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【番外編1】先輩と黒服の後輩

秋吉あきよしさぁ、姫探すのはいいけど、その黒ずくめの格好どうにかならないの? 暑くない?」

「平気です。これは騎士の正装の代わりなので、問題ありません」

 大有りだよ。目立ってんだよ。

 心の中で秋吉につっこむ。


 秋吉は黒スーツに、黒いサングラスという格好をしていた。

 こうなったのは、この前見た映画が原因だろう。

 映画のチケットを貰ったので、女の子を誘おうと思ったらドタキャンされ、その日に限って誰も捕まらなかったため、しかたなく秋吉を誘ったのだが。


「なぁ秋吉。ボディガードって、現代の騎士みたいなものだと思わないか? お前が姫を見つけた時に、何か役に立つ情報があるかもしれないぞ」

「確かに」

 そんなものに興味はないと一度断られたけれど、適当な事を言ったら、まんまと秋吉はそれに乗ってきた。


 その映画に秋吉は感銘を受けたらしく、それ以来姫捜しの際はこの服装だった。

 しかし、突っ込むのも面倒だったし、これはこれで面白いからいいかとそのままにしておくことにする。


 バンドに秋吉を加入させ、交換条件に付き合うことになった姫探し。

 どうやって見つけるつもりなのかと思っていたら、ただしらみつぶしに街を歩き回るだけだった。


 男二人で、ぶらぶらと街を歩く。

 しかも特にあてもなく、女の子を見て周る。

 ナンパをするわけでもないのに。


 かなり時間を無駄につかっている気がしてくる。

 何が楽しくて男と二人で、街を歩かなくちゃいけないんだろう。

 秋吉と俺が二人でいると目立つので、時々女の子が話しかけてきたりする。

 いっそ彼女達と遊びに行きたかったけれど、秋吉がそれを許すはずもなかった。


「なぁ秋吉。姫さんってどうやってわかるんだ? 俺どんな見た目の子なのかとか、教えてもらってないけど」

 退屈になって秋吉に聞いてみる。

「見た目はわかりません。ですが、一目見ればわかるはずです」

「そんな適当な」


 言い返しながらも、初めて秋吉を見た瞬間にルドルフだとわかった俺は、きっとエリシアを見たらすぐわかるという確信があった。

 しかし、だんだんと街を歩くだけというこの状況に飽きてくる。


「別行動にしない? ここで一時間後集合ってことにして、別々に姫を探すの。そしたらもっと広い範囲が見れるだろ」

「却下です。サボるつもりでしょう」

 目論見がばれていた。

 俺にもエリシアを探させるというこの行動自体が、秋吉にとって重要なんだろう。


「あなたは姫の王子なんです。姫を見つけて、次こそは幸せにしてもらわないと困ります」

 秋吉は同じ事を何度も言う。

 俺がエリシアを幸せにするのだと。


 秋吉と姫を探すに当たって、俺は秋吉から前世の話を聞かされていた。

 前世で王子だった俺は、結婚式の前日に姫を失ってしまった。

 秋吉が教えてくれたのは、その程度だったけれど。


「なぁ、俺じゃなくて秋吉自身が姫を幸せにしようとか考えないわけ?」

「あの人が好きなのは王子です。あなたといる時の姫はいつも笑顔でしたから」

 淡々と事実を述べるように、秋吉はそんな事を言う。

 前世の秋吉であるルドルフといる時も笑顔だった気がしたけれど、思い返せば後半はそうでもなかったかもしれない。

 エリシアはルドルフの前で、時々苦しそうな顔を見せるようになっていた。


 どう見たってあれは、『ルドルフが好きなのに、俺と結婚することを後ろめたく思っている顔』だと俺は思っていた。

 けどルドルフには、『ルドルフの想いに答えられず、俺の方を好きになってしまった罪悪感』からくる表情に見えていたのかもしれない。


「それに、あなたは姫を不幸せにはしないと、私に誓いました」

 確かに俺はそうルドルフに誓ったけれど。

 よくよく思い返せば、自分は不幸せではないとエリシアは言っていた。

 つまりは、ルドルフとの誓いは俺が何をしなくても果たされていたわけで。


 なんとなくだけど、エリシアはあんな最後でも自分を不幸せだとは思ってない気がした。

 運が悪かったなぁ程度にしか思ってなさそうだ。

 俺たちみたいに未練がましく前世を引きずって生まれることもなく、きっとここでも幸せに生きてるんじゃないだろうか。


 それならそれでいい気がした。

 エリシアが幸せなら、少しは救われたような気分になる。

 前世なんてロクでもないと思いながら、俺が秋吉に付き合っているのは、今のエリシアが幸せかどうか、この目で確かめたかったからもしれなかった。

 


