歓迎晩餐会・麻子とハンナ(1941年冬)
その夜、宮中で晩餐会が開かれた。
ハンナの隣に座ったのは、麻子だった。
乾杯が終わり、料理が運ばれてくる頃——麻子がドイツ語で、
「南回りで飛ばれて来たそうですね。機体は何を」
ハンナの目が光った。
「貴方のドイツ語、英国訛りがあるわ。ハインケルHe111よ。改造して航続距離を伸ばした。インド洋の区間が一番長くて——」
「燃料はどこで」
「アデンとコロンボ。ボンベイでも入れた。風向きを読んで飛べば、思ったより楽だったわ」
「向かい風の区間は」
「紅海を抜けるところ。あそこだけ二時間余計にかかった」
「アデンの少し手前から高度を上げれば、風の帯を外せます」
ハンナは少し驚いた顔をした。
「……あなた、飛ぶの」
「少しだけ」
「少しじゃない顔をしているわ。イギリスは長かった?」
「ハイ、まあまあ」
麻子は微かに答えながら笑った。
話は尽きなかった。
発動機の話、翼の設計の話、高高度飛行の話。
ハンナが身を乗り出した。
「ドイツで今、面白いものを開発しているの。回転翼の機体——ヘリコプターと呼んでいるけど」
麻子の表情が変わった。
「フォッケ・アハゲリスですか」
「知っているの」
「資料だけ。実機は見たことがありません」
ハンナは少し間を置いた。
「垂直に上がって、その場で止まれる。飛行機とは全然違う乗り物よ」
「どんな使い方を想定していますか」
「救難、偵察、物資輸送——可能性はいくらでもある。ただまだ燃費も航続距離も短くて」
麻子はしばらく考えていた。
「日本でも研究したいと思っていました」




