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京へ

「壬生の屯所がまだ残っているらしいぞ」

 新幹線の中で、源さんがガイドブックを見ながら嬉しそうにそう言った。

「それはぜひ行ってみたいですね」

 受験が終わり、医大へ通う事になった山崎さんがそう言った。

「後、西本願寺もあるよ。蒼良がよく掃除をしていたあの広い部屋もあるよ」

 沖田さん、それは思い出したくなかった……。

「私たちは、よく掃除させられたりしましたよね」

 藤堂さんまで、あまり思い出したくないことを……。

「それは、私たちがそれだけ悪いことをやってきたからでしょうっ!」

 勝手に除夜の鐘を鳴らしたり、あんなことやこんなことをたくさんやったから、あそこの広い畳の部屋を掃除することになったんだろうに、まったくっ!

「それにしても、たくさん付箋がついていますが……」

 源さんのガイドブックからたくさん出ている付箋を見た山崎さんが言った。

「行きたい場所が載っている場所を、こうやってしるしつけたんだ。この時代は便利なものがたくさんあるなぁ」

 でも、そんなに行けるかわからないですよ……。

「源さんは欲張りだなぁ」

 沖田さんが付箋をさわりながらそう言った。

「でも、一番最初は嵐山に行くんでしょ? 今の季節は桜が綺麗ですよ」

 藤堂さんが楽しそうにそう言った。

「蒼良は嵐山に行ければいいんだよね」

 沖田さんはそう言って、意味ありげな視線を投げてきた。

 そ、そんな目で見ないでよ。

 土方さんの手紙で、桜の季節に嵐山で待っていると書いてあった。

 やっと桜の季節が来た。

 この一年は不安になったりして、いつもの年より長く感じた。

 土方さんの手紙に書いてある通りのことが起きるなら、土方さんの生まれ変わりの人が、嵐山で待っているはずだ。

「で、嵐山に行った後は、ここと、ここに行きたいんだが……」

 源さん、色々な意味でそんな余裕があるかどうか……。


 嵐山に着いた。

「俺はこことここに行きたいんだが」

 嵐山に着いてすぐに源さんはガイドブックを開いてそう言った。

「私は、行きたいところがあるので」

 土方さんと桜が咲くといつも見ていた、嵐山のあの桜の木の下に行かないと。

「私も、蒼良と一緒に行こうかな。どこに行くの?」

 藤堂さんがそう言うと、

「平助、なんて気がきかないんだ」

 と、沖田さんが言い出した。

「えっ? 総司、いきなりどうしたの?」

「平助は、僕たちと一緒に回るの。わかった?」

「えっ? いつ決まったの? 蒼良一人になっちゃうけど……」

「いいの、いいの」

 沖田さんはそう言いながら、藤堂さんを無理やり源さん達の所へ連れて行った。

 沖田さんなりに気を使ってくれたのかな?

 めずらしいことがあるもんだなぁ。


 幕末の嵐山と、現代の嵐山はほとんど違っていた。

 建物も違っていたし、川の堤防も、幕末の時は現代のような立派なものではなかった。

 ここら辺かもしれない。

 幕末から変わりようがない山の場所とかから何とか場所を特定したのだけれど……。

 私たちが見ていた桜の木はなかった。

 土方さんからの文には、なかった時のことは書いてなかった。

 とりあえず、ここで待っていればいいのか?

