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1936年2月26日
早朝の雪が舞う、薄氷の張る道を、完全武装した一個小隊約百名が静粛に迅速に進軍していた。
通りがかった市民達は急いで道を開け、息を潜めて開けかけた戸を閉める音が聞こえ、家に駆け込むか速足で去って行った。
午前4時半
高橋邸の玄関扉が蹴破られた。
「是清!おるか!・・・高橋是清、天誅なり!」
軍靴が泥と共に上がろうとする。寝起きまま気配に圧倒され、かすれ声を絞り出した。
「旦那様は、昨夜よりお出かけでございます」
中橋中尉の顔が激昂に変る。
「嘘だ、どこに隠している」
と、信じられないような声で中橋中尉が顔を真っ赤にして叫ぶ。
奥から出て来た執事が無表情に遮った。
「御主人様は、陛下よりお召しがあり皇居へ向かわれました」
中橋中尉が絶句する。
「いつだ~!誰が来た!!!!!!!」
執事、無表情に
「昨夜の夕時です。『夕食はこちらで用意する』と。近衛の軍服だったと思います」
「近衛・・・」
「手紙を預かっております。訪ねてきた者に渡せと」
執事が差し出した封書をひったくるように受け取り、中を見て唖然として天を見上げる。
中には宮中の上質な懐紙。筆圧の強い達筆で大きく「たわけ」の文字。
※「たわけ」:田を分けていくと無くなる→持っているものの価値知らず、安易に捨て去る




