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16歳の決断

冬が来て、もう1年が経とうとしています。

 夜が長くなり、9の鐘が鳴っても薄暗い。


・・ここはかなり緯度の高い所らしい、窓に氷が張り付いている、ジャックフロストとか言うんだっけ?

また冬が来たのだ、詩乃が異世界に来て、もう1年が過ぎようとしていた。

冬の庭仕事に詩乃のできる事は少ない、苗の育成や・交配・新種の開発とか脳ミソを使う事が多いらしくて、苦手な温室(独特な匂いが辛いのだ)での作業ばかりなので撤退しているのだ。春になって筋肉を使う時にまた来ますと庭師の長さんには伝えて有る。

調理室の手伝いを一通り終えたら、もうやる事も無い。


「お爺ちゃん、もう無事に故郷に着いたかな~」

窓の外を眺めたら、チラチラと雪が舞い落ちて来た、寒いはずだ・・。


挿絵(By みてみん)


王都より、もっと寒い故郷に帰ると聞いた詩乃は、料理長から貰った硬貨で毛糸を買い求め、スヌードを編んで餞別としてお爺ちゃんに贈ったのだ。マフラーにする程は毛糸を買えなかったし、解けないから動く人にはスヌードの方が良いと思って・・。

思わぬ贈り物を、お爺ちゃんはとても喜んでくれた、日に焼けた顔に生成りの毛糸は派手だったけれど、王都の流行だって故郷のお孫さんに見せるって言っていた。此処王宮に来て、最初に普通に接してくれたのがお爺ちゃんだった、二人で作った梅干を食べて酸っぱい顔をしたのも、今では良い思い出だ。

・・・寂しい。



『日に当たらないと、鬱っぽくなるのかな~』

<空の魔石>を握って願う。

『アベンチュリン』


手の中に瑞々しく、優しい緑色をした石が出来ていた。

アベンチュリ・・最悪の事態を好転させ、新たな流れに乗るのを促す働きをする。ストレスを緩和し、精神を安定させてくれる・・穏やかな優しい石。


『よろしくお願いします、アベンチュリン』

しばらく掌に乗せた石を、ボ~ッと見ていたら聖女様からお呼び出しが来た。

   


    ****



 聖女様の部屋に行くと、女官長と知らないマダムって感じの人がいた。

王都で流行りのドレスを作っている、有名なブティックのご主人らしい、そう紹介されたみたいな気がする、女官長の言葉は装飾語が多くて解りにくい。


続いて物憂げに聖女様が告げた、

「今度の春で、聖女の就任式をする事になったわ。

この世界では16歳が成人年齢で、誰でも大人となり仕事の義務を負う前に、大勢の人の前で決意を表明し忠誠を誓うそうなの。その後新成人達を集めて、王族自らが貴族達にお披露目をするらしいわ。

私はここに来る前にすでに16歳だったから、17歳になる前に急いで式をしないとならないらしいわ」


思わず、聖女様の顔を見つめた詩乃に諦めた様に言う。

「魔力だけは有るらしいから、職業としてなら聖女をやって行けると思うの」

それに、神殿に入れば結婚の話は先に延ばせるでしょう・・囁く様な独り言。


『逆ハーが乙女の夢だなんて、とんでもないな。好きでもない男に言い寄られたってウザイだけだし、貴族の奴らは女の人の事を、魔力の為の繁殖実験の相手としか見ていないし』


「春に就任したら私は神殿に移るけれど、この離宮は聖女の財産として残せます。貴方は此処にずっといて貰って構わないのよ、離宮の管理者になって貰っても良いし良い、メイドも何人か残すつもりだし」


聖女様の言葉に、詩乃は軽く頷いた。

詩乃は夏生まれで8月が誕生月だ、もうすぐ14歳になるって時に召喚されている。召喚直後に冬を迎え、夏がやって来て15歳になった、半年スキップした感があるが。来年の夏、8月8日で16歳になる。その日が来れば、大人として生きて行く決意をして実行しなければならない。

