28 瘴気が消えても戻らない正気
森の瘴気が消えた。
魔術師は死に、糸を引いていた魔族は逃げた。
魔術師の名前はワイアデス。
王国では魔法に精通し、マジックアイテムの製造において屈指の人物だったようだ。
そしてその魔術師と魔族に協力していた人間が拘束された。
拘束されたグラマンさんは正気を失った心神喪失状態だ。
あれから一年経った。
僕は希望の家で他の子供達に文字と算数を教えている。
しかしもうすぐここを出ることになっている。
魔法を習うために王国へ行くからだ。
エリザさんから「王国に知人がいるから、行ってきなさい」と。
彼女は僕の細かい事情に関して、何も言わなかった。
ジキルとパメラは体を鍛えだした。
ルディンを救えなかった事を思ってのことだろう。
時々エリザさんに師事を受けている。
カシムもたまに加わっている。
カシムは冒険者になるんだそうだ。
僕は賢者の杖のおかげで、精神系魔法に関してはかなり使えるようになった。
元々魔王種の得意属性なのだけれど、あの時に知識として流れ込んできた専用関数のおかげだ。
他の魔法に関しては残念ながらまだまだだけれど。
事件の後、ルディンの葬儀をした。
体は埋葬されたけれど、魂はあの杖に宿ったままだ。
必ず見つけ出さなければならない。
このことはジキルとパメラにも話してある。
僕もみんなも強くならなければいけない。
あの魔族と渡り合える程度には。
僕は前世の記憶を持っているため、この世界では傍観者のような気持ちを持っていた。
周りの状況を観察し、何となく観客のような気分だったのだ。
けれど友達を失った痛みがそんな気分を吹き飛ばした。
ここは今僕が生きている現実なのだと、そんな当たり前のことを認識させてくれた。
冒険者四人は事件の後、王国へ帰っていった。
もともとの出身地はブリデイン王国なのだ。
この辺境の町よりも遙かに大きい王国の首都ロブルトン、僕ももうすぐそこへ行く。
そういえば最後まで槍の人の名前を聞きそびれてしまった。
今度会ったら絶対に聞こう。
そして最初に目標にしていた魔領への帰還。
忘れたわけでは無い。
王国はここよりも魔領に近づく。
こんな辺境よりも情報が集まりやすいはずだ。
僕がこの国へ転位していたとき、見事なタイミングで戦闘が起こっていた。
あの後、両国ともそれ以上の戦いは行わず停戦した。
意味が分からない。
魔族の帝国への侵攻、勇者の魔王討伐、各国の混乱、魔王の息子の消息不明、辺境での魔族の策謀。
ピースがバラバラで、絵を形取る段階に無いけれど、何か繋がっているような気がしてならない。
僕の思い過ごしなのかもしれないけれど。
それから、杖を手にしたときに聞こえた女の子の声。
今は声が聞こえないながらも、その存在を近くに感じる。
何となく正体に察しがつくような気がする。
けれど外れたら恥ずかしいので今は結論を出すのはやめよう。
いずれ本人が正解を口にするだろう。
グラマンさんが不正な商売でため込んでいた資金が町の物となった。
相当な金額だったらしい。
町長はそのお金の一部を、今回の事件で行方不明になった冒険者の家族や、被害者が出た希望の家に配った。
そして希望の家に配られたお金の一部が、僕の王国へ行くための費用となった。
僕は6歳となる。
王国で無双が始まる!といいな。