 私は、夕方まで待っていたのだけれど、土方さんと思われる人は来なかった。

「蒼良、ここで待っていたのか?」

 その声でドキッとしたけど、声の主は源さんだった。

「私たちがいた時と変わらない物もあったけれど、変わったものが多かったなぁ」

 観光を満喫したのか、満足そうな顔をして山崎さんが言った。

「蒼良は、何をしていたの?」

 藤堂さんの質問に、

「平助、蒼良が何をしようと関係ないでしょう? さ、暗くならないうちに宿に行こう」

 また沖田さんが気を使ってくれた。

「蒼良、帰ろう」

 沖田さんは、私の背中を軽く押した。

 土方さんが来なかったと言う事が分かったのだろう。

 私の背中を押した後、背中を優しくさすってくれていた。


 宿に着き夕食を食べ終わると、源さんが

「夜の京も満喫しないとな」

 と、ガイドブックを取り出して、みんなを連れて出かけていった。

「蒼良さんも行きますか?」

 山崎さんが誘ってくれたけれど、

「すみません。ちょっと疲れちゃって……」

 出かける気分になれなかった。

「えっ、具合悪いの? 診てもらった方が……」

 藤堂さんが心配そうな顔をしてのぞきこんできた。

「大丈夫だよ。ちゃんと夕飯も食べてたじゃん。ほら、みんなで行くよ。蒼良、留守番お願いね」

 また沖田さんに気を使われてしまった。

 みんながいなくなった後、泣くんだろうなぁと思っていたけれど、不思議と涙が出てこなかった。

 どうしていいかわからないぐらい悲しいことが起きると、涙なんて出ないんだなぁ。

 しばらく部屋でボーとしていた。

 これから、どうすればいいんだろう?

 途方に暮れるってこういうことを言うのかな?

 何でもない事と、土方さんの事を交互に考えていた。

 すると、いきなり部屋の戸がバンッ!と開いた。

 驚いて戸の方を見ると、息を切らせた藤堂さんが立っていた。

「蒼良、なんで私に言ってくれなかったの?」

 何のことだ?

