隠し通路
暗くて狭い所は、お好きですか?
ヴィとか言うヤンキー騎士の事が気になる、メイド達の噂話をまとめてみると、かなり危なく胡散臭い人物の様だ。
君子危うきに何とやら・・近づかない方が賢明なのだろうが、ヴィは王宮に箱詰めにされている詩乃の知らない情報・・外の世界<穢れの地>の事を知っている。詩乃が今後、平民での生活を考える時に是非とも知っておきたい情報をヴィは知っているのだ・・嘘を吐かれたらどうしようもないのだが。
それに、ヤンキーが聖女様に危害を加えないかどうかも心配だ、メイドが言っていた公爵からの仕事の呼び出しって何だろう、公爵令嬢は王子達の婚約者候補なんだよね?
死神騎士って、まさか聖女様をゴルゴるんじゃあないだろうね?
欝々と心配しててもしょうがない、詩乃は用心に魔除けの<天眼石>を懐に忍ばせると、いつもの様に雪かきに神殿に向かった、ヴィとの接点は其処しか無いからだ。今朝の天候は吹雪だった、これじゃぁ流石の女の人達も神殿に来ないかな?とは思ったが、一応出かけてみたのだ。強い北風の為に、神殿の門の前には雪が吹き溜まっていて、これじゃあ扉も開けられないだろう。
「どうするかなぁ。これじゃぁ雪掻きしてもキリがなさそうだし困ったな」
取り敢えず新たな雪が積もらないよう、風でシールドを作り吹雪を防いだ。すでに積もっている雪は、サイコロ状に圧縮して端の方に重ねておく。
「ふ~ん、なかなかやるじゃん」
驚いて振り返ったらヴィがいた、少しもノイズが無かったから気がつかなかった。昨日はそれなりに有ったのに、意識して消しているのか?そういやぁ布団騎士もノイズが無かった。白騎士の特徴なのか?
「さすがに今日は、神殿詣でもないだろうよ。おぃ、雪小僧奢ってやるから付いて来な」
?雪小僧?雪ダルマの事なのか?
「どこ イく?」
吹雪だ迷わない様に手を貸しな、そう言うとヤンキーはまだ返事もしていない詩乃の手をギュッと握り込んだ。
『むぅ・・あれだね手袋をしているしね、手つなぎデートにはノーカンだね、むしろ介護だねこりゃぁ』
詩乃の心の葛藤も知ってか知らずか、ヤンキーは吹雪で視界も悪い中、平気そうにスタスタと歩き、今は何やら階段を下りて行っているようだ。強い吹雪を避けて顔を下げているうちに、どこかの扉の中に入り込んだみたいでピタッと吹雪が止んだ。
『こんな所に扉なんか有ったっけ?まさか!どこでも扉?』
一人でギャグっていると、繋がれていた手がペッと離された。
「どうだ、凄いだろう?平民の騎士しか知らない地下通路よ、雪の時にでも楽に早く移動できる優れものだぜ」
そう話すとサッサと歩き出すヤンキー系騎士、地下通路は人が手を広げたくらいの幅があるトンネルで、高さは3メートルくらいありかなりの大きさだ。しかし明かりは無く真っ暗だし、風の吹き抜ける音がしてかなり不気味な所だった。
『君はホスピタリティと言う言葉を知らんのかね?』
ヤンは一人用のライトを付けて振り向きもせずに歩いて行ってしまう、仕方が無いので詩乃も真似をして指先に明かりを<灯せ>ってしてみたら・・出来た。ライトか・・異世界召喚のお約束を、次々クリアしている感じだなぁと独り思う。
地下通路はかなり複雑で、一人で入り込んだら高確率でミイラになりそうだ。
『マッピング』
詩乃はポケットの中の<空の魔石>を握りしめ願う、出来るかどうか解らないが・・やってみるだけだ。こんな所で、一人残されたらたまらない。
40~50分も歩いただろうか、再び扉を開けて外に出た。
其処は内装も豪華な、王宮の一角のようだった。
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「こんな形でお招きして御免なさいね所で、貴方とは一度ゆっくり話をしてみたいと思っていたの。第2王子の目が光っていて、なかなか叶える事が出来なくて・・寒い中歩いて来たんでしょう、ゆっくりなさってね」