この冬の間に、成人後をどう生きて行くか、考えようと思っていた所だった。


意識が飛んだ二人に、コホン・・と、軽く咳払いをしてマダムが話し始めた。

「神殿の行事で≪春の女神の祝い≫がございます、急遽春のお祝いと被せて、成人のお披露目を行う予定と伺っております。

聖女様のお衣装には決まり事が沢山御座いまして、余りご自由に意匠を考える事は出来かねますが、お披露目のご衣装やいくつかのドレスに関しては聖女様のお好みの意匠をご用意できます。此方のドレスはあまりお好みに沿いませんのでしょう?

お小さなお嬢様は上手にドレスを改造なさっておられましたね、評判がとても良いのですよ。此処だけの話、あの貴族特有のフリルは布を沢山使いますでしょう?下位の貴族の方々は誂えるのが大変だったのです。お小さなお嬢様のスッキリとした意匠の袖は、もう下位の方々から流行り始めていますの、素晴らしい事ですわ。聖女様のドレスにも、何か良いお考えはございますか?必ず流行致しますよ」

凄い肺活量だね、一息で喋ったよマダム。


イスのひじ掛けに腕を預け、疲れたように聖女様が言う。

「ねぇ・・あのフリル、半魚人に見えない?私嫌いなのよね」


『ぎやぁ~~同じ事を思っていた!そうだよね、半魚人だよね!!』

硬めの布で出来たヒダヒダが、二の腕から腕の先まで付いているのだ。

思わず詩乃は手を差し出し、聖女様と固くブンブンと握手をしてしまった。


「聖女様の好きなデザインで良いんじゃないですか?映画とか雑誌なんかで、良いと思ったデザインは有りませんでしたか?時空と異界を超えて、著作権を訴えて来る弁護士は居ないと思いますよ」


少し考えていた聖女様だったが、

「それで~いいの~・・かしら?」「それで~いいの~・・です」


お披露目のドレスのデザインは決定した、生地が薄くて寒そうだが保温の魔術具が有るそうで「すこ~しも寒くないわ~」だそうです。


<春の女神のお祝い>関連の行事なので、寒色系の色はNGだそうだ。白を基調として、袖や裾にかけてごく薄いピンク色のグラデーションになるように決めた。

問題はキラキラだ。この世界は何につけても濃い色が良いとされている。

大貴族の奥方たちのドレスには、小さな魔石(不透明な、お子様プラビーズの様な感じの物)を使ったビ-ズの様な飾りが有るが、そんなものを白地に付けたら目立ち過ぎて・・蕁麻疹の赤いブツブツに見える・・おかしい、全然綺麗じゃない。


「それに、私は衣装は魔石無しで作りたいの。権力の象徴かもしれないけど、貴重な魔石を衣装で消費したくは無いわ」

・・・獣人さん達が頑張って掘っているんだものね・・・。


『そうだ!!』


ちょっと待っててと合図をし、詩乃は部屋を飛び出し自室に走って戻った。

<空の魔石>詩乃はそれを使って、今ではパワーストーン以外にも造れる物が出来てきた。詩乃が形も用途も何もかも、熟知している物のみ・・出来たのは手芸用品だけであったが。


「極小ビーズ・白、実行」

1ミリも無いようなごく小さいビーズがマグカップ一杯ほど出来上がった。

それからそれから・・「アポフィライト、スパンコールに変化、実行」「クリスタル、スパンコールに・・・」詩乃は白・ピンク・水色・黄緑など、透明感のあるパワーストーンを次々にスパンコールに変えて行った。


「これで、ドレスにキラキラを付けられるよ!」

ふぅ~~ぃ、やり切った感が大いに有るが、これ全部手作業で付けるのか。

うう~~いいもん、やるもん!暇だしね。~応援の御針子さんもいるだろうからなんとかなるっしょ!

