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プロローグ

「……これは夢よね?」


 目の前の光景に思わずつぶやいてしまう。

 だって、夢と魔法の遊園地くににあるお城みたいな宮殿に、ダイヤモンドでできているのかと思うほどキラキラで巨大ないくつものシャンデリアは、映画かマンガに出てくる華やかなお城のホールを明るく照らしている。

 もちろんホールには美しく着飾った人たちがたくさん集まっていた。

 わたしは会場を見渡して、あまりの豪華さにただ驚いている。


「綺麗でゴージャスなお花がいっぱい! 

 お部屋はお貴族様趣味の金ピカ! 

 集まっている人もドレスもお高そうだし美形だらけ! 

 美があふれて氾濫してる! 

 今すぐスマホで動画や写真を撮りまくりたい! 

 絶対バズるのに! あー、スマホが欲しいよ」


 ぶつぶつ言っていたらイイ声が頭上から降ってきた。


「なに言ってる。杏樹あんじゅは今宵の舞踏会で社交界デビュー(デビュタント)する主役の一人じゃないか。現実逃避か?」


 声の主を見れば、超絶美形の男性がわたしを見ていた。

 今も信じられないけれど、ダンスパートナーの彼はアロアベル共和国大統領子息でレヨンイエッタ・ウィクトル・アロアベル、愛称はレオン。

 元アロアベル公国の王子様で、その美貌は子どもの頃から有名で、ネットではファンが毎日のように写真を上げ、日本のテレビでも美しすぎる貴公子としてニュースにたびたび登場するほどだ。

 

 そんなセレブな彼が燕尾服を着てドレス姿のわたしの横に立っているのは、奇跡か世界の不思議でしかない。

 そしてレオンをパートナーにしてデビュタントに参加したのがバレたら、わたしが非難されて炎上間違いない。

 まったく知らない上に実在しない学生時代の友人だとか、仕事先の関係者とやらが、ろくでもないことを語ってくれたり、悪口をSNSで書いてくれたりするって知ってる。

 そして、それを信じた名も知らないレオンの熱烈なファンに突然ナイフで刺されたりするんだ。

 正直、今も考えるだけで震えが止まらない。


「現実だったか……」


「何だ、その残念そうな声は? 私では不満か?」


「いえ、逆です! わたしがこの場に不釣り合いすぎだと知っているだけです。

 だって、ビジュアル的にもうダメじゃないですか」


 なぜって、ここはヨーロッパのミニ国家 アロアベル共和国で、以前は宮殿舞踏会が開かれていたという格式ある舞踏会で、今宵社交界にデビューするデビュタントたちは世界でも有名な令嬢、令息ばかり。    日本の普通の家庭で育った中小企業勤めの平凡OL、おまけにアラフォー間近の自分なんか場違いでしかない。


「その言い方では、パートナーの私もこの場にふさわしくないという意味になるが?」


「違います! 『わたし』だけ、がです。

 大統領令息であるレオンにそんな風に思う人がいるわけないです!」


 強い思いを込めて言うと、彼はわざとらしく深いため息をついた。


「自分を卑下するのは止めろと何度言えばわかるんだ? 

 杏樹は日本人だから謙虚なのかもしれないが、度が過ぎると自虐になるぞ。

 それに私が、杏樹をパートナーにしたいと望んだんだ。

 杏樹は世界で一番可愛い女性ひとだよ」


 彼はそう言って腰を落としてわたしの右手を取り、映画のワンシーンそのままの美しい所作で指先に称賛のキスを落とした。


「杏樹は私だけの姫だ。会場のどんな花々(女性)よりも綺麗だよ」


 そう言った彼の宝石みたいなブルーサファイアの瞳に、わたしだけが映っている。

 彼の言葉を信じたいと思った。


「お手をどうぞプリンセス」


 差し出された手に迷わずわたしの手を重ねると、彼にエスコートされてきらびやかな舞踏会へ踏み出した。


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