旧友3
三試合を終了して、人も増えてきたため、一旦休憩に入る。リアルマッチを終えた千華と佳奈美、適当にマッチング戦をしていた和馬も合わせて、大和たちは休憩ルームへと来ていた。さすがにこんな早くから休憩ルームに来る者もおらず、貸し切り状態だ。
「オーッホッホッホ、佳奈美さんは以外と素質がありますわ! この調子なら、ランカーも夢じゃありませんわ!」
「も、もう勘弁……」
千華と三連戦した佳奈美はくたくたになり、澄に泣きついて膝枕をしてもらっている。逆に、千華は満足そうにミルクティーを飲んでいた。
「俺も途中まで佳奈美ちゃんの試合見てたけど、凄いスピードで上達していると思うよ。このままだと俺もすぐに追い抜かされるかもなぁ」
「そんなことないですよ! 和馬先輩もすっごい強いじゃないですか! さっきのマッチングも勝ってたみたいだし」
佳奈美たちが練習を切り上げカプセルから出てきたとき、閲覧モニターに映っていたのは和馬の試合だった。それを見た佳奈美の感想だ。
「あれは結構運も良かったしね。相手も焦ってプレミしてくれてたし。けど、今の佳奈美ちゃんと試合になったら負けるかも……今の佳奈美ちゃんだとプレミとかしてくれなさそうだし……俺ももっと練習しないとなぁ」
「じゃあ一緒に強くなりましょうよ! それで、タッグとかもやってみたいですし!」
「お、それ良いね。なら今度してみようよ」
「賛成です!」
和馬と佳奈美は少し見ない間に大分仲が良くなっていた。もともとの性格ゆえか、二人の相性はかなりいいようだ。昔から佳奈美を知っている澄や千華から見れば、佳奈美は少なからず和馬に興味があるように見えるし、そんな様子の佳奈美と楽しそうに話している和馬も、まんざらではない様子だ。高校生と中学生で付き合うと聞けば、少し問題かもしれないが、あと一年とかからずに佳奈美も高校生になる。そうなれば、高校生同士、何も問題は無い。むしろ澄としては、佳奈美と和馬の関係を利用してでも、全く芳しい反応の返ってこない大和に、すこしでも振り向いてほしいところではあった。
二人っきりで狭いカプセルに入ったのにもかかわらず、いつもとまったく様子の変わらない大和に、自分が魅力のない女性なのかと少し落ち込みながら、自分の胸を見下ろす。中学三年生にしては起伏の少ないその部分に手を当てて、そっとため息を吐いた。
そんな澄の想いはつゆ知らず、当の大和は先ほどまでの戦闘内容について澄に話していた。
「一戦目に比べれば、二戦目三戦目も能力とユニットの選択は早くなってるな。実際戦ってみてどう感じた?」
突然の問いかけに、澄は慌てて答える。
「えっと、確かにウォーリアが早く動くように感じたわ。今までは、相手の隙を見てもカードの選択中にリカバリーされちゃったりしてたんだけど、そういうのが無くなって、ダメージ効率が上がった気がする」
そして、アドバイスを貰った直後のこの三試合は、全て勝利を収めている。
「ああ、気がするじゃなくて確実に上がってたな。後ろから見てれば一目瞭然だったぞ。実際、試合時間は徐々に短くなってる」
「カードの配置一つでここまで変わるものなのね」
「それがWFのアクションゲームとしての重大な要素だからな。現実のプレイヤーの行動が大きく反映されるシステムだからこそ、このゲームはカードゲームとしては異常なぐらいに流行ったんだしな」
トレーディングカードゲーム・テーブルカードゲームと呼ばれるものでは、どうしてもプレイング以上に、カードの組み合わせや、運の要素が強く入ってしまう。そのため、大会などでは同じようなデッキが上位を独占してしまったり、そのデッキを組むためには多額の資金が必要になるため資産ゲーなどと呼ばれるようになってしまう。
しかしWFの場合は、決まったデッキと呼ばれるものはほぼ無い。ある程度戦いの流れがある以上、種類としての組み合わせ方は決まってくるが、その内容、どのカードを組み合わせるかは文字通り千差万別なのである。プレイヤーの指示でウォーリアが動くため、蹄跡も役に立たないと、これまでのカードゲームの要素をことごとく破壊しているのである。
それゆえに、これまでのカードゲームプレイヤーには大きすぎる変化を受け入れられない人もいたが、それ以上に新規顧客の獲得に成功したのだ。
「兄さんがこんなにのめり込んだ理由が、何となくですが分かった気がする。上手くなるにつれて、どんどん面白くなってきちゃった」