「蒼良の様子がおかしいから、訳を知ってそうな総司を問いただしたら、全部教えてくれたよ。土方さんに会えなかったんだって?」

 沖田さん、話したんだ。

「土方さんに会えると思ってこの一年を頑張ってきたのですが、会えませんでした。やっぱり時を超えて出会うのは無理だったのですね」

 そう言うと、藤堂さんは私を抱き寄せてきた。

 私の顔は、藤堂さんの胸の中にあった。

「こういう時は無理して笑うところじゃないでしょう。ここは泣くところだよ。我慢しないで、思いっきり泣いてみなよ」

 我慢していない。

 涙が出てこないんだ。

「土方さんに、会いたかったよね、蒼良?」

 藤堂さんが私の背中をさすりながらそう言った。

「あ、会いたかったです」

 その一言を言ったとたん、目から涙があふれ出た。

「あの時、もう少し早く敵に気がついて土方さんを助けていたら、私も怪我をしなくてすんで、土方さんをここに連れてこれたかもしれないのに……」

 それが出来なかった自分が悔しい。

 そして、悲しい。

「そうだね、そうだね」

 藤堂さんは私の言葉に優しく相づちをうってくれた。

 どれぐらい泣いたのかわからないけれど、涙は自然ととまった。

 私も少しずつ冷静になってきた。

「す、すみません。藤堂さんの服で涙を拭いてしまって……」

 あわてて藤堂さんから離れた。

 私の顔があった部分は、少しだけぬれていて色かかわっていた。

「そんなこと気にしなくていいよ。私がそうしたのだから。それより、落ち着いたみたいだね。少しはすっきりした?」

 藤堂さんにそう聞かれると、少しすっきりしたように感じる。

「悲しいことがあった時は、まず思いっきり泣くこと。そうすると少しすっきりするでしょう? その後は美味しいものを食べるといいらしいけど。甘い物でも食べに行く?」

 まだそういう気持ちになれなかった。

「あまりお腹すいていないので……」

「そうか。じゃあ、ちょっと外に出ようか? 気晴らしに」

 それぐらいならできそうだなぁ。

 私がうなずくと、藤堂さんは私の手をひいて外に連れ出してくれた。


 夜の京の街をあてもなく二人で歩いていた。

 しばらく歩くと、藤堂さんが立ち止った。

「蒼良、私につきあってもらえるかな?」

「いいですよ」

 藤堂さんの頼みなら、聞いてもいいかな。

 さっきのお礼もかねて。

「ありがとう」

 そう言うと、藤堂さんは私の手をひいて歩き出した。

 途中でお線香を買おうとしていた藤堂さんを見て、どこに行くのかわかった。

「伊東さんのお墓ですか?」

 お線香を買うと言う事は、誰かのお墓に行くためだろう。

 藤堂さんがここでお墓参りをするとしたら、伊東さんのお墓だろう。

「私の師であった人だから。でも、みんなに伊東さんのお墓に行こうなんて言えないでしょう?」

 確かに。

 伊東さんは油小路で新選組の人たちに殺された。

 私たちから見たら、伊東さんは敵になる。

「でも、蒼良なら一緒に行ってくれるかなと思って誘ったんだけど。やっぱり無理かな?」

 いや、気持ち的には別にかまわない。

 藤堂さんが行きたいというのなら、一緒に行ってあげたいぐらいだ。

 しかし……。

「あのですね。伊東さんのお墓に行くには、前もってお寺の方に申し込みをしないといけないのです。藤堂さんは申し込みしましたか?」

「えっ、そうなの?」

 やっぱりしていなかったか。

「それに、申し込みをしていたとしても、夜はお墓に行けないと思います」

 というか、夜のお墓はあまり行きたくないなぁ。

「そうだよね……。蒼良、ごめん」

「藤堂さんは悪くないですよ。私が早く気がついて申し込んでいたらよかったのですよね。気がつかなくてごめんなさい」

「いや、蒼良のせいじゃないよ。そうか、せめて墓参りだけはしたい思ったのだけど、無理そうだね」

 笑顔でそういっていたけれど、藤堂さんが落ち込んでいたのはわかった。

「あ、あのですね、お墓は無理かもしれませんが、伊東さんが亡くなった場所にお線香をあげることならできるかもしれないです」

「本当に?」

 少し嬉しそうな顔になった藤堂さんが聞いてきたので、私はうなずいた。

「それならそこに行ってみよう。蒼良、付き合ってもらっていいかな?」

「もちろんです」

 と言う事で、私たちは油小路の変があった場所へ向かった。 


 油小路の変があった場所は道だった。

 今も昔も。

「これじゃあ、お線香は無理そうだね」

 車が通る道を見て、藤堂さんが残念そうにそう言った。

「すみません。調べもせずに期待させてしまって」

「蒼良は悪くないよ。もしかしたら、伊東さんが墓参りをこばんでいるのかもしれない」

 えっ、そうなのか?

「そんな怖い顔をしないで。伊東さんの事だから幽霊になっていないと思うよ、多分」

 多分って、わからないってことじゃないか。

 余計に怖くなってきた。

「大丈夫だよ。ここにいても何もできないから行こうか」

 再び、藤堂さんに手を引かれ、油小路を後にした。

 本光寺の前を通ったら、伊東甲子太郎外数名殉難之碑と書かれた碑と、説明書きがされたものがあったのだけれど、夜だったので本光寺の門も閉まっていて、碑がある場所も柵の外から見るだけになった。

「そうとう嫌われているね」

 藤堂さんは悲しい顔でそう言っていた。

「時間が悪かったのですよ。昼間来れば中に入れます。出直しましょう」

「そうだね」

 私たちは、買ったお線香をもって宿に向かって歩き始めた。


「ねぇ、蒼良」

 歩いているときに、藤堂さんが突然話しかけてきた。

「何ですか?」

「桜が綺麗だね」

 藤堂さんに言われて上を見上げると、夜の闇の中に薄いピンクの桜が浮かび上がっていた。

「本当だぁ、綺麗」

 昼間、嵐山で桜を見ているはずなのに、あの時は目に入っていなかった。

 ここで見た桜が、今日初めて見た桜のような感じがする。

「ねぇ、私じゃだめかな?」

 何がだめなんだろう?

 藤堂さんを見ると、真剣な顔で私を見ていた。

「私だったら、蒼良を泣かせないし、ずうっとそばにいる。だから、土方さんじゃなくて、私じゃだめかな?」

「すみません。土方さんじゃないとだめです」

「もう、会えないかもしれないんだよ」

 そう、会えないかもしれない。

 今日会えなかったんだもん。

 そう思ったら、また涙があふれそうになったけれど、我慢した。

「会えなくても、土方さんじゃないとだめなんです」

 土方さんに会えなくても、この思いを止めることはもうできない。

 それなら、ずうっと好きでいるだけでもいいよね?

「そうなんだ。わかった」

 藤堂さんは悲しい顔をしていたけれど、

「それなら、蒼良の心の中から土方さんが消えるまで待つよ」

 と言って、ニッコリと笑った。

「いつまでも待っているから、覚悟しておいてね」

 そ、そうなのか?

