17 矢が飛んできたらヤだな
辺りは薄暗くなっていた。
木々や草が鬱蒼と茂っていて、魔領ほどでは無いけれど、瘴気が立ちこめている。
僕は慣れたものだけど、二人はこの気配に完全に飲まれていた。
「来た道を戻るのはやめた方がいい。迷うのは覚悟で、行けるところへ行こう。」
追われるリスクを考えると、とにかく小屋から離れなければならない。
ただし来た道を戻ろうとすると、発見されるリスクが高まる。
探す側の立場になって考えた場合、もうすぐ夜になろうという時間に、こんな場所で本気で隠れられたら見つけるのは困難だろう。
足跡などの痕跡に注意し移動した。
そして茂みの中に身を隠して、完全に暗くなるまでやり過ごすことにした。
時が経ち、薄暗い時間から夜になった。
僕は魔王種、魔族だ。
そして魔族は夜目が利く種族が多い。
僕もある程度の暗視能力がある。
そのおかげで、空が曇り月明かりすらほとんど無い状況ながら、多少の視界は確保されていた。
この闇に紛れて迂回しつつ町まで戻りたいところだ。
本当はそのつもりだった。
しかし曇っているのは誤算だった。
僕はともかく、他の二人を暗闇の中歩かせるのは不可能と言っていい。
そして問題はそれだけでは無い。
曇っているせいで星が見えないのだ。
この世界にも北極星に相当する星があるのだけれど、それが見えないので方向がさっぱり分からない。
どうやら朝までじっとしているしか無いようだ。
「二人とも、今のうちに寝ておくといい。何かあったら起こすから。」
二人は恐怖による疲労でボロボロだ。
今のうちに体力を回復してもらわないと、この後が大変だ。
「オキス君は大丈夫なの?」
「見ての通り僕は平気だよ。心配しなくて大丈夫。」
ジキルが申し訳なさそうにしている。
しかし二人ともいざ横になると、あっという間に寝入ってしまった。
「まあ、こんな状況じゃ無理も無いか。」
二人ともまだ幼い。
今までずっと気を張っていたのだ。
ここまでよく頑張ったと思う。
僕は辺りの気配を伺いながら朝日が出るのを待った。
体感的にかなりの長い時間が経ち、ついに空が明るくなり始めた。
そろそろかと思った瞬間、緊張が走る。
遠くでかすかに茂みをかき分ける音が聞こえたのだ。
僕は音を立てないように二人を起こした。
茂みに身を隠したまま、音のした方向を伺う。
二人もすぐに僕が見ている方向に目をやった。
音が近づいてくる。
そしてその正体を捉えた。
町で見かけた冒険者4人パーティーだ。
彼らに保護してもらえれば、僕らを誘拐した男達は手出しできないだろう。
しかし僕は動けずにいた。
誘拐犯とグルである可能性があるからだ。
彼らに助けを求めて保護してもらうか、スルーして自力で町に戻るか、難しい判断だ。
そもそもこんな時間、こんな所で彼らは何をしているのだろう?
まだ距離は十分にある。
彼らの動きを観察しようと、再び目をやった瞬間あることに気がついた。
一人いなくなっている。
気配を後ろから感じた。
嫌な予感しかしない。
覚悟を決めて振り向く。
そこには冒険者の女いた。
弓を引き絞り、鏃を僕に向けている姿だった。
主人公属性があれば、死亡フラグ回避無双だよね。




