91 離れ行く花
試しの剣からカチッと言う音が聞こえる。
途中でつっかえた・・・。
僕は力一杯引き抜こうとしたけれど、そこまでだった。
「どうやら僕はここまでみたいです。」
いったん試しの剣を大主教エストファーンに返却する。
僕が勇者で無いことは確定した。
ちょっと恥ずかしい。
まあ大方の予想通りだったけれどね。
ただ、ジキルまで失敗するような大番狂わせだけは勘弁してもらいたい。
「ではジキル殿。」
大主教がジキルに試しの剣を渡す。
そしてジキルは剣を抜いた。
あっさりと。
そして試しの剣から真っ白い光が放たれる。
「おお神よ、ご照覧あれ。
地上に再び勇者が舞い降りましたぞ。」
大主教が白い光に向けて手を掲げる。
とても眩しく、暖かく、そして安心できる光だった。
照覧しているかもしれない神は碌でなしなんだけどね。
その光を無表情に見つめるリプリア。
対して驚きと喜びの混ざったような表情をして見つめるパメラ。
ついに勇者が誰なのか明らかになった。
希望の家にいたときには考えもしなかった人物、勇者ジキルが誕生した。
大主教は試しの剣を元の場所にしまい、僕達は部屋から外に出た。
部屋の外ではリーフが待っていた。
「あの・・結果はどうでしたか?」
リーフが聞いてくる。
「僕が勇者だったみたいだよ。」
ジキルがそう答える。
それを聞いたリーフが一瞬だけ嬉しそうな表情をし、すぐに深刻な表情になる。
「何かあったの?」
様子がおかしいリーフにパメラが尋ねる。
「それが・・・エリッタさんが賢者の杖を持って出て行ってしまったんです。」
リーフは落ち込んだ声でそう説明した。
「何だって?」
僕は驚いた声を上げてしまった。
まずい。
所々でエリッタの様子がおかしかったのは気がついていた。
しかしそういう行動に出てくるとは思わなかった。
全くの想定外だ。
「これを・・・。」
リーフは青い花を僕に差し出した。
「?」
僕は突然差し出された花について一瞬理解できなかった。
しかし思い出す。
僕が以前エリッタのお見舞いに渡した花に似ていたのだ。
「エリッタさんがこれをオキス君にって。」
僕は花を受け取った。
リプリアと目が合う。
指示を待っている目だ。
僕はみんなに状況を伝える。
「エリッタは恐らくクルデウス師匠の指示で僕に同行していたんだ。
多分そうだろうとは思っていたんだけど。
僕が王国側と対立する可能性を考えて賢者の杖を持ち出したんだろう。」
そして僕はリプリアに指示を出す。
「エリッタを見つけて賢者の杖の回収を。
極力エリッタは傷つけないように。」
「承知しました。
それでは失礼します。」
リプリアはすぐに行動に移った。
「ルディン・・・。」
ジキルが心配そうな表情で呟く。
「行動速度の速いエリッタに追いつくには、リプリア単独の方が都合がいい。
恐らくエリッタは来た時と同じように、フェイベル王国経由でブリデイン王国に戻る事になるはず。
僕も準備を整えて後から追いかけることにする。」
そうジキル達に告げた。
「僕達も行くよ。
もともと旅の目的はルディンを見つけることだったんだから。」
ジキルはそう申し出た。
「ありがとう、助かるよ。」
僕はその申し出を快諾した。
そして魔王の息子と勇者のパーティーがここに誕生することになった。
僕は残された花を見つめる。
エリッタが僕を裏切ったのか、僕がエリッタを裏切ったのか。
ふとそんなことを考えた。
裏切り無双だった。