 そんな日が本当に来るのか?自分でもわからなかった。


「今日は、いよいよ屯所に行くぞ」

 次の日、源さんがガイドブックをもって先頭を歩き、私たちを八木邸に案内してくれた。

 っていうか……。

「源さんの案内が無くても、京の道のある場所は昔とあまり変わらないから、僕たちでもわかるよ」

 沖田さんの言う通りなのだ。

 周りの建物とか、ほとんど変わってしまっているけれど、この道を行くとここに出るっていう感覚が覚えているのか、ガイドブックとか見なくても場所が分かる自分がいる。

「せっかく調べたのに、そんなこと言うなよ~。ちなみに、八木さんの家の前に前川さんの家もあるぞ」

 得意気に源さんが言ったけれど、

「それは、私たちのいた時からそうでしたよ」

 と、山崎さんに言われてしまった。

「みんなして、そんなこと言うなよ~」

「源さん、大丈夫ですよ。みんな、からかっているだけですから」

「慰めてくれるのは、蒼良だけだ。ありがとな」

 源さんにごしごしと頭をなでられてしまった。


 八木邸の前につき、見学の手続きをし、ガイドさんの案内に従って中へ。

「うわぁっ!」

 中に入った途端、私たちが懐かしいものを見る感じでそう言ったので、ガイドさんは驚いていた。

「えっ、何か?」

「いえ、何でもないです」

 私はそう言って何とかごまかしたのだけれど、刀の傷の所に来ると、

「八木さんは、こんなものまで残していたんだぁ」

 と、沖田さんが言うので、ごまかすのが大変だった。

 その後、見れる範囲で見学できる場所を見学した。

 八木邸は、ほとんど当時のまま残されていた。

 だから、家の中から土方さんが出てくるような感じがしたし、どこかに原田さんや永倉さんもいるような感じがした。

「なんか、みんながそのまま出て来そうですね」

 私の隣に来た山崎さんがそう言った。

 山崎さんもそう思っていたんだ。

 でも……。

「出て来そうだし、実際にここにいるような感じもするんだけれど、会えないのですよね」

 そう口に出して言ったとたん、悲しくなった。

 思い出がたくさんあるのに、その思い出にたくさん出てきて、会いたい人がここにはいないのだ。

「いや、会えてますよ。ここに来て、みんなが出て来そうな感じがしたり、実際にそこに立って状況が頭の中に出てきたり、それが出来ると言う事は、もう心の中にその人がいるっていう事なのですよ」

 そ、そうなのか?

 でも、心の中にいても、会えたり話ができないのは辛い。

 そう思っていると、山崎さんがとんっと背中を叩いてくれた。

「大丈夫ですよ。ここに来れば、みんなに会えます」

 山崎さんはそう言うと、みんなのいる方へ行ってしまった。

 私は出る前にもう一度振り返って八木邸を見た。

「おい、お前っ!」

 と言って土方さんが出て来そう。

 出て来たなら、会いたいと思ったけれど、やっぱり土方さんは出てこなかった。

 

 一通り、壬生で新選組に縁のあった場所を回った。

 残っている場所もあれば、綺麗に無くなっているところもあった。

 そして最後に壬生寺に行った。

 壬生塚というところに、芹沢さんたちのお墓があると言う事で、昨日買ったお線香を出した藤堂さん。

「えっ、平助、用意がいいね」

 沖田さんがびっくりしてそう言った。

「いや、平助。それはここであげなくてもいいぞ。俺のをあげればいい」

 源さんも用意していたのか?

「平助のことだから、伊東さんたちの墓にあげるために買ったんだろう? ちゃんと明日の予定に入れてあるから」

「源さん、今は予約をしないと……」

「予約なら、ちゃんとしておいた。一応、新選組の参謀だった人だから、そっちも墓参りしないと化けて出るかもしれないだろう」

 ええっ!伊東さんの幽霊なんて、会いたくない。

「蒼良さんはそういう話題は弱いですね」

 怖がっている私を見て、山崎さんがクスクスと笑っていた。

 笑いごとじゃないんだからねっ!

「ありがとうございます」

 藤堂さんが笑顔で源さんにお礼を言っていた。

「お礼なんて、いらないさ。伊東さんの所にも墓参りに行くつもりだったからな」

「僕はできれば行きたくないなぁ。でも、伊東さんの幽霊を連れて帰って来ちゃったら、蒼良が怖がるでしょ? あっ、でも、お墓に行ったら、逆に『待っていたぞっ! 恨みを晴らしてやるっ!』なんて言って、伊東さんが出て来るかもね」

 沖田さん、そんなこと言わないでっ!