女官がお茶と軽食を次々と持ってきて、テーブルに整えていく。美味しそう。
・・・ええ~~っとぉ。
「あり ガト ざいマシュ、キく しツレ ゴザるが どチら様?でぇ」
「この阿保、王妃様だ頭が高いぞ」隣に座っていたヤンに頭を押さえられる。
自分だって態度悪い癖に!!ムカついたので指を掴んで捻り上げてやった。
「うおぉ、痛てぇな、何しやがるこのチビ」
「ほほほ・・よろしいのですよ、面会した事も無いのだから、知らなくても仕方がないでしょう」
どうぞ召し上がれ、上品そうに笑う王妃様。
金髪で青い目・・貴族の特徴がバッチリだ。顎の所が少々御歳を感じさせるが、美熟女を体現させているようなお方だ。ヴィなんてヤンと、どう言う接点が有るのか・・摩訶不思議な事だ。
ヤンが遠慮なくパクついているので、詩乃も恐るおそる頂いてみる・・美味しい!王妃様の所の料理人も腕利きだね。キッシュなんて聖女様の所では出なかった、なんか少し趣が違う料理のように感じる。フレンチとイギリス料理が違う様な・・僅かな(そうか?)違いだけれども。
2人が食べている様子を微笑んで見ている王妃様、今まで会ったどの貴族より優しそうだし、ノイズは有るが・・α波みたいに気が休まる感じだし、皮膚感覚のチクチクも少ない、詩乃的好感度は高くなりそうだ。
二人でペロッと完食しちゃった、ご馳走様でした。
「貴方は聖女様の信任も厚く、心を開かれていると聞いています。聖女様はどちらの王子を選ばれるのか、聞いたことはあって?」
・・・うへぇ、またこれか、皆で賭けでもしているのか?胴元は誰だ。
「ナ にも きく してナイ す」
結婚結婚と喧しいので、異世界の結婚事情(祖国バージョン)をご披露する。
私の世界では、長い人だと22歳~24歳頃まで教育を受ける人もいます、その後男女の別なく働きますし、65歳の定年まで働く人も多いのです。女性でも結婚しない人もいるし、30歳過ぎてから結婚し子供を授かる人もいて、此方の様な決まり事は特に無く本当に自由なんです。今は聖女様はこちらの世界の事を知るので精一杯な状態ですし、結婚まで考えている心の余裕は無いんじゃないかと思います。
詩乃はたどたどしくだが、一生懸命に訴えた。
聖女様に考える時間をあげて欲しい、聖女様がこの世界に来た為に、失ったモノの大きさを思いやってあげて欲しいと。
「貴方の世界と、此方では随分と違うようですね」
どこまで話して言いのか解らないが、あちらの世界(祖国基準で)に貴族制度は廃れて無い事、結婚は双方の合意の下でのみ(嘘だけど)行われる事を説明した。
「聖女が神殿に惹かれる理由は、此方の結婚観への忌避が強いと言うのね?」
・・・二人とも存外、不甲斐ない事・・・
王妃様は何やら考え込んでいる・・ヴィに合図されて御前を下がり、女官に案内されてまた地下通路に戻った。
「あああぁあ!!」
「何だ、突然どうした?」
ヤンが耳を押さえて振り返った、詩乃の大声が地下通路に反響して、あうんあうん・・とコダマしている。
「おう ひ さま 布貰った レイ 言う 忘レタ」
「そんなくだらない事で・・・チッ、やべぇ気づかれたか」
誰かがドドド・・と走って来る音がする「じゃっ」の一言残してヤンのヴィは暗闇に吸い込まれる様に消えてしまった。
『あんのぉ、野郎!置いてきぼりにしやがった!!』
走る音は複数で近づいて来る、ノイズが反響して強く尖っている。
『メッチャ怒っている~~ヤバい!!』
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結論から言うと、詩乃は逃げ切った。
逃げ切れた理由は、詩乃が相手の魔力をノイズとして知覚する事ができ、追手の進行方向を避けて逃げる事が出来たのと、地下通路が複雑に入り組んでいて隠れる場所が沢山有ったからだ。体が小さくて本当に良かったと・・初めて思った詩乃である。
