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オキゴンドウ

深夜の運動会・・意味深(≧▽≦)

 コンコン・・・ノックの音で目が覚めた・・・目が開きにくい。


不覚、あれから泣きべそを掻きながら寝ちゃったみたいで、眼が腫れて女官長並みの腫れ瞼になってしまった様だ・・遮光器土偶になっちまったい。


「私、仮聖女。具合が悪い?お食事を取っていないと聞いたの大丈夫?」

そっとドアを開けようとノブを動かす音がする、途端に緊張で詩乃の肌に鳥肌が立った。


「心配しないでください・・貴方を煩わせると怒られるんです」

『命の危険も有り得るんだよ、マジ勘弁して欲しい』


「腹黒の所の駄犬が何か言ったようだけど、あいつの話は真に受けないで。単細胞の脳筋騎士だから」・・私の顔も見たくない?嫌いになっちゃった?小さい声で聖女様がそう呟く。


『嫌いとか、そう言う問題じゃ無いでしょう』顔が腫れぼったくて堪らない。

詩乃は大きな声を出す気力も無いので、よく声が届く様にと、ため息をつきながらドアの前に座り込んだ。


・・ごめんなさい・ごめんなさい・・もう何度目かの謝罪か解らないほどだ・・そのたびに詩乃は貴方のせいでは無いと答えるのだ。

だって、この世界の命綱の様な存在の聖女様に、他になんと言えるのだろう?

聖女様にしても、他に言いようがないのだろう・・ごめんなさいの他に、道連れに異世界に巻き込んでしまった年下の女の子に、いったいどんな謝罪の言葉が有るのだろうか。2人とも身動きが取れない深い穴の中に落ち込んで、蠢いているような心持ちだ・・息苦しくて仕方がない。


膝にオデコを付けて足を抱える・・もう勘弁して欲しい、家に帰りたい。




「あのね、私がまだ小さい頃の話なのだけれど、家族で南のリゾート地に行ったことが有るの」

聖女様がドアの向こうで静かに話し出した。


「サンゴ礁が綺麗な海で、そんなに深い場所じゃなくても熱帯魚が沢山いてね・・凄く楽しかったわ。何泊かして、もう海にも慣れただろうって船に乗ってね沖にある人口の島みたいな所に出かけたの。フロートに船を繋いで板を渡し、其処で食事も出来る様になっていてね、一日中楽しめて疲れたら休める様に小さな屋根まで付いていたわ。大人はダイビングしたり、シュノーケリングしたりしてね・・ガイドもインストラクターもいて安全なはずだったのよ?ダイバーの傍に良く人慣れしているイルカが遊びに来ててね、イルカと一緒に泳げるのが売りのツアーだったわ。私はまだ小さかったから海には入らず、海べりの板の所に座って海に足を付けてユラユラ動かして波の感触を楽しんでいたわ」


『・・何か、嫌な展開・・・』


「イルカに足をかまれて、海に引きずり込まれるまでは・・・。

いきなり自分では抵抗できない大きな力で海に吸い込まれたの、隣にいたお父様がすぐに手を掴んで引き上げてくれたけれど・・そう、あれはものの数秒な出来事だったのだろうけど、突然息苦しくなって、自分の吐いた空気の泡が周りに溢れ・・海面の光が離れていく光景と掴んでいるお父様の手は、何年経っても良く覚えているわ。恐かった、とても怖かったわ・・・手を掴んでくれたお父様に抱き着いて大泣きしたわ。

挿絵(By みてみん)

手が・・お父様の手が・・トラウマになって、あれから海には行ってないし、プールでも足の付かない所へは絶対に行かなかったわ。

それが、あんなアスファルトの道で!魔術陣なんかに吸い込まれるなんて!!


何の冗談!ふざけないでよ!!!!」



突然絶叫した聖女様に、驚いた詩乃の身体が跳ね上がる。


「~~ごめんなさい、貴方の手はとても小さくて・・お父様の手では無かったのに、怖くて、怖くて、とても離せなかった・・私が悪いの。恨まれても仕方ない事をしてしまった・・・ごめ・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「恨みます!もう、全力で、全身全霊で恨みます!!」

ドアをバーーンと開けた詩乃は大声で叫んだ。


「全世界にいるイルカと言うイルカを恨みます。もう、片っ端から恨みますよ!!

マイルカもハセイルカもバンドウイルカもマダライルカもハシナガイルカもスジイルカもシワイルカもコビトイルカもセミイルカもパンダイルカもカマイルカもネズミイルカもコハリイルカもバンドウイルカも、アッ、バンドウはもう一回言ったか。全力で恨みます。

聖女様は悪くありません、悪いのはイルカと・・召喚したこの世界の奴らです」


・・最後は小さい声で言いました、長い物にはグルグル巻きになるタイプだからね。しょうがないね。


目をまん丸にして、呆気に取られている聖女様。


「でも、オキゴンドウは許します」

イルカと言うよりクジラの仲間だ、何か悔しいので、詩乃も想い出話をご披露する、案外と負けず嫌いな詩乃なのである。


小3の夏休み、家族旅行で海辺の小さな水族館に行ったのだ。

そこでは天然の入り江を使い、いくつもの大きな生簀を作ってイルカを放していた。海の上に通路が有ってそこからイルカを見学できる仕組みで、順路の途中にクーラーボックスが置いて有って中にアジが入っている。イルカの餌だ、手を伸ばしてアジをぶら下げると、海面からイルカがミヨ~~~ンと伸びあがって来てアジを食べていく。


