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30.第二の難問 2

「オルタちゃんも、ちゃんとお母さんだったね」


「どこが?」


 魔王城一階、衣装室。第二の難問を聞いた僕たちは改めて姿見ーー異世界の門の前にいた。鏡を通して天野ヒトミを眺めていると、ソクラがそんなことを言い始めた。


「ずっと、ケプトちゃんが死んじゃった言い訳を言っているみたいだったじゃない。あたしたちを前にして強がっていたけれど、やっぱり娘として見ていたんじゃないかなって思う。お酒を沢山飲んで、忘れているようにも見えたし」


「僕からしたら、逆に見えたけどな。ケプトを殺したのがオルタじゃないか、なんて可能性も見えてきた」


「それこそどこがよ」


「転生者と魔法使い、二人一組で第三の難問に挑む。主催者のオルタとケプトも、難題に立ち向かう挑戦者だった。これは、オルタ自身が話していたことだったな」


 鏡の向こうの天野ヒトミは、僕に合わせて口を動かす。

 異世界の門という、魔法学的にも科学的にも説明のつかないオカルト染みた代物。これを使って何をしようとしているかまではわからないが、オルタは壁にぶつかった。ケプトと二人ではどうしようもできない状況に陥った。それでも、転生者と魔法使いがいればこの状況は解決できると確信していた。


 だから、自分たちと同じ境遇の人間を集めた。第一の難問は、異世界の門の存在。第二の難問は、オルタ自身が異世界の門に気が付いた経緯を明らかにすること。問題を三つに分解し、一つずつ順番に解くことで壁の前に立つ人間を増やしていった。


 彼女からしたら、早く第三の難問に辿り着いてほしいのだ。だからこそ、テラスやカラスといった第二の難問を解き終わったものよりも、他の面々に力を貸した。オルタもまた、第二の難問を解いた後の状態で停滞している。


「そして、その停滞を打ち崩すのが、ケプトの死だ。前世を映す鏡が異世界と繋がるのならば、転生というシステムと密接な関係があると考えてもいい。それこそ、異世界転生してきた僕たちは、異世界の門を通ってきたとも言えるしな」


「第三の難問……、『異世界の門はどのようにして開くのか』の答えが、鏡の前で死ぬこと? そんな馬鹿げた話がある訳ないじゃない。第一、死んだ人間が異世界にいったってどうやってわかるのよ」


「飽くまで可能性の話だ。少なくとも、転生者が姿見に触れば肉体を残して吸い込まれるんだ。誰かの死がトリガーになってもおかしくはない。僕らと同じく殺人鬼にも確証がなかったから、ケプトを殺すことで試したのかもしれないな」


 僕らは改めて鏡を見る。ソクラはぺたぺたと姿見を触るが、彼女が気を失うようなことはなかった。僕が鏡に触れたら、鏡の中の世界に吸い込まれるというのに。


 先程は少し焦った。鏡の中に天野ヒトミとして閉じ込められた時は、呆気ない終わり方に絶望したものだった。

 自分の意思では戻れない虚無感に泣きそうになっていたところ、ソクラが僕の肉体を掴んで鏡面に押し込んでくれた。


 再び繋がりを得た僕は、鏡の中から肉体に意識を戻すことができた。この現象は魂の抽出と言えるだろう。


 異世界転生というシステムは、魂が別の肉体に移った僕という存在が証明している。魂ならば、世界の壁を突破することができる。

 

 衣装室の姿見は魂の抽出をすることができる。だが、それだけだ。異世界に移動することはできない。


 第三の難問、「異世界の門はどのようにして開くのか」は鉄道に例えるとわかりやすい。

 魂を載せる電車は用意できた。第二の難問、「門の存在に気が付いた経緯は何か」は隣の駅が異世界であることが何故わかったか、ということになるだろう。

 そして、線路を敷くことができれば、三つの難題が解き終わったことになる。


「それなら、オルタちゃんも、ケプトちゃんがこの鏡に触って気を失ったから、異世界の門だと気が付いたんじゃないかな」


「それが第二の難問になるかは怪しいな。確かに、世界の壁を超えられそうな現象だけれど、それは異世界への切符といえるほどのものではない。僕らは、異世界へ行く方法があると知っているうえで鏡をみているから、自然と繋がって見えてしまっている。答えを知っているから、途中式を飛ばせてしまっているだけだ」


「うーん。難しいわ。第一の難問と違って、物があるわけじゃないから調査でどうにかなる話じゃないわね」


 フィールドワークの種類が違う。歩き回るというよりも聞き込み捜査が主となる。ただ、その対象となるうちの一人が、僕らの足元で死体となって眠っているのだから、難易度は増している。


 オルタに問立てていけばいずれ答えが分かるだろうが、彼女はモニタールームの裏にあるベッドで寝てしまった。

 回復魔法で体内のアルコール濃度は適正値に強制されているはずだが、疲れてしまったらしい。仮にも娘が殺されたばかりの母を叩き起こすほど、僕らに遠慮がないわけでもない。


「そもそも、ケプトちゃんのお父さんはどうしたのよ。この空島に来ていないってのもおかしな話じゃない? さっき聞けばよかったかしら」


「いや、聞かなくて正解だ。この場にいないってことが答えだろう。離婚したか、死別したか」


 ケプト・ルーゼンは僕と同い年、つまり、十年前に生まれた。父親は少なくともその時にはいたわけだが、十年前というのが引っかかる。


 僕の両親は十年前に死んでいる。天国の魔王による巨大光線によって町ごと焼かれた。もしかしたら、オルタは僕らと同郷だったのだろうか。


 例えば、出産のタイミングでオルタだけは都市部の病院に行っていたとすればどうか。父親があの光線で死んだのならば、彼女が天国の魔王城に固執するようになった理由にも繋がる。


「どれだけ考えても、仮説の域を超えないな」


「やっぱり、失礼かもしれないけど、オルタちゃんに聞きに行く?」


「いや、その必要はない。彼女は三つの難問を用意した上で僕らを呼んでいた。オルタに頼らずとも、魔王城の中にあるもので第二までは解ける筈だ」


 十年前の天国の魔王討伐作戦についてまとめた資料が置いてある場所が一つある。


 姿見を隠すならば衣装室に。歴史を隠すのならば資料室になるだろう。


30話行きました

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