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外の世界

設定説明が長くなってしまいました。

 この頃、聖女様の離宮への御戻りが早くなった。


以前は詩乃と顔を合わせるのが辛かった事も有って、無理矢理に講義を詰め込んでいたらしい・・過労死しないで良かったよ。

夕食も離宮でお取りになられるが、余計な二人組が洩れなく付いて来る。

詩乃も晩餐にと誘われてはいるのだが、丁重にご遠慮している、二人組のノイズが五月蠅くて、とてもじゃ無いが食べた気がしないからだ。


それにこちらの配膳のスタイルは、ドーンとこれ見よがしに料理を中央に並べ、給仕に言いつけてサーブしてもらう方式なのだ。

その給仕が元貴族らしくって、詩乃にはこっそりと意地悪なのだ。肉などワザと脂身の多い所を切り分けてきて、とても食べられたもんじゃない、何の肉かは知らないが野性味溢れていて匂いが強烈だ。聖女様は西洋風に、ジビエに慣れているのか平気そうだが・・実は隠れ肉食派女子なのかもしれない。


この世界の料理を習いたい詩乃は調理室に入り浸り、料理人さん達の動きを見ては盗んでいる、匠の技ってどこの世界でもあるものだ。レシピも少しずつ覚えている、覚えていて損はないしね。作業の合間を見て交代で賄いをいただく、詩乃は調理室の隅っこで、皆の仕事を見ながら賄いを食べるのが好きだ。貴重なスパイスには近づけてもらえないが、かなりスパイシーな香りがするので、いつかカレーを再現して皆に食べさせてみたいと野望を抱いている。皆、美味しいって言ってくれるかな?


    ****


 ②と駄犬が帰って、やっとお勉強の時間である、この世界の知識を習う傍らお互い情報交換する、石板に日本語で書けば誰にも解らない。


「大昔は世界に魔力が満ち溢れて、すべての人に魔力が有りました。

やがて月日が流れ、陽の力が弱まると人々に変化が現れました。

魔力の弱い人々が増え、人は魔力の強さで貴族と平民に選別されたのです。

貴族はその魔力を持って人々を保護し導きました、平民は自らを捧げて貴族に仕えました。しかしその貴族の魔力も、やがて失われていきました。

大魔術師のジャアプナンは地に眠る魔力、それを宿す魔石の利用を思いつきました。ジャアプナンは自らの魔力の代わりに魔石を使い、術を編む代わりに貴族なら誰にでも使える魔術具を造り出しました。それが魔石による魔術具の始まりです、滅亡の危機に瀕していた人々は息を吹き返し地に満ち溢れました」


・・だそうですよ、聖女様のお話はまだまだ続く。


『・・・で、その魔石が枯渇してきていると』


=魔力って、何なんでしょうね?昔の地球は酸素濃度が高くて、生物の巨大化が起こったって聞いたような気がするけど、そんな感じに満ちていたんですかね?=

詩乃が石版にそう書く。


⦅その講義だけで延々時間を使われたけれど、魔術師にもよく解らないみたいよ?最後には哲学みたいになってきたわ⦆


聖女様の何が凄いって、異界の本を読み聞かせながら、石板に日本語で返事を書けるところだ。どんな脳の構造をしているんだろう?厩戸皇子も真っ青だ・・昔は聖徳太子って言っていたんだっけ?


⦅でもね気になる事があるの、地下の魔石鉱山から魔石を掘り出すようになってから・・力の強い魔獣が現れ出したそうなの。掘り出された魔石が、生態系に何らかの悪影響を与えているのは確かでしょう。でも魔石を利用し続ける為に採掘するのを止める訳にはいかない、もう魔術具無しには生活は成り立たなくなっているからね。強い魔獣の被害を食い止める為には、また魔石を使わなければならない。堂々巡りの悪循環ね・・どっかの世界のエネルギー事情に似ているわね⦆


生活の質を落とす事は難しいのだろう、たとえその為に、どこかの誰かが被害を受けたとしてもだ。詩乃だって、突然パソコンやゲームが使えなくなったら困る。


=魔石って誰が掘り出しているの?魔力が強くて近づけないでしょう?=

⦅獣人の奴隷の子孫が、魔石坑労働者として働いているそうよ。貴重な存在だから大切に扱われている、心配はいらない・・なんだそうよ?信じるしかないけど⦆


なんと!獣人さんがいるとは!フルフェイスか?獣耳か?会いたいぞ!!メイド服を是非プレゼントさせて頂きたい。


=王宮耳・王都の外はどんな生活水準何でしょう?=

⦅基本は人力・馬力みたい、江戸時代中期ぐらいの発展具合なら良い方なんじゃないかしら。貴族は基本王都に住んでいて、自分の領地は代理に統治させているみたい。それでよく管理できるものだわ⦆


