誠でも誓わせているの?平民の騎士は使い捨ての駒で、魔獣の放つ火炎の弾除け代わりって聞いたんだけど?その駒にも心が有って、嬉しさも悲しさも感じる人間だって事を忘れている、あんた達のせいじゃないの?自業自得だよ」


グッと言葉に詰まった②が吠える。

「お前は!どちらの味方なんだ!!」

五月蠅いって言ったよね・・・黙れ。


「私は聖女様の味方だよ、この世界でただ一人の同胞で友達の味方なんだ!」

詩乃は怒りを言葉にのせて、静かに・・でもはっきりと言った。


「あんた達は聖女様の思いを無視して、無理やり召喚しこの異世界に連れて来た。今度もまた、くだらない権力争いに巻き込んで、聖女様の意思を無視して事を運んでいる。聖女様と結婚した王子が王座に近づく?ふざけんなよ、聖女様は誰も選んでなんかいない。自分が選ばれる?うぬぼれんな!」


いい加減にしてほしいもんだよね・・・怒っているの・・・解る?


「あんたに、手足の様に動いてくれる部下がいるかどうか知らないけど。出口を出来る限り封鎖し、一ヵ所しか出られない様にして彼らを一網打尽にすれば良いじゃん、其処にしか行けないように誘導するから」


詩乃は<空の魔石>を次々と変化させ、バスケのボール大の黄色く光る球を作っていった。


「これは、こうします」

詩乃がコントローラー(これも作った)を動かすと、球はグワッと口を開けてパクパクし始めた。口の中には鋭い歯がズラリと並んでいる。


「はい、行ってらっしゃい」

球たちは裁縫室の棚の後ろの入り口から、次々と地下通路に入って行った。


『まんま、初期のTVゲームだよね』

地図の上の赤い点々が、黄色い点々に追われて慌てて動いているのが解る。

詩乃は初期のゲームは得意な方だ、なかなか新しいゲーム機を買って貰えなかったし。買って貰らった後も、お兄が占領して使わせて貰えなかったから。お兄が合気道の合宿とかで、いない時は天国だったな~。小学生時代のほろ苦い思い出だ。

『私のメモリーはどうしたんでしょうね、消していないでしょうね』


赤い点々はだんだんと追い詰められて、1ヶ所に集まりだした。出口は軍の近くに決めた、駄犬がそちらの指揮を執る為に走りだす。


「殺しちゃ駄目だからね、一人でも殺したら聖女様は怒るから!絶対あんた達を許さないからね!」

ブッとい釘をゴゴゴンと刺しておく、人殺しに加担するのは御免だ。


「あ!」

聖女様と思われる<ラリマー>が追いかけていた所から、赤い点々が離れて行く。


「聖女を置き去りにするつもりか!」

あんた五月蠅いよ、いちいち吠えなきゃ喋れないのか?


「魔力を完全に隠して、私でもノイズが聞こえない人間が3人いる」

「1人目は銀ロン」・・・「魔術師長の事です」女官長フォロー有難う。

「2人目は布団騎士」・・「神殿騎士の筆頭、ジャンビ様です」その通り。

「3人目はヤンキー騎士」「騎士爵のヴィです、先日の王室主催の舞踏会で、これのエスコートをしました」これって何だよ、これって(怒)。


どこに向かうつもりか・・・<ラリマー>が、ゆっくりと動き出した。


「多分、彼らが聖女様の傍に付いている。赤点を囮に囲みを抜けるつもりだろうな」

ヤンキーの事だ、自分だけは捕まらないつもりだろう・・奴はそういう男だ。

何処に行きつくのか、解らなければ動きようがないが・・さて、どうする。


「魔術具で、遠くにいる相手と話せる様な物は無いの?」

「有りますよ、離宮の備品を私が持ってまいりましょう。王子様、此処はこれに任せて御身は王宮へお急ぎください、もう時間が有りません、何か事が起こる確率は王宮の方が多いでしょうから其方の采配をお願いいたします。王子様に通信の魔術具をお渡ししましたら、これの監視は私がいたしますので」


・・・感じ悪ぅ~こんなに協力しているのに。

「王子様、これは貸しですからね。後で回収させて貰いますから、良いですね約束して下さい」

念は押しとかなくちゃ・・・ドナドナは御免だ。


「解っている、聖女を無事に救出する事が出来たら如何様にも褒美を遣わそう」

その代り、無事じゃ無かったら覚悟しておけ・・そう言いながら②は走って行った。


「そう言う態度だから、➁は人望が無いのじゃなかろうか?」

親の顔・・は王様か、側妃様は見たことないが。育てた人の顔を見て見たいよ。


「・・私も関係者ですが、何か?」

女官長が戻って来た、育てたの女官長ですか?失敗作品です?


「失敗作?お前には言われたくは無いものですね、このような無作法者をどうやったら育てられるのか」

「う~ぅ、向こ 貴 族 居なか たね」

大人と言えば近所の人と先生、あのお店の主人さん、両親ぐらいか。

思えば狭い世界が詩乃のすべてだった、これから少しは広くなる予定だったのに、異世界なんか広すぎだよ。


「地下通路の噂は私が少女の頃から有りました、騎士達とメイドが逢瀬に使っているとね。本当にあったとは驚きました、この王宮でそんな秘密が守られ続けていたとはね。秘密をばらしたお前は、さぞ恨まれる事だろうよ・・」

女官長が詩乃に手を伸ばして来る、太い腕はなかなかに力が有りそうだ。


身の危険を感じた詩乃が、逃げる体制で中腰になる。

「探知を続けなければ、聖女様の行き先が解らなくなるよ!」

「だから何なんです、異世界の聖女が何様だと言うのですか?バカバカしい。

あんな小娘に良いように踊らされて、王子達も情けない事よ・・」


げぇぇ、姑って奴か?これが姑根性って奴なのか?詩乃は鬼女板を思い出した、更年期の姑さんは扱いが難しいんだ。

女官長が突然鞭を振りかぶった、どこから出したんだ!?それ!


「ひえっ~」

詩乃は咄嗟に地下通路の入り口に滑り込んだ、中は真っ暗だ、暗視ゴーグルの無い女官長は追っては来られまい。


「それで逃げたつもりか!戻って来い!小娘」

女官長が吠えている、いきなり何なんだ?この変わり様は、ストレスMAXでどこか壊れたのか?

「聖女と2人、のたれ死ねばいい」

女官長はズズズ・・と戸棚を動かして、入り口を完全に塞いでしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「マップ・ソナー終了」

裁縫室の地下通路の地図はこれで消えただろう。


「それにしても、ビックリしたよ・・」

人間って解らないものだ・・いきなりキレるのは反則だよ。


詩乃は一人呟くと、地下通路に潜って行った。


お化け屋敷が苦手な作者は、暗いトンネルなど歩けません。

えらいぞ、詩乃。

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