それぞれをハンカチに包んで聖女様の部屋へ戻った。


「うんまあぁあぁ~~」

この世界にスパン(以下略)はなかったのか、マダムは詩乃の素材にとても興味を示した。何処で手に入れたのか、どうやって作るのか!!

かなり迫られたが「企業秘密です!」で退けた。


胸元が開いている形のドレスだが、魔石のアクセサリーを付けたくないと言う聖女様の希望を聞いて、詩乃は薄ピンクのリボンと、少し色の濃いピンクのバラの花でチョウカーを作ることにした。髪飾りも同色でコサージュの要領で作る。それはお祝いとして詩乃が作ると請け負った、ドレスのスパンは離宮のメイドと詩乃が付ける、人海戦術だっ!お披露目の衣装は親しい者の手が入いると、幸せを運んでくれると言われているそうだ。・・その通りになると良いと切に思う。

アクセの制作料金はいらないが(お祝いだから)不要な端切れや、中途半端なレースが有ったら欲しいと希望を伝える。

機械的に手を動かしていると、グジグジ暗い事を考えている暇も無いし、疲れたらグッスリ眠れるし・・良い事尽くめだね!



ありがとうアベンチュリン・・取り敢えず、この冬にやる事が出来ました。

長い冬に、退屈しないで済みそうだ。



 気持ちを持ち直して、あれこれとアクセのデザインを考える。

裁縫室に籠っていたら籠っていた女官長からお呼び出しが来た・・悪い予感しかしない、女官長の呼び出しは8割がた悪い事が多い。


・・行きたくなくてトボトボと歩いていたら、女官から指導が出た。

早く歩けってさ、3回出たら技ありなのか?1本取られちゃうのか?

女官長の部屋の中に入ると、木箱が沢山積まれていた、商売でも始める気か。


頭の痛そうな女官長は、腫れ瞼を薄く開けて話し出した・・不機嫌注意だ。

「これは全部、貴方への贈り物です。主に落ちぶれている伯爵位~男爵までの男性からですね。貴方は聖女様のお気に入りと知られていますから、今のうち取入ろうとの魂胆でしょう」で、どうします?


「ご返品一択でお願いします」

「貴方は魔力は少ないですが、訳の分からない意外性が有りますから、大穴狙いの賭けに出るのもうなずけます」


むうぅうぅ~~~人を何だと思っている。オグリキャップを狙って、ハルウララだったらどうするつもりだ?引退した後、優雅な牧場生活が待っているのか?

詩乃のお父さんは休日に、家族に内緒で競馬の場外に通っていた。儲けた話はあまり聞かなかったが。詩乃の家に飼われている柴系雑種のワンコは、ウララちゃんて名前なのだ、オスだけど。


『ウララ~今無性にウララに会いたいよ、モフらせて~癒して~』


「半分は第1王子の派閥、残りの半分の半分は中立派。もう半分は第2王子派と王家の方々からです」

「聖女様の足を引っ張りたくはないので、なるべく失礼の無い方向でご返品をお願いします」

「まぁ、それが妥当でしょう、手配しましょう。王家の、王妃様からのプレゼントだけは受け取っておくと良いでしょう。これから冬の社交界で王宮は賑わいます、貴方の所にも招待状が来るでしょう、断れないのだけは出席する様になさい」


ぐぅ、ちなみに断れないのは①と②関係のお茶会、王家主催の舞踏会だそうだ。

それからメイド服を着て、聖女様の後を、金魚のフン状態で付いて回るのは駄目だと先に注意されてしまった・・何故わかったし?



冬の社交シーズンは3か月。

聖女様を狙う、熱い嫁取りレースが始まろうとしていた。


うちの子、ビーグル犬は馬鹿だけど良い奴でした、柿が好きで取ってくれと木の下で鳴いていましたな。

これとれ、ワンワン(*´ω`*)


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