「餌代を稼げる上手い商売だと、母が言ってました」詩乃はうんうんと頷く。


イルカはゾンビに追いかけられているかの様に、生簀の中を泳ぎ回っていました、少しは落ち着けって言いたいぐらいに・・・。

それが、隣にいるオキゴンドウはですね、もうピクッとも動かない。

水中にボケ~~っと浮いてるだけ、ほら、夏の和菓子のゼリー寄せにあるでしょ?水色の寒天の中に浮いている金魚みたいなの・・あんな感じで動かないの。私、思いましたよ。今度生まれてくるときはここの水族館のオキゴンドウになりたいって。


突然の話の展開に付いていけない聖女様。


「だから、オキゴンドウだけは許すけど、他のイルカと≪奴ら≫は駄目です。

✖です、許しません。ねっ、聖女様。もうそう言う事にしませんか?」

泣いたことがバレバレの、腫れた目をしてニッコリと笑う詩乃。


『江戸っ子は、痩せ我慢だよね、べらぼうめぇ』

・・お爺ちゃんの口真似を心の中で呟いてみる。


2人で向かい合って薄っすらと笑っていたら、もうお休みくださいと女官長から声が掛かった。


    ****


 前の日にどんなことがあっても、一晩寝れば<おはよう>の朝がやって来る。


何故だか顔全体が浮腫み腫れが悪化していた、目は相変わらずの遮光器土偶。

だが2食も抜いているのだ、見た目と食欲を秤にかければ当然の事だが食欲が勝つ。

詩乃は何食わぬ顔で食堂に向かい朝食を完食し、いつもの様に食器をE級で洗った。

今日は出かけないとメイドから護衛に伝えて貰い、詩乃は一人裁縫室に籠る。

別に顔がアレだからじゃない、やりたい事が有るのだ。戸棚に有る数種類の布の中から、手触りの良いビロードの様な物を選んだ。


『ふふふ・・』


    *******


 今晩も聖女様の帰りは遅かった、何たるブラック!労働基準法は無いのか!

新婚さんだったら、離婚案件だよ?私と仕事とドッチが大切なの?・・とかね、お隣の鈴木さんのお姉さんがそれで離婚したのだ、ほんとは旦那さんの浮気だったらしい・・噂だ、噂、ご町内の噂。


聖女様の帰宅を確認し、女官長達が部屋から下がった後、こっそりと訪問する。

「せ・い・じょ・さま~~」小さい声で呼ばわる。

気が付いてくれて、ドアを開けてくれた。


「どうしたの?帰るの待っていてくれたの?」

ふふふ・・・笑いながら部屋に入る詩乃。


「じゃあああぁぁぁ~~~~んん」

声と共に披露する、

イルカの縫いぐるみ、青と白の2バージョン、詩乃が一日かけて作った物だ。


「これは、こうやって使います」

イルカを掴み上げると、いきなり椅子に叩きつける詩乃。ボスッ!


「帰国子女の聖女様はご存じないかもしれませんが、母国には世界的に知られた幼稚園児がおりまして、アニメなんですけど。その登場人物の一人が<ボスッボスッ>このようにして<ドカッバキッ>ストレスを発散させているのです」

セリフを付けるとさらに効果的です、ボカスカボスボス。


「ふざけんな~大魔神~~バカヤロー」


    ****


「こんな夜更けに申し訳ございません、どんな小さな事でも報告しろと仰せでしたので・・」

女官長が困り切った顔で出迎えた、腹黒と駄犬の2人組をである、こんな深夜にご苦労な事だ。


「聖女がどうかしたのか?体調でも悪くなったのか?」


ええ~~~~っと・・・目が泳ぐ女官長。


案内された2人が聖女様の部屋で見たものは、けったいな魚と枕を振り回し、キングサイズのベットの上で飛び跳ねる2匹の小さいな猿?だった。

キャーキャーと笑い合って、ボカスカ殴り合っている。

周りは布団や枕から飛び出した羽毛で、まるで雪が降り積もった様な有様で、これは後片付けが大変そうだ・・みんなアレルギーがなくて何より。



「このような事・・・」

絶句する駄犬、彼は女性に夢を見過ぎる傾向にある様だ。


くくく・・・はははは・・・

「見てみろよ、プマタシアンタル、あんな笑い方をするのだな聖女は」

・・俺ではまだ、あの様な無邪気な笑顔を引き出す事は出来無い。


憮然とする駄犬の顔にイルカがヒットした<ボスン!>聖女様の犯行だ。


「この子は、私の友達だから!」

詩乃をハグして良い笑顔で宣言する聖女様の横で、➁達に向かってドヤ顔する詩乃。


『ベ~~~~ツっだぁ』




女官長の堪忍袋が爆発するまで(あと数分)、深夜の運動会(健全)は続いた。


オキゴンドウを書きたくて、この話はできました。

良いよね、オキゴンドウ。

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