29 銃の運用は重要か
ブリデイン王国の首都ロブルトン。
人口20万人、帝国の都市を除けば最大級だという話だ。
元々王国は帝国に次ぐ国力を誇っている。
その為うちの母が帝国に粗相をした後は王国が活発に動き、帝国に叛意を持った国々を取り込み始めている。
いずれ戦争になるのかもしれない。
正確に言うならば、一部の地域では既にゴタゴタが起きているようだ。
街は石造りの建物ときれいに舗装された道、街灯もある、辺境の町とは大違いだ。
人通りも半端ではない。
僕は町長の伝手で商人達のキャラバンに入れてもらい、3週間かけてここまで来ることが出来た。
周辺諸国のゴタゴタで検問が強化されておらず、本来の状況であればもう少し早くたどり着けたはずだ。
商人の一人に一応の道順は説明された。
目指すは研究者が集まっている区画だ。
僕はキョロキョロしながら街を歩く。
田舎者丸出しだが、本当に田舎者なのだから仕方が無い。
ここは商業区画なのか、看板を見るかぎり、服や装飾品の店が建ち並んでいるようだ。
歩いている人達の服装も、辺境の町とは比較にならないほど上等だ。
靴も皆、革靴を履いている。
生活水準が驚くほど高い。
それに対して僕の服装は小汚いとしかいいようが無い。
完全に浮いてしまっているため、道行く人達にジロジロ見られている気がする。
僕は何とか研究区らしきところまで来た。
さすがに色々な研究を行っているだけ有って、警備の兵士の姿をぼちぼち見かける。
目的の建物の特徴も説明されていたんだけれど、似たような建物が多すぎて完全に迷ってしまった。
これは警備の兵士に聞いた方が早いと思っていると、赤みがかった長い髪の若い女性から声をかけられた。
「君、迷子?
もしかして道に迷っているの?」
若い女性は青い石の付いたペンダントをしていた。
この街の女性はアクセサリーを付けている人が多い。
さすがは大都市だ。
「はい、今日この街に来たばかりなのですが、似たような建物ばかりで。
研究区画にいるジェイソンさんに会いに来ました。
この近くだとは思うのですが、ご存じないですか?」
女性は一瞬だけ表情が凍った感じがした。
気のせいとも思えるほどのほんの一瞬だけ。
「魔術研究所のジェイソンさんね。
知っているわ、案内してあげる。
私の名前はブラニカ、あなたは?」
「オキスと言います。
クエルク自治領から来ました。」
その前は魔領にいたけど。
「そう、じゃあそのままオキスって呼ぶわね。
こっちよ、オキス。」
けっこうサバサバした人だった。
僕は説明に有った通りの建物に案内され中に入った。
「テイラン、お客さんを連れてきたわよ。
先生は?」
中には若い男がいた。
「君は?」
若い男が僕を見て尋ねた。
「オキスといいます。
エリザさんからの紹介で、ジェイソンさんに会いに来ました。」
「僕はジェイソン所長の助手のテイラン。
今、所長を呼んでくるよ。」
そう言うとテイランさんは、研究所の奥へと入っていった。
しばらくするとテイランさんが戻ってくる。
「今、忙しいから、オキス君に直接来て欲しいんだって。
所長はこっちだ。」
「じゃあ、私はお暇するわね。
オキスまたね。
テイランも。」
僕はブラニカさんにお礼を言った。
ブラニカさんと分かれた後、研究所の奥の部屋へ案内された。
中に入ると四十代前後であろうか、いかにも研究者だという顔をした男が何か製図をしている。
この人がジェイソンさんだろう。
「初めまして。
エリザさんの紹介で来ましたオキスと言います。
これが紹介状です。」
僕は紹介状を渡した。
男が紹介状にざっと目を通す。
そしてこう言った。
「この図面で作った物を何に使うか分かるか?」
僕は図面を見る。
ライフルの形をしている。
しかし銃弾を撃ち出す構造は似ているが、疑似魔術回路が組み込まれている。
そして魔力を貯めるパーツを発見した。
「魔力で小さな物を打ち出す武器ですね。」
まあライフルの知識があれば誰にでも答えられる。
それ以外の回答が出てくるとすれば、すごい発想力だ。
「ほぉぉ。」
なにか無茶苦茶感心しているようだ。
「私はこの研究所の所長をしているジェイソンだ。
なるほど、エリザ様が書いている通り・・・。
魔法を習いに来たんだろう、歓迎しよう。」
魔領時代にマジックアイテムの製造について、爺から少し聞いていた。
魔術回路を物に刻み込むには疑似魔術回路を構築する必要がある。
ICチップのような物なのだが、作るのはそう簡単では無い。
「これだけ小さな疑似魔術回路だと安定させるのが難しそうですね。
きちんと制御しようとすると術式が大きくなりすぎて大型になってしまうし・・・。」
ジェイソンさんは何故かうれしそうに頷いていた。
魔銃無双とか出来るのかな。




