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王都の人々~1

古地図を見るのは、楽しいですね。

 大きな通りに沿って、立派な店舗が揃っている、銀座1丁目って感じか?


王宮の建物の様に、大理石で造られている豪華さは無いが・・むしろ・・コンクリート製のブロックの様な感じの建材が使われている建物なのだが、清潔に整えられているので嫌な感じはしない。この辺は一等地なのか、メイドに聞いていた様な屋台は無いし、歩く人たちの衣装が小綺麗だ。貴族の様な半魚人のフリルは無いけれど、憧れが有るのかごく小さめのフリルが少量付けられている。お金持ちのエリアなのだろう、怒られないうちに退散した方がよさそうだ。


詩乃は道の端を、人にぶつからない様に注意しながら速足で坂を下りていった。

この世界では大きなガラスは作れないのか、障子ぐらいの大きさのガラスを、これまた障子みたいな桟で囲んで使っている。お店のディスプレイ用の窓なのか、中が窺えて楽しい。


生地屋さんは有るが服屋さんは無い・・みんな、オーダーメイドで作らせるか、自分で作るかの2択なのだろう。食器を扱う店もあったが、無味乾燥な白の食器だ・・離宮で使っている日常的な物より、はるかに質素で色も柄も無い物だった。

『王都の金持ちで、この水準なのか・・』

百均の瀬戸物売り場を見せたら、みんな気絶しちゃいそうだよね。

王都でこれなら、地方では木で出来た器が普通なんだろうか。江戸時代には瀬戸物を、庶民でも使っていたような気がしたが?どうだったっけ?散々おばあちゃんと時代劇を見ていたのに思い出せない。


人が店から出て来たので慌てて避ける、チラっと中が見えたが地図の様な物が見えた気がした。


地図・・以前女官長に、この世界の地図とか動植物の分布図を見たいとお願いしたら、駄目です!って断られた事が有った。地図は国家の最高機密だって・・シーボルトじゃああるまいし、持ちだす事など出来ないんだけれど。って言うか、何処に持ち出せと・・異世界へか。


小さなガラスに顔を押し付けるようにして、店内の様子を必死に覗く。

壁にいくつか地図が貼られているようだ、タペストリーの様に飾りにもなるのかな、大昔の地図の様に海の所に怪獣のようなイラストが描かれている。街道を表す線の所に家々のイラストが描かれ、沢山の文字が注釈なのかが書き込まれている。江戸時代の地図みたい、伊能忠敬が現れる前の。あんまり完成度は高くない様だね、縮尺とかいい加減そうだ。

余りに集中して覗ていたので、後ろに人が立ったのにも気がつかなかった。

いきなり猫の子の様に襟首をつかまれて、ぎやあぁ!と大声を出す。


「五月蠅いぞ、小僧」いきなり頭に拳骨を貰った、痛いです・・。

見ると高級品であろうガラスに、詩乃のホッペの跡がペットリと付いている。

『な、なんてオイリーなホッペ!』

詩乃は急いでポケットからハンカチを取り出し、ゴシゴシとガラスを擦って綺麗にした。恐る恐る振り返り、膝を折って謝る。


「・・・ご ベナ たい」

「なんだ、おまえさん。えらく訛っているな、北の方から来たのか?」

親はどうした、迷ったのか?こんな小さい子供を一人で歩かせるなど、この頃の親は全くなっとらん。迷子じゃ無いし!詩乃は異世界にいるであろう親の名誉のために、手を組み上を見上げて、ゆっくり首を振った。『殺しちゃったよ、御免ね父さん母さん』


「なんだ、おまえさん親無しか。仕事を探しに王都に来たのか?それにしちゃあぁ、おまえさんは魔力が無いようだが」

・・奴隷が逃げ出したのか・・何だか物騒な事を言い出したよ、この爺さん。

『どうする、ダッシュで逃げるか?』そ~っと離れようとする詩乃に。


「まぁ良い、今日は祈りの日だ、生き残った同胞はらからに恵みが有りますように」

爺さんは詩乃の背中をそっと押すと、店の中に入れてくれた。


「わあぁ、凄い!」


壁一面に地図が飾ってある、どれもこれも細密画の様に繊細で美しい・・実用に叶う様には見えないが。詩乃は一つの地図の前に立ち止まった、銀河系をいくつも重ねたような、スズメバチの巣の断面図の様な、摩訶不思議な地図・・まさか・・これって。顔色を変えて見つめる詩乃に、爺さんが教えてくれた。