明かりをつけると気がつかれる為<空の魔石>を、暗視ゴーグルに変えて(この辺はゲームの知識で、お兄のやっていた戦闘シュミレーションが役に立った。蛇おじさん様様だ)・・と言っても詳しい形など解らないから、石を直接瞼に当てていただけなのだが。それでも赤外線の画像の様だが、何とか通路と追手を見る事が出来たのだ。最大にヤバかった時は、追手と2メートルも離れていなかっただろう、会話がハッキリ聞こえていたもの。
「どこに行きやがった、たしかに女の声だったぞ」
「どっかの馬鹿が、王城に女を連れ込んだか・・ここの魔力が強すぎて悲鳴を上げたのか?通路は魔力が反響するのか力が強まるからな」
「大事な通路だ、貴族の奴らにバレたら面倒な事になる」
先週も3人の女が城外に避難した、このところ貴族の女漁りが激しいからな。
この通路がバレたら、外に自由に出られなくなるし、外の物資も入らなくなっちまう。少ない給金で、良いようにこき使いやがって貴族の野郎どもめ・・ぶつぶつぶつ・・。
3人はかなり長い間、その場に留まり愚痴垂れていた、早く立ち去ってくれと願う詩乃の直ぐ傍でだ。
『外に出られる・・?城外って、王宮の外・・王都の事か?』
王都ってどんな所なんだろう、この国で一番栄えている場所なんだよね、A級の平民が沢山住んでいて、普通に生活しているんだよね?王都の生活水準が知りたい、自分が外に出て耐えられるレベルなのか。貴族の居ない社会が、どんな風に営まれているのか自分の目で見てみたい。
午前中の5時~11時頃まで使い、詩乃の迷宮探検・鬼ごっこはようやっと終了した。最後には追手の3人の後を尾行して出口を探して外に出たのだ。追手が鋭い奴で無くって良かった、もしかしたら詩乃の特異体質・・魔力無しステルス体質が幸いしたのかも知れない。
出口は・・何と離宮の直ぐ傍の、詩乃が家具を探した倉庫にだったのだ、ヤンと入った場所は神殿の近くだし、出入り口は複数あるようだ。
『疲れた・・もう足が棒の様だ・・』
その後、朝寝坊して御免なさいとごまかして、お昼をたべ食器を洗って自室に戻る。朝食に詩乃の顔が見えないからといって、心配して確認に来るような親切さんが居なくて助かった。午後の作業に出る前に少し休みたい、何だか疲れたんだよ・・ウララちゃん。
ベットにダイブして寝っ転がる、ポケットの石が脇腹に当たって痛い。
『そう言えば、マッピングとか唱えてたんだっけ。役に立たなかったけど』
そう言って、石を生成りのリネンで出来たベットカバーに放り投げた。
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『おいおいおい・・・これマジですか?』
リネンの上に炙り出しの様に、ジワジワと地下通路の地図が浮かび上がっていた。
「マッピング出来様てたんだ・・・」
て・・・役に立たなかったなんて言って御免なさい。
この地図で見ると、随分と地下通路を歩き回っていたようだ。
王城の高い塀の中にある建物は、どれも個性的なデザインをしている。聖女の離宮は円形だし、神殿は上から見ると十字の形をしているだろう。王宮は広げた本の様な左右に別れたデザインだ、王妃様がいる後宮は王宮のすぐ後ろに同じデザインである。その特徴のある建物の形を地図記号にした感じで、通路の地図は浮かび上がっている。建物同士を繋ぐ通路は東西南北に太い道が4本は有る様だ、元々は緊急の脱出避難通路とかなのかも知れない?
「これによると、ほとんどの建物の地下を網羅している、これって国家機密?」
ヤバい物を作り出してしまった、どうしよう?
石の中に戻れ、と願ってみると・・あら不思議、消えちゃった。有難うご都合主義!涙が出そうだ。
「投影」と、唱えて壁に石をかざして見ると、うん、パワーポイントみたいに映るね。
『便利だなぁ・・壁に映る沢山の通路、そのどれかに外に続く道があるはずだ』
外に出てみたい、みるか・・詩乃はジッと地図を見つめていた。