 そんな感じで大学の二年間、秋吉との姫捜しは週に一回行われた。

 俺が付き合ってないときも、秋吉は毎日日課として街をうろついていたけれど、その成果はあまり出てないようだった。

 あの黒服で歩き回っていたら、一度おまわりさんに職務質問されたらしく、落ち込んでいた時には腹を抱えて笑った。


 まぁそんな風に秋吉とばかり過ごしていたから、仲のよかった女の子たちからは愛想をつかされてしまった。

 秋吉も秋吉で俺が女の子といると追い払うものだから余計にだ。


 秋吉は全く違うはずの講義で俺の席に座り、お昼を一緒に食べ。

 俺自身も秋吉を同じサークルに入れ、飲み会とかで皆に紹介して周って。

 よく二人で街を歩いたりして。


 そんな行動の数々のおかげで、俺と秋吉ができてるなんて根も葉もない噂が、大学内では立っていた。

 おかげで女の子たちも、前より近づいてくる子が減った。

 けど、女の子たちと遊ぶよりも、秋吉といる方が面白かったりして、誤解を解くのすらめんどくさいと思い始めている俺がいた。


 大学を卒業して、それからは忙しくて、彼女をつくる暇すらなかった。

 それに勤め先の小学校には、教え子として若槻わかつきがいたからか、不思議とそんな気にはならなかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 授業も終わり、やることを済ませる。

