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29.第二の難問 1

「見事正解ですわ!」


 魔王城二階、十二時の位置にある家主の部屋。

 モニタールームの如く如く無数のディスプレイが壁に貼り付けられ、衣装室の映像が映っていた。カメラの角度は中心の赤い染みから大きくずれていて、入り口に並ぶマネキンが無表情に映っていた。


 自分の娘の死体を写さないようにカメラの画角を変えたのだろうか。それとも、殺人現場の出入りを管理しているのか。彼女はそのどちらとも取れない明るい表情で、拍手を続ける。


 手の音に反応するように、風船のような宙を浮く白い球体が僕らの間で止まる。食堂でショートケーキを運んできた魔道具だ。今回は、ラベルのないワインボトルが中に入っていた。


「これで、全員が第二の難問へ辿り着いたことになります。祝杯として秘蔵のお酒をどうぞ。天国の魔王様が直々に醸造した、異世界の味を再現されたものですわ」


 世界に一つのワインである。オルタはワイングラスを手に取り、注ぎ始める。


「ありがたいですが、未成年ですし、遠慮しておきます。ソクラも……、要らないようなので」


「あら、連れませんね。未成年飲酒というんでしたっけ? 回復魔法によって最適化されるこの世界には無い概念ですが、あの子は飲んでいましたよ?」


 誰のことを指しているのかは聞くまでもなかった。十歳の少女がワインを飲むのは何とも犯罪臭のする光景だろうが、その少女が殺された殺害現場の映像を前に、深掘りする気も起きない。


 僕とケプトが背後のディスプレイを見ていることに気がついたのか、オルタは首だけ後ろを振り返る。「ああ」と声を漏らし、手元のリモコンでディスプレイを消した。


 ため息を消すようにグラスに口をつける。オルタも相当な童顔なので、子供がお酒を飲んでいるような光景には変わりはなかった。


「ケプトの前世について、何か聞いていますか?」


「いや、何も。会話も一回しかしてませんし」


 僕は平然と嘘をつく。

 ケプトの口元を覆う仮面は、彼女の発言内容がオルタに伝わる魔道具だった。しかし、僕の前世の話をしたのは、ソクラによって城内の魔道具がショートしていた時間になる。

 オルタがこうして確認をするということは、あの時間だけは発言内容を管理できていなかったことの裏付けになる。


 オルタはグラスをさらに傾け、ごくごくと喉を鳴らす。頬を赤みが帯びた頃合いで、「残念です」と呟く。


「ヤユさんと同じ十歳ですし、似た境遇だからこそわかる悩みもあったかもしれません。もっと落ち着いた場所で会えれば、『彼』も救わわれたでしょうに」


「彼、ですか。ケプトちゃんの前世は男性だったと」


「ええ。目を覚まして間もなく正体を明かした彼は自らのことを『放火魔』だと名乗りました」


 それは決して死んだ娘を思う母の表情ではなかった。悲痛ではなく憐憫。どこか他人事で、物語上の話を語るような。否、実際に他人事なのかもしれない。


「『放火魔』。火炎魔法で焼却することらしいですが、魔法無しにどうやるのかはわかりません。ただ、人を不幸にさせ続けていたこと、それを是としていたことだけはわかりました」


 お腹を痛めて産んだ子供が泣きもせずに大人の振る舞いをしたとして、愛せるだろうか。オルタ・ルーゼンは、ケプト・ルーゼンを娘として受け入れることはできなかった。それを責めることは誰にもできない。


「ケプトは魔王の素質がありました。死んで当然の人間だったわけです」


 彼女は小さな声でそう呟くと、グラスを最後の一滴まで飲み込む。

 僕もケプトが自らの素性を明らかにしていたから知っていた。放火魔、菅原コウ。天野ヒトミが命を絶った時には未だに指名手配中だったが、百パーセント死刑宣告が出る犯罪者だ。

 だが、僕は首を振った。耳の先まで赤くなった彼女に対し、素面な僕は「そんなことないと思いますけどね」と冷たく返す。


「死んだほうがいい人間なんて、この世界にはいないと思いますよ。良い意味ではなく、悪い意味で。僕やケプトちゃんが証明してしまっています。死んだとしても、またこうして新しい人生を歩むことができるんです。転生というシステムがある以上、死に償いの価値はない」


「あら、それは慰めと受け取らせていただきますわ。ケプトの来世に期待大、ですわね」


 何故か上機嫌になったオルタは再びワインを注ぎ、ぐびぐびと飲み始めた。アルコールを摂取する言い訳がほしかっただけなんじゃないかと思う飲みっぷりだ。彼女は呆れた僕らの様子に気が付いたのか、大きく咳ばらいをする。


「話を戻しましょう。第一の難問を見事解いたお二人には、次のステップに進んでいただきます。第二の難問の正答者は、ティールさん、シンさんの一組のみ。まだまだ、追いつくチャンスはありますよ」


 どうやら、ティールが昨晩のデザートの料理をたんとしたのも、独走しているからだったようだ。

 娘が死んだとしても、転生者と魔法使いの二人一組の知恵比べを楽しむらしい。オルタはいつも通りの不敵な笑みを浮かべ、第二幕の合図をだした。


「それでは、第二の難問を説明させていただきます」

 

 第二の難問

 門の存在に気が付いた経緯は何か


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