64 時点を超える辞典
ここはフェイステラ渓谷にある窪地。
僕は相変わらずこの場所にいる。
時々自分に回復魔法をかけて治癒を促している。
ブリゲアンからもらったポーションの効果もあって、状態はだいぶ良くなってきた。
『ねえ、ねえったら。』
僕のユニークスキルから呼び出しだ。
「聞こえてるよ。」
回復に集中したいので後回しにしたかったのだけど。
『自己紹介して良いかしら。』
「ああ、お願いするよ。」
『えへへ、アタシの名前は・・・無いから付けて。」
ガクッとする。
若干傷に響くからやめて欲しい。
「名前は後で付けるから、どういう存在なのか先に教えてくれる?
最初に君の声が聞こえたのは、賢者の杖とリンクしたときだったね。
あれは僕の能力が引き上がったから、一時的に君が使える状態だったんだよね。」
『うん、そうだよ。
今のオキスはレベルが上がったから、賢者の杖無しでアタシを呼び出せるんだよ。」
呼び出す?
いや、さっき僕が呼び出されたから。
「岩が落ちてくるときにオキスが言っていた通り、私は魔王種に発現する固有スキルなんだ。
能力を知りたい?』
「・・・。」
何かろくでも無い嫌な予感しかしない。
『ねえ、知りたいでしょ。』
「聞いておこうかな。」
五月蠅くなりそうなので、聞くことにした。
『もう、ノリが分かってないわね。
私の能力は「異世界の辞典」よ。
知りたいことを異世界の記録から引き出せるすっごい能力なんだから。』
「異世界?
この世界の情報は?
魔法の情報とかさ。」
『この世界固有の情報は無理でーす。
オキスの前世の世界の情報限定だよ。』
「・・・。」
『ちょっと、なんで黙るのよ。』
やっぱり微妙な能力だった。
魔力無限回復や空間操作に比べると格下も良いところだ。
「名前を付けよう。」
『あー、話を逸らしたでしょ。』
「sir・・・、いやマズい。
尻はマズい。
シーリにしよう。
君の名前はシーリだ。」
『ちょっとその名前で検索をかけていい?』
「検索?
構わないけど。」
シーリの異世界の辞典が発動する。
『あー、酷。
そういう意味で付けたの?』
意図がバレた。
「良い名前だと思うよ。
うん。」
『そ、そお。
なら良いわ。』
単純だった。
『それからオキスの能力が上がると私も成長するから。』
「もしかしてこの世界の情報を調べられるようになるの?」
『たぶん無理。
そういうのじゃなくて、なんとオキスや他の人にも私が姿が見えるように!』
いらん。
「じゃあ、能力のテストをしてみよう。
どうやって使えばいいの?」
『ちょっとー、なんで話が変わってるの?
もー。
調べたいことを私に言ってくれれば、何でも調べるよ。
オキスからの命令があればオッケー。
アタシ自身には直接のアクセス権は無いのよね。
オキスが引き出した情報を私が伝える感じなの。』
「ますます微妙・・・。」
『ん、何か言った?』
「いや、じゃあ今の日本の総理大臣とか調べられる。」
『オッケー、調べるよ。』
僕は前世の世界の情報をいくつか引き出した。
前世で死ぬ前後の情報も。
そんなに知りたかったことじゃないんだけど一応ね。
こうして僕は前世の世界の情報を引き出す能力を手に入れた。
前世の情報でどうにかして無双したい。




