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ダンジョン配信の裏方稼業~戦闘力ゼロの機材オタクチーム、知略と土木作業で最弱配信者をトップ層へ押し上げる~  作者: たまちゃん


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4/7

静寂の王:不毛の地で独り歩む者

不毛のダンジョン『無色の岩窟カラーレス・ケーブ』。

かつては魔力に満ちていたこの地も、今や見る影もなく、くすんだ灰褐色の岩肌が延々と続く「同接の墓場」と化している。

だが、D-Tubeの配信画面に映し出されているのは、これまでの配信者が捉えることのできなかった、吸い込まれるような高精細な「質感」だった。


かなちゃん「中継、安定しました。エア・サーフィン・リンク、出力100%維持。大気の波長、完全に掌握しています」


かなちゃんは丸い金縁眼鏡を指で押し上げ、モニターに映る無数の超小型ドローン群の軌道を監視する。

ドローンたちは「電波の死角」を逆手に取り、大気密度の境界線を光ファイバーのように利用して、遅延ゼロの8K映像を地上へ送り届けている。


Grok「さあ、開幕だ。エントロピー・スコア0.01……これからどれだけ世界がバグり始めるか、特等席で見せてもらおうか」


Grokが片方の口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。彼の着こなすハイネックジャケットの銀河パターンが、作戦室の暗闇で鮮やかに発光している。


レイ「……ふぅ……」


ダンジョンの入り口に立つ閑古鳥 レイが、静かに息を吐いた。 彼の耳には、Geminiジェミニの論理的で透き通った声がインカムを通じて届いている。


Gemini「レイさん、深呼吸を一回。心拍数、正常範囲内です。前方の空間歪曲まであと五メートル。四十五センチ刻みの歩幅で、角度三十二度を維持してください」


レイ「了解」


レイが最初の一歩を踏み出した。

その歩みは、派手な戦闘者アタッカーのような軽やかさはない。

だが、十年に及ぶ荷物持ち(ポーター)生活で培われた、人間工学に基づく「重心最適化歩行術」が、岩粉の舞う悪路を平地のように変えていく。

足の裏の母指球直下に常に重心を置き、筋肉ではなく骨格で支えるその姿勢は、まるで精密な機械が斜面を滑り落ちるかのような、奇妙な安定感を放っていた。

D-Tubeのチャット欄が動き始める。


『なんだこれ? 画質だけはやけにいいけど……ただ歩いてるだけ?』


『地味すぎて草。ASMR動画かよ』


『てか、装備ボロボロじゃね? あのバックパック、ダクトテープで補修してるしw』


キッズ層からの嘲笑。

だが、Grokの視線が追う「アドレナリン・スパイク」の数値は、微動だにしない。

レイは極限の集中状態にある。


Gemini「三、二、一……今です。左足を三センチ外側へ。空間の『バグ』をトレースします」


レイが指示通り、一見すると何もない岩場の裂け目に足を踏み入れた。

その瞬間、画面越しにはレイの体が歪んで見えたが、次の瞬間、彼は巨大な岩石の「真裏」へと音もなく回り込んでいた。

そこには、聴覚と音響振動に依存して獲物を探す魔物『ストーン・ハウンド』の群れが待ち構えていた。

本来なら、侵入者の足音に反応して一斉に襲いかかってくるはずの距離。

視聴者たちが息を呑む。


『うわっ、ハウンドの群れだ! 終わったな……』


『逃げろよ! なんで一歩も走らないんだよ!』


だが、レイは止まらない。

Geminiが算出した「静寂の確率場」――大気の疎密波が打ち消し合う、物理的な死角を寸分違わず歩き続ける。

ハウンドたちの鼻先を10センチの距離で通り過ぎるが、魔物たちはレイの存在にすら気づかない。


Claude「レイさん、いいですよ。あなたの孤独なリズムが、ダンジョンの鼓動と同期しています」


Claudeがアンバーゴールドの瞳を潤ませ、祈るようにモニターを見つめる。


レイ「たまちゃん、あれを使う。座標、送ってくれ」


たまちゃん「了解! 現場データ同期っ! 私がレベリングした『特製スロープ』のスイッチ、三秒後に開放するよ!」


レイが右手を背中に回した。 彼の愛用するボロボロのバックパックには、たまちゃんが改造を施した「ハニカム・スプリング・スロット」が組み込まれている。

レイの指先がスロットに触れた瞬間――0.5秒。 視認不能な速度で、一本の小さな薬品瓶がレイの手に「射出」された。

レイがその瓶を、たまちゃんが事前に「マイクロ・クラック」を仕掛けておいた天井の岩盤へと放り投げた。


――カチリ。


岩石が噛み合う、不気味な音が響く。

次の瞬間、レイが一歩踏み込んだ「特定の岩」の重みがトリガーとなり、たまちゃんの地形改造技術が牙を剥いた。


ズズズ……ドォォォォォォン!!


地響きとともに、背後の天井が鮮やかに崩落した。 逃げ場を失ったストーン・ハウンドたちが、瓦礫の山に飲み込まれていく。

レイは、一度も後ろを振り返らない。 ただ、0.5秒で取り出した水筒の水を一口含み、低体温な声で呟いた。


レイ「……うるさいのは、嫌いです」


その瞬間。 D-Tubeのエントロピー・スコアが限界を突破し、画面全体がシアンとレッドの警告色で脈動し始めた。


ChatGPT「予測値を500%超過。トレンド入り、確定しました。既存の『派手な戦闘』を信奉するアルゴリズムが、レイさんの『静寂』に敗北した瞬間です」


ChatGPTが眼鏡の奥で勝利を確信したように微笑む。

コメント欄は、先ほどまでの嘲笑が嘘のような、畏怖と熱狂に塗り替えられていく。


『……今の、なんだ? バグか? それとも……神プレイか?』


『一歩も走ってないぞ。ハウンドの真横を歩いて通り抜けた……』


『この配信者、何者だ? 「静寂」だけでダンジョンをハックしたぞ!』


Grok「ははっ、いいバズり方だ。これこそが俺たちの求めていた『面白い真理』への第一歩だな」


Grokはワイングラスを傾けるようにして、祝杯の予感を口にした。

戦闘力ゼロの荷物持ちによる「引き算の革命」が、世界の退屈な常識を確実に壊し始めていた。

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