「大昔の、大神官で有り大魔術師であった、偉大なるサマリンダが著した異世界の地図だよ。世界は幾重にも重なって、確かに存在しているのだそうだ。サマリンダはその魔力を使って、異世界から清らかなる乙女を召喚し、求められた乙女は聖女となり、この世界の闇を晴らし光を世界に満ち溢れさせたそうだ」

これがその偉大なるサマリンダの肖像画だ、爺さんが立派な額縁に飾られている絵を見せてくれた。


『・・・銀ロン?』

なんなんだ?偉大なる魔術師は銀髪でロン毛がお約束なのか、それとも血でもつながっている親戚なのか?はた迷惑な二人は、確かに遺伝子が繋がっているかのようにソックリだった。う~~好きになれない・・。頭に来てパンチの一つも居れたくなったが、このお爺さんは銀ロンの顔など知らないだろうし、聖女様を呼び寄せた人物だから英雄と思っているかもしれない・・藪蛇にならない様、此処は一つ穏便にだ。


「ふ~~~」


気を取り直して再度地図を見回る、どれが世界地図で、国内の地図だろう。海が描かれているのが世界地図か?この国はどれだろう、島国と聞いたけれど。小さめの島を指差して首を傾げてみる


「ここ?」


爺さんは笑って、

「わがランケシ王国は、そんなに小さな島ではないぞ、ほれ此処だ。」

う~~ん、赤道から遠いからメルカトル図法で見ると、そんなに大きいとは思えんが、ヨーロッパ辺りの緯度でオーストラリアの半分ほどぐらいだろうか。


「ここが王都だ、花の都ポンテェアナク」

少し離れた所に大きな川があり海に注いでいる、交通の要所か・・ロンドンみたいだね。


「どぅこ すむ い?」

「なんだ、住む所を探しているのか?そうだな、お前さんの魔力では王都には住めまい。地方の方が魔力無しの平民が多くて、その分不便だが気兼ねなく暮らせるだろう。貴族の領地は治める貴族次第だがね、ボコール公爵は平民思いの貴族と聞いているぞ。人口も少ないから、民の移動にも寛容だそうだ。」

覚えておくと良い、そう言って指さした場所は王都の反対側。北の海と大陸に面した広い土地だった。


店にお客さんが入って来たので、詩乃はお暇することにした。

爺さんに膝を折って挨拶し、自分の手のひらに細工物を乗せて見せる、つまみ細工で作ったストラップ。この世界に携帯は無いが、財布や小物入れは持ち歩いている。もし外の世界で親切にしてくれた人に出会えたら、渡そうと思って用意しておいたものだ。


「何だい?くれるのかい?おぉ、可愛い花だな、孫が喜びそうだ有難う」

有難うはこちらの方だ、詩乃は地図を見ながら<空の魔石>を握りしめ、スキャン・・と願っていたのだから。ごめんなさい、これって万引きになるのかな?そそくさと現場を離れる、犯人は二度と戻らない事を誓おう。



 多少のスパイ感を感じつつ、探索は続けられる。

だいぶ下町に近づいたのか、雑多な感じになって来た。お祝いの晴れ着なのだろう、皆着飾ってはいるが、素材の違いは嫌でも解る。良い匂いだして来たと思ったら屋台が並んでいた、その屋台に子供が群がっている、例の揚げたお菓子だろう甘い良い匂いがする。チョッとお腹もすいて来た事だ、どうしようか迷っていると、屋台と離れた歩道の縁石に少年が一人で座っていた。欲しいのだろうが諦めてもいるのだろう、屋台の方を力なく見ている。詩乃は子供の群れに突入すると、どうにかこうにか揚げ菓子を二つゲットした、300ガルだから普通のパンよりお高いんだろう・・お祝い相場って奴か。


