90 しくしくと進む祝福
ルディンからさらに追加情報として、神の遺跡の封印の解除方法を教えてもらった。
解除に使う計算式はとてもでは無いけれど、時間制限が設けられている中で計算できるような内容では無かった。
そして機械式の演算装置を作った場合、実際に設計してみなければ分からないけれど、恐らくかなり大がかりな装置になってしまうだろう。
とても現実的では無い。
魔術回路で演算を行うのも、今の僕では厳しい。
賢者の杖の助けがあっても、あんな複雑な演算用魔術回路は一朝一夕に作れるようにはならない。
魔術師オルドウルは、実は凄まじい天才だった。
彼は古代遺跡に唯一残っていた神鳥フローリアの制御権をクラックして取得するという神業も行っている。
死んでしまったのがあまりにも惜しい。
そしてどうやら彼は、魔神ギスケの指示系統で動いていたようだ。
この街を救いに来たのも、魔神ギスケの指示があったようだ。
とりあえず大聖堂へ行こう。
ルディンがもたらした情報があまりにも凄まじすぎて、みんなも気持ちの整理がついていない。
今後の行動を決定するために、そろそろ誰が勇者か白黒ハッキリ付けておこう。
ということで僕達は大聖堂へ向かった。
案内人のメリクル神父がパーティーから外れているが、リーフがいるから問題ないだろう。
僕達は街の北側にあるエリッセン大聖堂へ向かった。
大聖堂という名前なのに、王国首都ロブルトンの聖堂より小さい。
完全に名前負けしていた。
僕達が中に入ると、初老のシスターが迎え入れてくれた。
リーフが話を通すと、大主教と呼ばれる人物が出てきた。
「勇者としての洗礼を受けに来た方ですね。
私は教会の代表として大主教を賜っておりますエストファーンと申します。
先の件で立て込んでおりまして、お恥ずかしいことに私とシスタークローリー以外は留守にしております。
洗礼を受けに来られるお方は数年に一度程度現れるのですが、二人同時においでになったのは初めてです。」
そう言うと、大主教自ら奥へと案内をしてくれた。
数年に一度は候補がやってくるようだけれど、結局試しの剣が抜けたのは勇者ジェイエルが最後だったのだろう。
歩きながら自己紹介をする。
「街を救った子供達の話は聞き及んでおります。
その活躍は勇者と呼ぶにふさわしいもの。
勇者ジェイエルが姿を消してから八年、私は今日再び勇者が現れると確信しております。」
そして大主教は大きな扉の前で足を止める。
「ここからは付添人をそれぞれお一人ずつでお願いいたします。
それと武器の携帯は禁止させていただいておりますのでこちらへ。」
僕は賢者の杖を、ジキルは剣をその場に置いた。
ステータスが下がったせいか、シーリが消える。
それに対し大主教が何か言いたそうな顔をしていたのだけれど、結局何も言われなかった。
「ジキルの付添人は私が行くわ。
ここまで来たら結果を見届けたい。」
パメラが付き添いを希望した。
「アタイはここで待ってるよ。
リプリアが行ってきたらどうだ?」
珍しくエリッタが遠慮する。
「オキス様、私が付添人と言うことでよろしいですか?」
リプリアが僕に聞いてくる。
どうせ剣を抜くだけなので、付添人が誰かというのは重要では無い。
「うん、頼むよ。」
僕はそう答えた。
付き添いの二人も武器を置こうとしたのだけれど、パメラは糸を持ってしばらく考えた後、一応その場に置いた。
糸だから持ち込み可能かどうか微妙なところだ。
その気になれば自分の着ている服をほどいて武器にしそうだ。
この場に残るのはリーフとエリッタになった。
そして大主教の手によって大きな扉が開かれる。
僕達は部屋の中に入る。
そして大主教が扉を閉じた。
僕達は奥へと案内される。
奥には大きな箱が置いてあった。
大主教が箱のふたをスライドさせる。
そしてオリジナルの試しの剣を取り出した。
「どちらから祝福を?」
大主教が聞いてくる。
僕は前に進み出た。
恐らく試しの剣はジキルを選ぶだろう。
だから先にやって、自分が勇者では無いことを確認しておきたい。
そんな理由から僕が進み出たのだ。
「ではオキス殿から。
こちらを。」
僕は試しの剣を受け取った。
そして僕は手に力をかけた。
僕は試しの剣を引き抜く。
剣の刃が姿を見せ始めた。
次回、無双勇者の誕生か




