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83.銃口の向き先 4

 中央に浮かぶ球体にオルタが触れ、ゼンマイ仕掛けの動力装置は激しい音を立てる。フラン王女の命令に従い、照準を向けているのだろう。


 次にオルタに与えられるのは、発射という一言だけだ。


 そうなれば、本当に終わってしまう。


 ペテロのように、一つの町が滅ぶ。


 何より最悪なのは、この攻撃で戦争が終わることは決して無いということだ。


 無限魔力吸収砲撃で死ぬのは魔法使いだけで、転生者は傷ひとつつかない。震駭の魔王は絶対に死なない。


 

 フラン王女も、勿論わかっている。戦争を有利に進めるためだけに、他を犠牲にするつもりなのだ。



「駄目だ……」


 力一杯暴れるが、背中に乗るソクラの力があまりにも強かった。うつ伏せで四肢を地面に押さえつけられている現状から抜け出すことができない。


 何か手立てはないのか。ソクラとシン先生にかけられた魔法を解かなければ。いや、僕が身動きが取れない以上、この二人を解放するなどできない。


 何とか首を回し、脳奪魔法の効かない転生者に助けを求めようとするが、ティール・オキニは僕よりも悲惨な状態だった。


 情けない呻き声を上げながら、オルタ・ルーゼンが命じる無数の細い自立型魔道具によって地面に縫い付けられていた。


 それならば、と。脳奪されておらず、魔王城の中で唯一動ける転生者は視線を向けた。

 プライドなんてあるわけが無い。情けなく、無様に叫ぶ。


「アランさん! 貴方も転生者なんでしょう! 戦争の無意味さは歴史で学んでいる筈だ! フラン王女を止めてください!」


 腕を組んでこちらを静観していた金髪の青年が眉をぴくりと動かした。自身がダルフ国の王族でないと明かされてからは、我関せずというスタイルだったアランではあるが、少しだけ興味深そうに笑った。


「などといっていますが、王女」


「ふふん、ヤユ・オーケア、貴方も愚かね。王族の相方として選ばれる転生者が誰なのかわからないの? アランはそこら辺の召使より信頼してるわ。転生者としてではなく、わたしの護衛として連れてきたのですよ?」


 「そんなこともわからないの」と嘲笑うフラン王女。最後の望みも正式に断たれた。


 戦争は始まる前に終わっている。


 彼女の用意周到さに叶うはずがなかった。全てを支配する王女の行く末を、僕は見続けることしかできないのか。


 無力だった。


 ヤユ・オーケアとして恥じぬ人生を送ってきた。天野ヒトミら変われた。そう思ったいたのに。


 

 僕の本質を目覚めさせるように、死を見せつけられる。

 見殺しを強制させられる。



「標準、南国、震駭の魔王城」



 機械のように、オルタは呟く。

 銃口は向けられた。後は、撃つだけ。


「それじゃあ、オルタ・ルーゼンに命じます。無限魔力吸収砲撃を……」

「王女よ。ちょっと、待ってください」

「どうしました? アラン」


 最終局面に見せる、初めての不愉快そうな表情。フラン王女はご馳走を前に待てを言われた子犬のように、アランに噛み付いた。


「まあまあ、落ち着いてください。この状況をひっくり返せるものは我々以外いません。少し、考える時間があってもいいのでは?」


「ヤユ・オーケアがわたしたちと同じ思想になることは、どれだけ時間がかかってもありえないでしょう」


「ですので。考える時間は貴女に必要なんですよ、王女」


 この男は何を言っているのだろうか。

 先の見えない話に、気持ち悪さを覚える。


 それは、フラン王女も同じだったようで、「どういうことです?」とアランを睨み返した。


「ヤユ・オーケアの言っていることも一理あるな、と思いまして。彼女の言う通り、数多の戦争の歴史を持つ地球に住んでいた俺は、戦争の無意味さを俺は知っている。仮初の平和を作ることもできず命の奪い合いをするなど時間の無駄です」

「ええ。だからこそ、戦争を終わらせるのです。震駭の魔王城を吹き飛ばし、南国を魔王の手から救い……」

 「王女、もっといい方法があります」と、アランは被せる。

 信頼できると断言していたフラン王女ではあったが、主張の強い召使の様子に違和感を感じていたようだった。眉を顰め、「なんですって」と返した。

「震駭の魔王を殺したとしても、戦争は終わらないでしょう。第二、第三の魔王が生まれるたびに、戦いは起きる。もっと根本的な問題があります。暫定的ではなく、恒久的な対応をするべきだ」

 「つまり」と、アラン王子は人差し指をフラン王女に突き立てた。

「王女が生まれたあの国がある限り、戦争は終わりません。滅ぼすならば西国ダルフでしょう」

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