第二十三話 新年と新たな想い
除夜の鐘の余韻が夜の静けさに溶けていき、新しい年の朝がやってきた。
凛が持ってきてくれた年越しそばを賑やかに平らげた昨夜から一転、元日の朝のリビングには、どこか引き締まった、けれど温かい空気が漂っていた。
「陸兄さん、おせち料理の準備が整いました。お雑煮も温まっています」
シックな和装エプロンを身につけた結衣が、ポーカーフェイスのまま手際よく重箱をテーブルに並べる。その手付きには、長女(義理の妹)としての誇りと、陸への深い愛着が満ちていた。
「あ、結衣姉ズルい! あたしも蒲鉾切るのお手伝いしたもん!」
隣で葵がぷくっと頬を膨らませながら、陸の腕にすりすりと頬を寄せてくる。
昨夜の「女の協定」を経て、葵の表情からはどこか吹っ切れたような明るさと、より一層真っ直ぐな恋心の光が感じられた。
「よし、三人でお祝いしようか。あけましておめでとう」
「おめでとうございます、陸兄さん」
「あけましておめでとう、陸兄ちゃん!」
三人でお雑煮を口にしていると、玄関のドアが「ガラガラッ!」と遠慮のない音を立てて開いた。
「あけましておめでとーーーっ! 陸、葵ちゃん、結衣ちゃん! 初詣行くわよっ!」
飛び込んできたのは、艶やかな晴れ着姿の凛だった。桃色の振袖に身を包み、髪を綺麗に結い上げた凛の姿は、いつものジャージや私服とはまるで別人のように可憐で、陸は思わず息をのんだ。
「な、なにジロジロ見てんのよ……っ! 晴れ着くらい着るわよ、日本人だもの!」
陸の視線に気づいた凛は、耳まで真っ赤にして扇子で顔を隠しながら強がってみせる。
「……凛先輩。とても綺麗です。でも、フライング気味にアピールするのはズルいです」
「そうだよ凛先輩! あたしたちも着替えて初詣行くんだから!」
◇
近所の神社は、新年の参拝客でごった返していた。
境内へと続く石段の途中で、押し寄せる人波に煽られた凛がバランスを崩しそうになる。
「っと……危ない!」
陸がとっさに凛の手を掴んで引き寄せると、振袖の柔らかい生地越しに凛の華奢な体がぴったりと密着した。
「……っ!? あ、ありがとう、陸……」
目の前で潤んだ瞳で見上げてくる凛の頬は、寒さのせいばかりではなくリンゴのように赤く染まっている。
「……陸兄さん、私も混雑で離れそうです。手を握っていてもいいですか」
反対側から、結衣が静かに、けれど強い力で陸の反対側の手をキュッと握りしめてくる。
「あたしも! 陸兄ちゃん、はぐれないように腕組んでいく!」
葵も負けじと陸の右腕にダイレクトにしがみつき、抜群のスタイルの柔らかさを伝えてくる。
両手に花どころか、三方向から押し寄せる少女たちの熱量と乙女心に、陸の理性は新年早々から限界突破の悲鳴を上げていた。
無事にお参りを終え、四人は境内の大きな絵馬掛けの前に立っていた。
「みんな、絵馬にはなんて書いたんだ?」
陸が尋ねると、三人は顔を見合わせ、いたずらっぽく、そして愛おしそうに笑った。
『今年こそ、陸兄さんの一番になりますように』——結衣
『陸兄ちゃんとずっと一緒にいられますように! 負けない!』——葵
『今年こそ素直になる! 陸の特別な一番は私よ!』——凛
絵馬に込められた三者三様の譲れない「恋心」。
昨夜の葛藤と絆を経て、さらに絆を深めた少女たちの戦いは、新しい年を迎えてもなお、より甘く、より賑やかに続いていくのだった。