「そりゃよかった。楽しめるプレイヤーが増えるのは、俺としても嬉しいからな。んじゃこのことだけど、午後は俺と模擬戦しながら、マイクで直接アドバイスしていくから」
先ほどの戦闘中も、余裕のある時はアドバイスなどを挟んでいたが、ほとんどが澄にまかせっきりの戦闘になっていた。それでも十分経験は入るし、勉強にもなるのだが、やはりその場でアドバイスをしながらやって行った方が効率はいい。
「分かりました。よろしくお願いします」
気合いの入った澄の声と共に、トレーニングは再開された。
その後、澄は順調に力を付けていった。予定より少し遅れたが特訓の二日目の朝には無事にⅢレアへとランクアップし、魔女の弟子フィナは見習い魔女フィナに名前を変え、能力も一般の魔女の物から、回復系へとやや特化した物に変化している。
そしてその変化に合わせてデッキを調整し直したり、戦闘の流れを調節したりしながら、一週間が経過する。
「おし、そろそろ仕上げと行くか」
「仕上げ?」
いつも通り休憩室でミーティングをしていた大和を除く四人は、大和の言葉に首を傾げる。
「澄も大分強くなったからな。そろそろあいつらに勝負を挑む時期だろ」
挑む時期と聞いて、澄の表情が鋭いものに変わった。絶対にカードを取り返すという気持ちが気迫となってひしひしと伝わってくる。しかし大和には、澄の手が若干ながら震えているようにも見えた。
「だから、ここら辺で澄の強さがどれぐらいまで上がってるのか、試験をしてみようと思う。その試験に合格すれば、そのままの勢いで勝負に挑むし、負ければ訓練の続行だ。ただ、そろそろ行かないと、玲人の性格的にこっちに乗り込んできかねないからな。あんまり悠長なことはしてられない」
勝負を楽しみにしている玲人が、いつまで待ってくれるかは誰にも分からないのだ。もしかしたら、明日にでも待ち飽きたと言ってディメンジョンに再び乗り込んでこないとも限らない。さすがにそんな状況は避けたいため、ここら辺で、澄の実力をチェックし、乗り込めるかどうかを図ることにした。
「相手は誰になるんでしょう? マッチングですか?」
「いや、相手は佳奈美にやってもらう」
「え? 私!?」
いつものように千華との試合で疲れ果てていた佳奈美が、突然の指名に驚いて顔を上げる。
「ああ。佳奈美もⅣレアに上がってただろ?」
「う、うん。一応上がってるは上がってるけど」
佳奈美も一週間でⅢレアからⅣレアへとランクアップを果たしていた。それもこれも、千華の猛烈な練習攻勢と和馬のサポートのおかげだ。
千華は、その持ち前のお嬢様気質で、佳奈美のプレイ料金を肩代わりし、ひたすら自分と戦うことで、格上の相手と戦って手に入る通常よりも多い経験値を佳奈美に与え続けたのである。おかげで、佳奈美は四日目にはⅣレアになり、その時にはすでに和馬ともいい試合をできるまでに成長していた。
しかしそれだけなら、大和も澄と佳奈美を当たらせようとはしなかっただろう。佳奈美を試合相手に選んだのはもう一つの理由がある。
「千華、特訓メニューは終わってるんだよな?」
「もちろんですわ! もうあの程度のことなら平然とこなせます事よ!」
「なら上々だ」
千華の返事に、満足そうにうなずく大和。
佳奈美用の特訓メニューには、佳奈美の実力アップのほかにも、もう一つの意味が含まれている。それは、対澄用の対策メニューである。
澄はワンオフカードという強力なカードを所持している。そのため、澄のデッキ内容を知らないマッチングの相手では、ほぼ確実にワンオフカードの効果が遺憾なく発揮されるのだ。しかし、今度の相手はそのワンオフカードを狙って来る相手。つまり、澄のデッキにワンオフカードが入っていることを知っている相手なのである。その時、澄はどう動けばいいのか、言葉では教えてあるが、実際に経験してみないと分からないことである。
大和との試合で何度かそんな状況を作りはしたが、やはり同じレベルで戦った方が、経験は得やすい。佳奈美のメニューにはそのための条件が仕込まれていた。
「佳奈美、今のあなたなら大和の育てた澄にも十分勝機がありますわ! ここらであなたの力を見せつけるのです! (そうすれば和馬から佳奈美にご褒美が貰えるかもしれませんわよ?)」
千華は、佳奈美にしか聞こえない程度の小さな声で後半を付けたす。それを聞いた瞬間、佳奈美の目に闘志が灯った。
「分かりました! その勝負受けて立とうじゃないか!」
「イイね。澄も良いな?」
「ええ、望むところよ!」
「うし、なら休憩は終了だ」