 子供の相手は大変だが、教えることはやっぱり性に合っていると思う。


 帰る支度を済ませ、俺はいつものように図書館へ向かう。

 踏み台の上に立ちながら、背伸びしている若槻を見つけた。

「どの本が取りたいんだ? 取ってやるよ」

瀬尾せお先生」

 若槻が後頭部を逸らせて、俺を見た。

 黒目がちな瞳と目が合う。


「そこの右から、二番目の本です」

「わかった。ほら」

「ありがとうございます」

 俺から本をうけとると、若槻はそれを胸に抱くようにして持った。


「また料理の本か。もっと他の面白そうな本とか読まないのか?」

 若槻が選んだ本は、低学年向けのもの簡単な料理本ではなく、一般向けのお弁当作りの本だ。

「それも嫌いじゃないんですけど、お母さんにもっと美味しいお弁当を作ってあげたくて」

「そっか偉いな」

 自然と俺の手が若槻の頭を撫でる。

 もうすっかり癖みたいになっていた。


 出会った頃は一年生だった若槻も、今は四年生になっていた。

 最近ではますます落ち着きっぷりに磨きがかかっている。

 背も伸びて手も少し大きくなって、色々できることが増えたからかもしれない。


「でもそろそろ帰る時間だぞ。最近不審者がうろついてるみたいだからな。危ないだろうし、俺も帰るところだから送っていってやるよ」

「先生、そういってよくわたしを送ってくれますけど、迷惑じゃないんですか?」

「迷惑だったら、最初から言いださないだろ。俺と家も近いんだから、ついでだし遠慮すんな」

 それならお願いしますと、若槻は笑った。


 若槻は気づいてないだろうが、俺が図書館に来たのは偶然じゃない。

 スーパーの特売がない日、若槻は大抵ここにいる。

 家に帰っても誰もいないから、ここは暇をつぶすには持ってこいなんだろう。


「先生あの人、不審者じゃないですか?」

 車で小学校を出たところで、若槻がそんな事を言ってきた。

 少し車を止めて、若槻が指差した方向を見る。

 黒服に黒いサングラスをつけた、長身の男がそこに立っていた。

 電柱の影から、小学校の校門のあたりをチラチラと見ている。


 その姿に、俺は物凄く見覚えがあった。

 あれは秋吉だ。間違いない。


 正直、あいつは何をしてるんだと、頭を抱えたくなった。

「大丈夫だ若槻。あれは不審者だが、安全なやつだ」

「でも」

「俺が言うんだから間違いないんだって。それよりも俺マ●クが食べたい気分になってきた。俺が奢るんだから、付き合ってくれるよな若槻」


 車を発進させ、強引に話を打ち切る。

 前世の姫だった若槻に不審者扱いされる秋吉を少し不憫に思ったが、自業自得だ。

 まだ若槻は納得いかない顔をしていたけれど、おごりという言葉とめったに食べられないファーストフードに、心動かされてくれたようだった。


 若槻と夕食を食べて後に、家に送る。

「それじゃあ、また明日な」

「はい先生。また明日!」

 元気よく若槻が手を振ってくる。


 車を発進させてあとも、また明日と言った若槻の言葉が、脳内で再生された。

 明日もまた会える。

 授業があるから当たり前のことだ。

 でも、そんな当然のことに、心がほんのり温かくなるようで。


 こんな小さなやり取りで、そんな小さなことで幸せになれる自分が、信じられない。

 我ながら、とんでもなくチョロすぎると思った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 それにしても、不審者が秋吉だったとはな。

 家に帰って、そんな事を思う。


 大方、若槻をどこかで見つけて、それからあとをつけているのだろう。

 だからあの服装はやめろと言ったのに。

 いや、言ってないか。

 面白かったから、あまり止めなかったような気もする。


 そもそも、俺にはすぐに声をかけてきたくせに、何故秋吉は若槻に声をかけないんだろう。

 もしかして、ずっと今世でエリシアを捜していたから、いざとなったらどう声をかけたらいいかわかんないとか、そんなところだろうか。

 

 ありえる気がしてきた。

 影ながらそっと見守ろうとか思っていそうだ。

 全然影になっていないけれど。むしろ目立ちまくりだけど。

 今世のルドルフは、やっぱりどこか抜けている。


 連絡とって、今すぐその格好をやめろとかいうのも変だしな。

 むしろさりげなく若槻と会わせやって、不審者という誤解を解いてやった方がいいかもしれない。

 でもなぁ。それすると、姫、姫ってうるさそうなんだよな。


 正直、俺は今の若槻との関係を結構気に入っていて、もう少しそれを楽しんでいたかった。

 だから秋吉に赴任先の小学校も教えてない。

 先生になったぜと軽くメールで報告したくらいだ。

 今の若槻は前世の事なんて覚えていないし、前世で王子でしたなんて言われても戸惑うだけだろうと思う。


 そこまで考えて、ふと気づいた。

 なんで若槻を見つけたのに、秋吉は俺に連絡してこないんだと。

 今までの秋吉なら、見つけましたと俺にすぐ報告して、しつこいくらいに姫を幸せにしろとか言ってきそうなものなのに。


 俺と同じで若槻を見つけて、独り占めしたくなったとか?

 そうだとしたら、面白いと思った。


 前世では、ルドルフに勝ちを譲られたみたいな感じで、モヤモヤしていたということもある。

 ここでは身分がないし、秋吉と立場だってそう変わりはしない。

 正々堂々と同じ舞台で、若槻を巡って争えるというわけだ。


 そうと決まれば早速、秋吉に若槻を会わせようと俺は決めた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 前世の事を話さずに、どうにか秋吉と若槻を会わせたかったのだけど、なかなかいい方法が思い浮かばなかった。