=何か、平安末期の貴族の没落・武士の台頭みたいな感じです?=

⦅この世界には魔獣がいるからね、平民では魔獣は倒せない。魔力が強い限りこのパワーバランスは崩れないでしょうね、むしろ現状を保ちたいからこそ私たちが召喚された。此処の貴族を助ける為、何かしたいとは思えないのが辛い所ね・・⦆


まぁ、それは詩乃も同感だ、貴族と係って良い思いをした事は無い。


    ****


 詩乃はこのところ早起きさんだ、お古の作業着を貰ったので、それを着こんで早朝に離宮を出かけて行く。


「おはよ ごじぇま るす」元気よく挨拶する。

平均年齢の高い庭師のメンバーは詩乃の言葉を笑わない、それも詩乃が彼らに懐く理由のひとつだ。


貴人達が現れる前に、王宮に沢山有る庭園の整備をしなくてはならない。

庭師達も全員がA級平民なのだが、魔術には得意・不得意がある。

お爺ちゃんは水撒きのエキスパートで、バケツに汲んだ水を風を使って撒けるのだ。けれど水自体を湧き出させる、水系の魔術は使えない其処で詩乃の出番だ!

詩乃はトコトコとお爺ちゃんの後を付いて、魔術でバケツに水を湧き出させ続ける、2人でやれば作業も早いし、絶妙なコンビだ。

落ち葉も風を起こして吹き集める、加減が難しいが広い園内を効率よく移動しながら作業する。全部集め終わった木の葉は、水分を抜き粉砕してバックヤードの腐葉土入れに土と一緒に混ぜ込む。う~~ん、十分凄いよね。

貴族の求める魔力って、魔術のレベルって・・ドンだけ~なのだろう?

その貴族が手を焼く、力の強い恐ろしい魔獣って?もう想像もつかない。


一通り作業を終えたら一度離宮に戻り、朝ご飯を頂く労働の後は食事が美味い!

ニコニコ食べいたら、料理長さんがお代わりをくれた、ごっつぁんです。

食べ終わったら食器洗の片付け、これは詩乃の仕事、少し休んだらまた庭に出かける。


青護衛のギイさんはこの頃姿が見えない、詩乃が貴族方面に出かけなくなった為だろうか?魔術師の銀蝿君には合いに行かなくなった、銀蝿君も自分の研究(例の消臭の魔術)を優先していて来なくなったし<空の魔石>の研究もドン詰まりだ。詩乃が良く見知った小さな物しか作れないのだ、パソコンは本体の外側は作れるが、中身は作れない・・詩乃の頭の中身が反映されているらしい・・パソコンの基盤何か作れる人の方が珍しいと思うけどな。

最後の日に、風呂敷いっぱいの<空の魔石>を貰って来た、自分用のパワーストーンにするつもりだ・・オニキスは確かに役立っていたし。



    ******



 さて、本日の昼作業は花殻摘み、咲き終わった躑躅の花に似た低木の整備だ。

手でやるんじゃないよ、空気を動かし吸い込むように引っ張って取るのだ。初めてやった時には木の根っこごと抜き取ってしまって、大いに慌てた(爺ちゃんが)事があったものだが・・すぐに元に戻したけどね、枯れないで良かった・・今では上手にできる。

萎れた花殻を取るだけで、見違えるようになった・・綺麗だね。


満足そうに頷くおじいちゃん、

「ここの花を手入れするのも、今年が最後になるなぁ・・」と呟いた。

「えっ・・ええええぇぇぇーーー」


聞いてないよ?!驚いてお爺ちゃんの顔をガン見する詩乃、ショックだよ!やっと親しい人が出来たと思ったのに!しょんぼりと項垂れる詩乃に、3時のお茶休憩の時におじいちゃんが教えてくれた。



    ****



 お茶休憩で庭師の小屋に集まる、今は秋が近いから寒くない様に室内だ。庭師はお爺ちゃん~くたびれた兄ちゃんまで13人いる。


「儂が此処に連れてこられたのは17の歳だった、その年の流行り病で貴族が随分と亡くなり、魔力が足りなくなったんだそうだ。それまで目も向けなかった、儂達のような平民にも召集が掛かったのよ。王都に行けば楽な暮らしが出来るとか、美味い物が食えるとか盛んに宣伝しておった。それでも故郷や家族を捨てて、王都になんぞ行きたがる奴など居ねえ。最後には無理やり魔力の検査をして、人攫いの様に連行していった。若い者ばかりをな・・儂も故郷には許嫁がおって、来年には所帯を持つつもりだったんだ。今生の生き別れよ・・貴族は適当にA級平民を仕事に配置し、目を付けた者から囲い込んで行った」