大和の合図で全員が休憩ルームから外へ出る。そのうちの二人からは、気迫が溢れていた。
・
フィナのマジックボールが連射され、アーサーの駆ける足もとを煙で覆っていく。しかし、アーサーは平然とその煙を突っ切り、ビルの間へと隠れてしまった。
「早い……捕らえられない」
佳奈美のウォーリア、アーサーはⅣレアにランクアップしたことで、騎士アーサーから聖騎士アーサーへと姿を変えていた。その変化のもっともな特徴が、アーサーの駆る軍馬だろう。フィナが箒に乗って空を飛ぶように、アーサーは馬を駆って地面を疾走する。しかも馬までしっかりと空走を使えるのだから、厄介この上ない。
戦況はすでにお互いがけん制を終え、本戦へと突入している。初撃を決めたのはアーサーで、ビルの間から今まで乗っていなかった軍馬で飛び出し、奇襲をかけたのだ。その作戦は見事に成功し、フィナのHPを三分の一ほど削っている。対してフィナは、威圧・けん制時に僅かに与えたダメージのみ。しかし、戦況は五分と五分だった。
「能力《魔女の夜宴》発動!」
少し上空に上がり、奇襲に備えたところで澄はフィナに能力を発動させる。それはⅣレアになってウィッチクラフトから変化した能力。魔女の夜宴は、フィールドが夜の場合、発動時にHPを回復できるというもの。しかし、次の発動までに三分のクールタイムが存在する。ダメージを受けてから使うことを考えれば、実質二回使える回復アイテムのような物だ。
月光に照らされながら、フィナの体が輝きHPが回復する。削れていた分の半分程度を回復したところで効果が終了した。直後、ビルの隙間から軍馬が飛び出してくる。
とっさに迎撃しようとマジックボールを放ったフィナだったが、マジックボールは軍馬を捉えることなく、その先のビルに当たって消滅した。
「え? どこに!?」
軍馬は途中で霧散するように消えたのだ。それはアーサーが能力を解いた証だ。急いでアーサーの位置を探すも、一度見失ったものを再び見つけるのは難しい。直後、後方から風を切る音がした。
とっさにその場から移動するフィナ。そのすぐ後を、アーサーの握る《勝利の剣・エクスカリバー》が通り過ぎていた。
「ここだよ! って躱された!?」
渾身の一撃であっただろう攻撃をかわされ、佳奈美が僅かに動揺する。しかしそれは、澄も同じだった。後少しでも回避が遅ければ、フィナは背中をバッサリ斬られていたのだ。今までの佳奈美とは思えない戦術の幅広さに舌を巻く。
「回復で敵の位置の把握を怠ったな」
「一安心するときが一番危ないんですのにね」
二人の試合を観戦する三人のなかで、大和と千華が同じように呟く。和馬は二人の上がり過ぎている戦闘レベルに唖然としていた。
そして試合は大詰めへと入っていく。
澄が能力を発動させ、フィナの手にマジックボールが現れる。アーサーもその手には新たな剣が握られていた。
そして始まる空戦。フィナは箒で、アーサーは軍馬で空を駆け、相手を自分の望む動きへと誘導していく。
フィナの箒が小回りの利くのに対し、アーサーの軍馬は最高速度でフィナの上をいっている。それぞれ特徴の違う飛行で、空を駆ける二人は、まるでドッグファイトをしているようにも見えた。
そして何度目かの交差の時、アーサーが軍馬から投げ出された。
よく見れば、フィナの周りには金色に輝く膜が張られている。ワンオフカード、極限の聖なる領域を発動したのだ。それに気づかずに突っ込んだアーサーは、与えるはずだったダメージを全て自分に受けて、その衝撃で軍馬から落下したと言う訳だった。
「やられた……けどまだ!」
「一気に攻めさせてもらうわ!」
アーサーは何とか落下中にバランスを立て直し、宙に止まる。しかし、そこにフィナのラッシュが掛けられる。
絶対的な防御力を持っている今ならば、フィナは相手からの攻撃を恐れる必要が無い。ひたすら攻撃に集中できるアドバンテージは相当な物だ。
当然のように、アーサーは反撃することが出来ずに、じりじりと追い詰められていく。そして、ビルの壁まで追い詰めたところで、フィナがフィニッシュ技を繰り出した。
《仕込み刀》と《抜刀》だ。基本的に魔女の攻撃はマジックボールか魔導書系ユニットによる魔法である。その全ての攻撃が遠距離から攻撃できる反面、威力は低いのだ。そこで澄が考えたのは、フィナに二枚のカードを使うことで、強引に攻撃力を引き上げる方法。相手の意表を突くこともでき、決まればかなり強力な技だった。