 車で若槻を連れ出したとして、秋吉がいつも学校近くにいるとは限らないし、だからと言って秋吉を小学校に呼ぶのも変だ。


「先生、若槻さんになにか用事?」

 休み時間。

 気を抜いていたら、つい若槻を目で追ってしまっていたらしい。

 それを見ていた女生徒に話しかけられた。


「いや、そうじゃないよ。ぼーっとしてただけ」

 教室で俺から若槻に話しかけることは、あまりない。

 授業で必要だとか、学級委員の仕事が関わるときとか、そういう時だけだ。

 子供っていうのは、贔屓ひいきしてるとかそういうのにうるさいし、鋭い。

 そんな面倒な事で若槻をわずらわせたくなかった。


 ちらりと横目で若槻を窺う。

 さっきから俺が気になっているのは、若槻の顔色だ。

 朝から少し青白い。

「若槻、気分が悪いのか?」

 気のせいかなと思いつつ、やっぱり気になって声をかけた。


「今日寝坊したから朝ごはん抜いてきちゃって、少しくらくらするだけです。心配してくれてありがとうございます」

 なるほどなと思う。低血糖でもおこしているのだろう。

 ふいにポケットに飴を入れていたことを思い出した。


「若槻、ちょっとこっちにこい」

 窓の側に若槻を呼ぶ。

 カーテンでぐいっと隠すようにしてから、それを飴を口に入れてやる。

「他のやつには内緒な。噛むとばれるから、口の中でゆっくり溶かせ」

「……ありがとうございます」

 若槻は驚いた顔をしていたけれど、お礼を言って笑った。



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 そんな風に秋吉と若槻をどうにか会わそうと考えていたら、しばらく経って不審者が無事捕まったという情報が入った。

 一瞬秋吉が捕まったのかとヒヤリとしたら、全然別の奴だった。

 しかも若槻が襲われたらしくて、無事だったからいいものの、どうしてその場に俺はいなかったんだと後悔する。


「大丈夫だったのか、若槻?」

「はい平気です。黒いスーツのお兄さんが助けてくれました。もしかしたら前に先生と見た人かも。ちょっと変わった人なんですけど、悪い人じゃありませんでした」

 どうやら不審者を撃退したのは、秋吉のようだった。

 俺が何もしなくても、勝手に出会ったらしい。


 それからは、秋吉が堂々と校門前に迎えにくるようになった。

 廊下の窓からみれば、門の前にいる秋吉を他の生徒たちが変な目で見ながら通り過ぎて行く。

 若槻に聞けば、一緒にスーパーに買い物に行くらしい。

 不審者を撃退したことで秋吉は、若槻から信頼と荷物持ちのポジションを獲得したようだった。


 しかし、あんなに目立っていると、当然のように先生方が何か言ってくる。

 なので先回りして、あれは親が忙しい若槻の親戚のお兄さんで、時々面倒を見てくれているらしいと情報を流しておいた。

 全く世話のやける奴だ。



 しばらく経ったある日、ふいに窓から校門を見たら若槻が一人で立っていた。

 秋吉がいつも迎えにくる時間を、とっくに過ぎている。

 何かあったのかと気になって、若槻の所へ行き声をかけた。


「なんだ、またあの黒服のお兄さんを待っていたのか」

 からかうような俺の口調に、はいと若槻は答えた。

 授業参観の事とかを話しながら、秋吉がくるまで時間をつぶす。

 しばらくすると秋吉が走ってきて、俺から若槻を引き剥がした。


「なんであなたがここにいるんですか」

「あれ、お前秋吉? 久しぶりじゃん」

 我ながら白々しいなと思いながら、秋吉の背を叩く。

 若槻を俺から隠すような秋吉の態度が妙に面白くて、ついからかいたくなってくる。


「若槻、このお兄さんな前世を信じてるんだ。俺も前世の知り合いだとかいいだして、それで仲良くなったんだけどさ。皆から変な奴扱いされてるけど、基本的にはいい奴だから、これからも仲良くしてやってくれな」

「余計なお世話です! 先輩に付き合ってられません!」

 親切で若槻に紹介してやったというのに、秋吉は俺にそんな事を言った。

 怒ったというよりも、焦った様子で若槻を引っ張って行ってしまう。


「先輩……ね。一度もそう呼んだことなかったくせに」

 遠くなる二人に手をふりながら、こみ上げてくる笑いを、俺は止められそうになかった。

 この作品は本編「ランドセルなわたしに前世の騎士が付きまとってきます」を書いているときに、瀬尾先生の行動がよくわからなかったので、語らせて表に出すつもりはなかったものを、色々弄って番外編にしたものです。

 恋敵が主役とか邪道なんじゃないかと、投稿して後で気づきました。

 大丈夫なんでしょうか、コレ。よければご意見等きかせていただけると、今後の参考になるので嬉しいです。

 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!

★10/11 完結記念に、「騎士」の方に3人の番外編を上げました。よければどうぞ!

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「金の姫と黒の騎士」。冬童話2015に投稿。新作短編です。
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