張り切りフェネックは進む 8
散々ほじくり返されボコボコになった地面のそばで、遅めの昼食を取る事になった。
相変わらず魔物が近付かないため、携帯食ではなく簡単にだが手を加えられた料理が出され、お腹を空かせて泣き騒いだレイシュの機嫌もたやすく持ち直すことができた。
「つまり、どういうことだ?」
「だから、基本的に魔石というのは、その土地の性質に染まった魔素が元になってんだよ。火山なら火、水底なら水、ってな。濃度が高まり魔素溜まりになった事で、生き物に影響があるのと同じように、地面にも影響が出る。つまり、魔石の正体は土に染みた魔素なんだ。長い年月をかけて、鉱山に鉱石なんかが出来るだろう。あれと同じだ。もっとも作成期間は短いが。土中の成分と魔素が結びつき、急速に結晶化する」
「ということは、何の性質を帯びていない魔素溜まりのあった土地に、レイシュが聖の性質を帯びさせた事で、土地が聖魔石を形成したってことか」
「そうだ。多分、煌めいていた粒子が聖の力を帯びた魔素だったんだろう。今までの浄化でそういった事がごく稀にしか起きなかったのは、魔素と聖魔力を相殺させていたからだな。無い物からは作れん。眷属様の場合は、聖魔力を帯びた魔素を消滅させるのではなく散らしたことが良い方に働いたな」
食事そっちのけでああだこうだと難しい話をしている2人を尻目に、レイシュは再び魔石の発掘に勤しんでいた。
そのすぐ上空を、子守り宜しく式神が着いて回っている。
魔物の発生地に居るわりに、実に長閑な光景だ。
『ふぃー。あなほりは、やっぱり楽しいね。でも、もうキラキラの石、無くなっちゃったぁ』
全身を茶色く染めあげて満足気な溜息をついたあたりで、グレンとヒューゴが近付いてきた。
結局、1日も立たずに魔素溜まりを発見し、まだ十分明るいうちに消してしまったために、居残る意味も無くなってしまい、野営をせずに帰ることに決めたらしい。
山と積まれていた魔石を雑な手つきでマジックバッグに投げ入れながら、グレンが話しかけてくる。
「今から出れば、暗くなりきる前に街道まで戻れんだろ。魔石の取り残しは無いな?」
『もうないよ! ぼく、がんばってさがしたもん!』
≪全て回収済み≫
「よし、じゃあ帰るか。おいヒューゴ、いつまでも土いじりしてねぇで帰るぞ!」
「このあたりの土を持ち帰って、先ほどの仮定が正しいか検証するんだ。証明できればとんでもない偉業だぞ!」
「はぁ……。検証は構わねぇが、レイシュの事がばれないようにしろよ」
「誰にものを言っている、秘密厳守は研究者の基本だ」
それから、ボコボコに掘り返された土の半分ほどを詰めた辺りで、ヒューゴのマジックバッグは容量の限界をむかえたようだった。
最終的に、恨めしそうにグレンの持つバッグを眺める残念な魔術師を引きずるようにして、午後の陽ざしが差す森を進み帰途についた。
相変わらず魔物達が遠巻きにするせいで、移動がとんでもなく楽な道行きである。
「これだけ聖魔石があったら、当分人型になるのに困んねぇな。良かったなレイシュ」
『うん! ……あっ』
ご機嫌に尻尾を揺らして走るレイシュに、これまた嬉しそうなグレンが声をかけたとき、幼獣はそういえば、と、とあることに気が付いた。
器用に走りながら振り向いてグレンに尋ねる。
『ねーねーグレン、これってしゅぎょう? ぼくしゅぎょうした?』
≪坊は修業が出来たかと尋ねている≫
「あん? ああ、しっかり修業出来てたぞ。この調子で他の魔素溜まりを浄化していこうな」
『やったー! しゅぎょう出来てた! だーちゃん、ダーカにでんわしてぇ?』
≪了解。……prrrr、prrrr、prrrr……≫
答えを聞くが早いか、レイシュはダーちゃんにケータイの本分を全うしてもらう。
とても大切な用が出来たのだ。
そういえば、戻ってと頼まなくてもダーちゃんの姿のままで電話が出来るみたいだ。でも、このままの姿で電話をすると……
『レイシュ! 2日ぶりだな。どうした、何かあったか?』
『わぁーー! ダーちゃんがダーカの声でしゃべってるよぅ! ダーカぁ!』
『……ダーちゃん……』
『あのね、ケータイがね、ダーカのあかちゃんみたいでしょ、だからダーちゃんなの! でも今、ダーちゃんのまんまでね、でんわしてるから、声がダーカなの! ちっちゃいダーカだ!』
『……喜んでるようで何よりだ。で、どうした? 電話は力の減りが早いようだったが……繋いで大丈夫なのか?』
『うん! 今日ね、しゅぎょうしたの! ぼくね、魔素溜まりを消したんだよ! そしたらキラキラがね、ふわふわーってなって、ちょっとだけぼくにちょうだいねって言って、たくさんもらったから、力がちょっぴりふえたの! ほめてぇ』
『おぉ。そりゃすげェ。さっそく修業するなんて、レイシュは頑張ってんな。偉いぞ。しかも初めてで結果を出すなんて、さすが俺のレイシュだ。天才だな』
『えへへー。もっといっぱい、しゅぎょうがんばるね! はやくダーカに会いたいもの!』
『レイシュ…俺も、早くそっちに迎えに行けるよう、何とかして道を作るからな。それまであまり無理せず待っててくれ』
『うん、わかった! じゃあ、またね。ダーカすき!』
『じゃあな。俺も好きだよ』
思った通りにたくさん褒めてもらえ、レイシュは満足して通話を切った。
背後ではグレンとヒューゴが、「あんなにやにさがった声が出せるのか……」「何とかして道を作るって……何をする気だ……」などと顔を引き攣らせていたとも知らずに。
◇
「昨日に続いて今日はほぼ1日動き通しだったからな。興奮していて気付いてないようだが、疲れたんだろ。おまけに浄化も頑張ったしな。寝てていいぞ」
『……うん……そーするね……』
最短距離で森を抜け街道が見えてきたころ、ここからは人の目があるから、とグレンに抱き上げられて布鞄に居られたレイシュは、ほどよい揺れと暗さにうつらうつらと船をこいでいた。
気付いたグレンが、笑いながら布越しに撫でてくれる。
「帰ったら起こしてやるから。飯の前に風呂に入れてやるよ。泥だらけだもんなぁ」
『う、ん……んむぅ……ぐぅ』
すでに夢の入口に立っているレイシュに、柔らかく語り掛けるグレンの声は子守歌にも等しかった。
こうしてレイシュの初めての修業は、大成功のうちに終わったのだった。