フィナの箒に小口が現れ、一瞬にして抜刀の構えを取る。そして振り抜かれた刀は、アーサーのエクスカリバーを破壊し、鎧を大きく切断した。
その衝撃にアーサーは背にしていた壁に突っ込み、大きな音を立ててビルが崩壊していく。
「魔女が居合ってどういうことよ!」
「知らないの? 最近の魔女は物理アタッカーなのよ!」
フィナはビルから距離を取ろうと、箒に跨り空へ上ろうとする。直後、ビルから赤い閃光が放たれた。その閃光は、まっすぐに飛翔し、極限の聖なる領域の効果が無くなったフィナの脇腹を貫いた。
「うそっ!?」
「へへんっ、油断大敵だよ!」
その閃光は槍だった。かの有名なグングニルをモチーフに作られた《グングニルの神槍》である。そのユニットの効果は投げれば当たるまで追いかけると言う簡単で強力な物。しかしその反面、かなり攻撃力は低く設定されていた。それこそ木の槍で突かれたのと同じレベルのはずだった。しかし、フィナのHPは大きく削られ、今は四分の一を切っている。
「あの選択はかなり上手いな」
「座学で私の考え方をひたすら叩きこみましたもの。今の佳奈美なら澄のカードセンスに引けを取りませんわ!」
千華たちが佳奈美に入れるように勧めたユニットは全部で二枚。今のグングニル、そして《憎悪の棘》という、相手から喰らったダメージの割合に応じて、次の一撃の威力を上げるというものだ。
澄が使う聖なる領域は、一時的に防戦一方になる。ならば、その効果が解けた直後に最大の一撃を叩きこむのが最良の手だ。そこに、防ぎきれないダメージ分を上乗せできるのなら、これほど強いものは無い。
「さて、今からフィニッシュタイムだな」
「どちらが決めてくれるか楽しみですわ!」
「もう佳奈美ちゃんも澄ちゃんも、俺の知らない遥か高みに上がって行ってしまったんだね……」
僅か一週間で実力的に完全に置いてきぼりにされた和馬は、目元に涙を浮かべながらしみじみとつぶやく。
そんな様子は知らない澄は、まさかの反撃に驚いたものの、何とか体勢を立て直し、次の攻撃の準備に移っていた。クールタイムの終わった魔女の夜宴でライフを少しだけ回復し、使い魔中級の能力で、自分の体を隠すようにカラスを集める。
一方アーサーは、グングニルで空いた穴からのっそりと這い出し、飛んでいるフィナを睨みつける。
そして同時に両者から赤いオーラが迸った。フィナが《聖天降霊》を、アーサーが《狂王化》を使ったのだ。これは全てのウォーリアが持つ、背水の陣といったような効果を持つ能力だ。防御力を減少させる代わりに、それぞれの特徴を上昇させる。アーサーならば、剣による攻撃を、フィナならば魔法攻撃の威力が格段に上昇しているのだ。今、両者ともが、お互いの攻撃を真に受けてしまえば、一撃で落ちる状態だった。
アーサーが瓦礫を蹴り、フィナが箒を駆る。
そして両者が交差するかのように見えた直前、フィナが箒を九十度曲げ、直角に上へと飛び上がった。突然の行動に驚くアーサーだが、軍馬を召喚し、ものすごい勢いでその後ろを追いかける。
「追いついてみなさい!」
「速さじゃ負けないよ!」
やがて、両者がトップスピードへと達した時、フィナの手にアーサーから見えないように一冊の魔導書が現れていた。
「掛かったわね。これで終わりよ!」
フィナが本を開き、どこの言葉か分からない言葉で詠唱をする。普通ならば警戒して距離を取るべき状態だ。しかしその行動は、フィナの体で隠され、アーサーの視界からは気づけない。直後、その本から大量の炎が噴き出した。
「嘘ぉ!?」
高速で飛行しながら火を噴き出せばどうなるか。当然炎は後方へと流れる。炎はフィナの体を包み込みながらさらに後方へと襲い掛かり、トップスピードになった軍馬では急な方向転換も出来ず、アーサーはその炎へと突っ込むしかなかった。
澄の画面にWINの文字が示される。
最後の炎、フィナは持ち前の魔法対性で何とかアーサーよりもHPを長く保たせることに成功したのだ。
カプセルから出た澄は、対戦相手だった佳奈美の方を見る。佳奈美は悔しそうに笑っていた。
「みみみ、おめでとう」
「ありがとう。佳奈美」
差し出された手をガッチリとつかみ、硬い握手を交わす。
「両者とも素晴らしい戦いでしたわ! まるでランカー戦を見ているようで、わたくしも大変ドキドキしましてよ!」
「ああ、いい試合だった。澄も佳奈美も凄い成長ぶりだな。これならあいつらに勝負を挑める」
「じゃあ」
「ああ、今週の日曜日。あいつらからカードを取り返すぞ」
「はい!」
大和の言葉に、澄は力強くうなずいた。




