75 平気ではいられない兵器
魔族の男の名前はペイストン。
周辺地域の諜報活動と攪乱工作が仕事で下っ端だと自称している。
今回の件は、フェイベル王国の研究施設襲撃の訓練のためらしい。
研究施設を襲撃する理由を問うと、興味深い情報が出てきた。
研究施設は神の遺跡に建設され、そこから放出される魔力を利用して強力な兵器を作ろうとしているらしい。
その兵器は神魔砲と呼ばれている。
開発が最終段階に進むと射程距離は隣国を狙えるほどのロングレンジ、威力は一個師団に致命的な損耗を与えるレベルになるという。
「教会の立場からすれば許せない話です。
神の遺物は神聖なもの。
それを兵器に利用するとは許せません。」
話を聞いたメリクル神父は憤った。
ちなみに教会が神の遺物と呼んでいる遺跡はブリデイン王国にもある。
首都ロブルトンの神聖区の中なのだけれど、教会が厳重管理しているため結局僕は近づけなかった。
フェイベル王国の遺跡は王家の管轄下で管理されている。
兵器として流用可能なのは、教会の影響力が低いからだろう。
「その兵器開発の話ですが、ブリデイン王国も一枚噛んでますよね。」
僕が思ったことを口にした。
「ちょっと、フェイベルとブリデインは中立関係だよ。
同盟も結んでないのに、開発協力なんかするわけが無いよ。」
エリッタがムキになって反対意見を唱える。
「なんだ、知ってたのか。
お前、何者だ?
あ、いや、知ってらっしゃいましたか。
さすがですね。」
リプリアの冷たい眼光がペイストンを威圧する。
彼は蛇に睨まれた蛙だ。
ブリデイン王国のやろうとしていることが読めてきた。
帝国に侵攻しようとしている理由は、帝国にある神の遺跡が目的だろう。
そこで神魔砲を建設し、魔領にいる魔族達と戦うつもりだ。
距離的に考えるとフェイベル王国の神魔砲は、帝国軍と戦うのに使うつもりなのだろう。
帝国と一緒に魔族と戦わない理由も分かった。
もし帝国に神魔砲を建設した場合、帝国に強力な戦力を与えることになる。
その砲撃が自分の国に向けられるのを警戒して、国ごと乗っ取ろうとしているのだ。
師匠はそれを最善だと考えたのか。
「研究施設を襲撃したとしても、結局開発が遅れるだけですよね。
また作り直せば良いのだし。」
僕が疑問を口にする。
「そうなったら、また襲撃を繰り返すつもりだったんだ。」
「行き当たりばったりですね。
もう少しマシな作戦は無かったんですか?」
「遺跡の封印を解いてしまえば、魔力を流用ができなくなるはずなんだ。
上から聞いた話によると、全ての遺跡の封印を解かない限り神は降りてこないんだと。
俺が、だったら一つぐらい封印を解いても問題ないって上に言ったんだ。
そうしたら魔王様から封印には絶対に手を出すなと厳命されてるって。」
ペイストンの言っている魔王は、現魔王のことだろう。
母は封印解除派、叔父は封印解除反対派だ。
封印を解けば兵器の使用は不可能になる。
人間同士の戦争が阻止できるかもしれない。
僕はリプリアを見る。
「まずは帝国へ。
今の私たちでは遺跡に関しては何も出来ません。」
リプリアはそう意見を述べた。
なるほど「今」は無理だ。
封印の解除に賢者の杖が必要だとブリゲアンは言っていた。
杖は帝国にある、最初からの目的地だ。
次の瞬間、リプリアがペイストン体に剣を突き立てる。
そして凄まじい光が剣から放出される。
ペイストンは一言発することも無く絶命した。
「オキス様、目的は達成しました。
一度、村へ戻りましょう。」
「・・・ああ、そうだね。」
ギグウロフを操っていた者はもういない。
きっと山奥へ帰っていくことだろう。
僕達は無残に転がった魔族を残して、村へ戻ることにした。
リプリア無双中。




