第六幕 第四場
わたしとルイス・ベイカーは、アリス・キャロルが眠る部屋へとやってきた。部屋の中央にあるベッドに、アリスは病衣を着て寝かされていた。ベッドのまわりには医療機材とともに何人かの研究員がいて、それらをいじっている様子だ。
わたしはアリスに歩み寄ると、その顔をしげしげと見つめる。金髪のショートカットの髪は、見ないあいだに肩まで伸びている。目元にはくまができ、ふっくらとしていたはずの頬は痩せこけ、赤みがかっていた唇は紫色に変色していた。
「メアリー・レイクスからアリスへと、レイシー・レイクスの魂が乗り移った結果だ」ベイカーが言った。「アリスは意識を失って眠りにつき、日に日に衰弱していく。このままでは死んでしまうのも時間の問題だ」
アリスの痛々しい姿に、エリックの姿が重なった。もうだれも失いたくない。
「こんなことはエリックを助けることができなかったわたしが言える立場ではないのはわかっている」ベイカーは神妙な面持ちになる。「だけどきみに頼みたい。わたしの親友の娘であるアリスをどうか助けてやってくれ。お願いだロリーナ」
「あんたに言われるまでもなく、わたしはアリスを助けるさ」
「アリスの救出はかなりむずいかしいと思われる。レイシーが取り憑いたアリスとの夢の共有は、レイシーとアリス、さらにはきみの意識が夢の世界に影響をあたえ、非常に不安定な状態になると予想されている。そしてきみとアリスは共感者のため、秩序のない乱れた世界では、互いの記憶が混線し、記憶の混乱が生じる可能性がある」
「それでもやるさ。そしてアリスをぜったいに助けてやるよ」
「どうしてそう断言できるんだ?」
「やるからにはできると信じてやらないと意味がないからさ。わたしはアリスにそう教わった。だからできる」わたしは決然とした口調で言う。「さっそくだけど救出の方法を教えて」
わたしはいくつかの説明と注意事項を受けたあと、アリスの隣りに横になった。すぐに研究員たちがわたしとアリスの手を布で固定する。それがすむとわたしは目をつむった。
「いま助けに行くからねアリス」
それからほどなくして眠りに落ちた。すると夢を見た瞬間、唐突に暗い洞窟のなかを転がり落ちていた。目がまわり記憶が混乱をはじめ、意識が混濁していく。
やがて気がつくといつのまにか暗闇のなか、ひとりぽつんと立っていた。
わたしはわけがわからず歩き出した。だれかを救わなければいけない、という気持ちを携えて。やがて行く先に大きな木が庭に生えている赤レンガの家を見つけた。あそこが目的の場所だと確信するも、そこへたどり着いたとたんわたしは気を失ってしまった。