『囲い込む?』首を傾げる詩乃に。

「貴族が足りなくなったと言ったろう?足りなくなったら増やせばいい」

兄ちゃんが投げやりに言う。


「若い女から消えて行った、結婚して子供を産み、貴族にまで成り上がった女もいたにはいたが。大概は子供が生まれると魔力監査をして、強ければ子供だけ引き取って女は捨てられる、魔力が弱ければ母子共々お払い箱よ。男は下男仕事や騎士の従僕にさせられる、運よく騎士に成り上がっても最前線へ押し出されて体の良い盾代わりよ、貴族様に徹底的に利用され使い捨てられるのが平民だ」

心底ウンザリしているのだろう、おじいちゃんの顔は能面の様に動かない。


爺ちゃんは捨てられた女の人と、28歳の時に王宮内で所帯をもったという。それなりに暮らしていて、やがて子供を授かった。生まれた子供は魔力が少なく王宮に住めなかった、その為城下に住まいを移したが・・10歳の時に母親と離れ故郷の弟の所に養子に出した。


『お母さん、亡くなて しもた?』悲し気な顔をする詩乃。


「下級貴族に引きずられて行ったよ、幸い魔力の強い子供が生まれたようで、今でも妾として囲われているさ」

おい、嬢ちゃん。なんてツラしやがる、口を閉めろ。


詩乃のツラは・・そう、お婆ちゃんの本棚に有った怪奇漫画・・往年の有名な漫画らしいが・・その登場人物の恐怖に怯えるような・・グワァ~~の顔になっていた。酷い!酷過ぎる!!!・・お婆ちゃんの本棚は摩訶不思議なラインナップだった。・・・詩乃はポロポロと涙を流した。


「嬢ちゃんも攫われて来たんだろう、それも巻き添えを食らって、災難だったな」「呑気な顔して、人を疑いも恐れもしない、余程平和な良い所から来たんだろう」「手だって荒れていない、貴族様の様な手をしていて・・本当に平民だったのかい」

・・・大きな手で頭ポンポンされる。


無理矢理連れてこられたA級平民も、50歳になるとお役御免で故郷に返される、僅かばかりの退職金を持たされて。

「厄介払いだが、腐ってもA級だ、故郷の役に立てる事もあるだろうて」

腕を組てみ、決意を新たにするお爺ちゃん。


なんと!馬鹿貴族がA級平民を挙って攫ったため、魔獣が来た時に、騎士が来るまでの時間稼ぎをする要員がいなくなってしまったのだと言う。騎士が駆け付けた時には既に遅く、壊滅した村や町が広がっているばかりで、いっとき平民の人口はヤバいくらい減ったそうだ、今は子沢山が幸いして持ち直してきてはいるそうだが。


「第2王子が16歳で軍務についてからだ、ようやっと暮らし向きが立ち直って来たのは。このままの政策を続けてもらうには、あの人に王になって貰うのが一番なんだがな」

『え~、あの王子が・・人材が少な過ぎなんじゃね』


どうも②は、貴族サイドに人望が無いらしい・・聖女様にも無いがな。


「それでも12年振りに息子には会えるし、孫も生まれて可愛い盛りだと聞いているしな、故郷に戻るのは嫌では無いんだ・・王都より暮らし向きは不便でも、そこには自由があるからな」

「おじい こきょ どんな とこ?」


冬が長くて雪かきが大変で、でも魚が沢山採れて、秋にはベリーがたわわに実る、住めば都だと爺ちゃんは笑った。冬になると移動が大変になるので、来週には王都を出ると言う。



王宮の外にも人の暮らしがあるのか、貴族に干渉されない暮らしが・・。

B級の自分なら、貴族に相手にされないだろうから安心だし。

そういえば、銀ロンがB級なら、平民に便利に使われるって言っていたな。

貴族の居ない世界が有る・・この五月蠅い、嫌なノイズが無い世界が・・詩乃が外の世界を意識した切っ掛けになった出来事だった。



・・それにしても、70歳位だと思っていたよ・・お爺ちゃん。

3行で言うと   貴族が馬鹿

         腹黒は人望が無い

         外にも生活がある          です。


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