「その話題はやめてあげてください。蒼良さんが怖がっているから」

 山崎さんがかばってくれた。

「冗談だよ」

 沖田さんが言うと、冗談にならないからねっ!


 そんな感じでワイワイと壬生塚の中に入った。

 近藤さんの胸像が見えた時、源さんが目をこすってそっちの方向を二度見した。

「源さん、どうかしたのですか?」

「いやぁ、近藤さんの前に歳がいるような感じがして……」

 えっと思って、近藤さんの胸像を見た。

 源さんの言う通り、若い男の人がいた。

 私と同じ年ぐらいの人で、黒くて硬そうな髪をした男の人の後姿なのだけれど、そこから出させる雰囲気というか、オーラと言うか、そういうものが土方さんと同じものだった。

「えっ、まさかぁ」

 沖田さんもそう言って男の人を見た。

 男の人も私たちに気がついたのか、静かに振り向いてきた。

 その仕草が、土方さんそのものだった。

「間違いないっ! あれは歳だっ!」

 源さんがそう言った時、私はその男の人に向かって走り出していた。

 間違いないっ!

「土方さんですか?」

 私がそう聞くと、男の人はしばらく私を見下ろしていた。

 ち、違うのかな?

 そう思っていると、

「それは、だいぶ昔の名前だな」

 と、優しい笑顔でそう言った。

「ばかやろう。いつまで待たせるんだっ! ったくっ! 百五十年以上も待たせやがってっ!」

 そう言って、おなじみのげんこつが落ちて来たけれど、そのげんこつは優しかった。

「もうちょっと早く行こうと思ったのですよ。でも、手紙を見たのが昨年の五月で、一年ぐらい待たないと桜なんて咲かないじゃないですかっ! それに、嵐山でいつも見ていた桜の木も無くなっているし、土方さんはいないし……」

 もう途中から泣き声になっていた。

「わかった、わかった。もうお前を待たせねぇから、安心しろ」

 そう言って、土方さんは私を抱きしめた。

「何回か生まれ変わったが、お前の事だけは忘れなかった。忘れられるわけねぇよな。俺が本気で惚れた女なんだから」

「私も、ずうっと忘れませんでしたよ」

 百五十年と一年を比べたらいけないかもしれないけれど、もう時間とか関係ない。

「ちょっと待って。僕を見ても誰だかわからないの?」

 沖田さんが信じられないという感じで土方さんに聞いた。

「お前、誰だ?」

 私を抱きしめたまま、土方さんはニヤリと笑って沖田さんにそう言った。

「本当に覚えてないんだ」

 藤堂さんもがっかりしたような感じでそう言った。

「ま、いいじゃないか。過去のことを覚えている、覚えていないというより、大事なのはこれから先の未来だろう。未来を過去よりいいものにすりゃいい話だ」

 源さんがそう言うと、みんな笑顔でうなずいた。

 そして、当たり前のように土方さんも一緒に、私たちは壬生塚を後にしたのだった。


 過去の歴史はもう変えられないし、それを変えてしまうと、その人らしさやその人の生きざまとか信念とかそういう物も変えてしまう事になる。

 それに、変えてしまったとしても、その人がその人らしく生きればまた同じ歴史が出来上がる。

 どんなに結果が悲劇的なものであったとしても、それにかかわった人たちが、精一杯生きて生き抜いて選択した結果ならば、後悔をするってことはないと思う。

 きっと、みんな、精一杯生き抜いたんだよね。

 そして、私も一生懸命になって駆け抜けてきた。

 変えることが出来た歴史もあったけれど、結果的に何も変わらなかった。

 何人かが現代に来てくれたこと以外は、何も変わっていない。

 でも、後悔はしていない。

 それが、みんなの、精一杯生きた結果なのだから。

 

やっと最終回を書くことが出来ました。

少しでもこの話とかかわってくれたみなさん、ありがとうございます。


後は少しずつ誤字とかを直し、ちょっとした説明文もつけて行こうかなぁと思っています。

本当に、ありがとうございました。

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