92 雷光が来航する
ついに賢者の杖を取り返したのもつかの間、エリッタによって持ち去られてしまった。
僕、ジキル、パメラ、リーフの四人はエリッタを追ってフェイベル王国を目指すことになった。
メリクル神父は怪我人の治療のため、エンプティモの街に残る。
そしてリプリアは先行してエリッタを追跡している。
僕達は旅の準備を整え、遅れて街を出発しようとした。
その途中、街を出るとき帝国軍の偉い人に呼び止められて、感謝の言葉をもらった。
そして勇者ジキルに握手を求めていた。
僕?感謝の言葉だけだったよ。
色々と話したそうな気配だったのだけれど、先を急ぐと言ったらあっさり通してくれた。
それどころか兵士達が集まり道に並び始め、僕達を敬礼しつつ送り出してくれた。
さらに街の人達からも、感謝の声援をもらった。
恥ずかしいから静かに街を出たかった。
おそらく今回の件は勇者ジキルの逸話として語られることになるだろう。
勇者の仲間達?
たぶんおまけ程度に話に出てくるのではないだろうか。
ということで勇者に落選した僕はおまけ扱いだ。
別に良いけどね。
そしてフェイベル王国に向けて歩き始める。
来るときもそうだったのだけれど、フェイベル王国への帰路は馬車を使わずいったん徒歩を使う方が早い。
出産騒動のあったトルポップの村を経由して、その隣にある街から馬車を使うと日数が短縮できるのだ。
エンプティモの街とトルポップの村の間は、馬車が通れない道があるのが理由だ。
馬車でいこうとすると、大きな迂回ルートで余計に時間がかかってしまうのだ。
僕達はトルポップの村の近くへ向かう途中、嫌な気配に気がついた。
遙か遠くから不吉なものが膨れあがっている。
「なんだろう、これ?」
僕は疑問を口にする。
ジキルも何か感じ取っていたようだ。
「攻撃的な魔力の塊のような。
ここにいたら危ない、そんな予感がする。」
ジキルはそう言った。
パメラとリーフはキョトンとしている。
特に何も感じてはいないようだ。
心臓の鼓動が早くなる。
なんだか分からないけれどマズい。
とにかく不安がいっぱいに広がる。
次の瞬間、空が真っ白に光る。
夜空の雷光によく似ている光だ。
しかし今は昼間だ。
凄まじい光量だった。
しかしあっさりとその光は消え去った。
「いったい何なの?」
パメラが少し怯えた表情で言った。
僕も疑問を口にしようとしたその時、凄まじい轟音と揺れが襲いかかる。
僕達は一斉に伏せる。
揺れが続く。
そこに凄まじい突風が突き抜けていく。
「みんな大丈夫?」
ジキルが叫ぶ。
「今のところは。」
僕はそう答えた。
「私も大丈夫よ。」
パメラも答える。
「あわわ、大丈夫です。」
リーフも無事だ。
「もんだいなーし。」
シーリに接触判定は無いのでどうでも良い。
しばらく突風が抜けていった後、気がつくと揺れは収まっていた。
時間をおいて辺りを確認したものの、特に問題は無かった。
しかし何か尋常では無いことが起こったのは確かだ。
僕達は先を急いだ。
そしてトルポップの村に到着する。
いや、トルポップの村だった場所に到着したのだ。
そこは巨大なクレータだった。
雷光無双が発動していた。




