第六幕 第三場
「着いたぞロリーナ」
ルイス・ベイカーのそのことばでわたしははっとし、物思いからさめた。エリックの最後を思い出していたので、自然と目に涙が浮かんでいた。わたしはそれを悟られないよう、こっそりとその涙をぬぐうと毅然とした態度を装う。
「……そう、ようやくエイトに到着したのね」
車をおりて、ベイカーとともにエイトの研究施設のなかを移動する。向かう先の部屋にアリスが眠っているという。
アリス・キャロル。わたしと同じで、人の心を読むことができる力を持つ共感者。わたしはこの力のおかげで、人の汚い心を知り疑り深い人間になっていた。だがアリスはわたしとはちがい、この力のおかげで素直でまじめな人間になっていた。思ったことはなんでも素直に口にするし、感じたことはすぐに表情に出る。まるでエリックとは真逆の存在だ、とわたしは思った。同じ共感者の力を持ちながらも、生まれ育った環境がちがうだけで、人はこうも変わってしまうことにわたしは驚かされた。
そのせいでわたしはアリスをうらやましい、と思っていた。まるでアリスは明るく輝く光のような存在だ。暗い世界で生きてきたわたしにはまぶしすぎて、自分が後ろめたくなる。アリスは人のために役に立ちたい、困っている人を助けたい、そう考えて共感者の力を役立てようとする。だがわたしは自分のためにその力を悪用してきた。そのことにかんして、アリスは生き延びるために仕方なかったことでしょう、とわたしを慰めてくれた。そのせいでさらに自分が後ろめたくなる。まるで同情を誘うかのように自分の過去を語り、生きるためにしかたのないことだと、思わせたからだ。アリスはそのことを疑いもせず信じた。
アリスは純粋にまっすぐでやさしすぎる。だからこそ自分がエリックとともに人殺しをしていたなんて言えない。ほんとうの真実を言えば幻滅されるだろう。
いつのまにかアリスにあこがれ、好かれたいという気持ちを抱いていた。アリスにはわたしにないものを、たくさん持っている。わたしはそれに強く惹かれた。だからその存在にきらわれたくなくて、自分の過去を隠した。アリスは素直に自分のことを包み隠さず語っているというのに……。
エリックがいなくなってしまったいま、わたしは心のよりどころをアリスに求めていた。だからこそアリスを救うためにエイトへともどってきている。ほんとうならエリックが亡くなったときにどこか遠くに逃げ出せばよかったのに、そうしなかったのはそのためだ。
もはやわたしはだれかに依存してないと、生きていけない弱い人間なってしまったのだろう。だからわたしは自分のためにあなたを助ける。こんな卑怯なわたしをゆるしてね、アリス。