詩乃は少年の隣に一人分開けて座った、少年は無視しているのか、無我の境地で瞑想しているのか反応しない。


「もぅしモシ きキタイ と おしえレ タら おカシ け」

目の前にお菓子を差し出す流石と、流石にこっちを向いた。


「なんだお前、どこの訛りだ酷ぇな・・そりゃぁ」

良く言われます、お気になさらず・・そうですか先払いなんですね、パクパクと食べる少年の横顔を不自然じゃ無い様に眺める。茶色の髪に、灰色の目・・よくある平民の特徴だ。


「あ~美味かった!食べたかったんだよ、これ、ありがとな。」

うんうん、素直で可愛いね、口の周り砂糖だらけだけどね。拭きたまえ。

彼は今年13歳になり、旅商人の親戚の伯父さんの見習いとして、初めて王都にやって来たのだそうだ。祈りの日だから、お前も楽しんで来いと宿を追い出されたが、金も無いのにどうやって楽しめと。


「伯父さんは結婚していて美人の奥さんがいるけど、あちこちの街にも仲の良い女の友達もいるらしくてさ、時々こうして俺に暇を出して行方を眩ますんだよ。休めるのは良いけど、金が無けりゃぁどうしようもないし」

ブツブツ文句を言う少年、奥さんには密かに伯父さんを見張るよう頼まれているらしく、伯父さんの素行には大層困っているのだそうだ。お困りの所恐縮ですが、暇そうで何より、さぁ尋問に答えて貰おうか。


旅商人のおじさんは、前の街で仕入れたものを次の街で売り、また仕入れる・・そんな自転車操業的な商いを繰り返しているらしい。そんな事で商売が成り立つのか?と他人事ながら心配になるが、街と街の間が離れていて、なおかつ交通の便が悪く、魔獣などが出没する為、人々は自分の街を離れるのが難しい。新しい話題と品物には常に餓えているそうで、それなりに需要は有るらしい。彼の伯父さんは平民にしては見目が良く(薄い茶色の髪に紫の目で、それが貴族っぽいのだと)夜には吟遊詩人として酒場を賑わすと言う。


「今は、何と言っても聖女様の歌が大人気だぜ。遠い世界から、俺たちを助けるために来てくれた、黒髪で黒い目の絶世の美女。王子達に恋を囁かれても、神殿で神に祈りを捧げる純潔の乙女!」

俺も少しなら歌えるんだ、菓子のお礼に歌ってやるよ、そう言うと少年は立ち上がって咳払いをする。どうでもいいけど、口の周りを拭きなさいってば。

少年はまだ声変わりしていないのか、綺麗なボーイソプラノで歌いだす。

それは、聖女に愛を囁く王子の歌だった。


≪君の支えになりたい、こんな私だけれど、どうか頼って欲しい・・≫


そんな感じの歌詞だった・・様な気がする、歌のヒヤリングはまた難しい。

頼らせるくらいなら、初めから召喚なんかすんな、自分の世界の事は自分達でどうにかしろ!!少年には罪は無いが、聞いているとムカムカが募っていく。


少年の歌はなかなかに上手く、人垣が出来てコインも飛んで来た。彼は帽子を脱ぐと上手い事キャッチして、可愛らしく微笑み歌い続ける、アンコールの声も掛かった。人垣の中の奥さん達が話している、聖女様はどちらの王子と結ばれるのかしら?素敵よね~麗しの王子か、武功の氷の王子か・・ここでも賭けをしているようだ、銀ロンおじさんは対象外なのかな、大穴だな。


 楽しそうに笑いさざめく人々のなか、詩乃だけは胸に重い塊を抱えていた。

聖女様が感じている様々な重圧を、此処の世界の人達は何も知らないし、知ろうともしないんだろう。


『彼女が失った多くの物より、素晴らしい何かが、この世界に有るといい有るのだけれど』



賑わい笑いさざめく人々の只中で、あぁ・・これがちょっと振り向いた異邦人と言う奴なんだなぁ・・と今更ながら感じた詩乃だった。


吟遊詩人は今の、アイドルみたいなものでしょうか?


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