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【11】王子とめぐり合う今世

 自分の紋章が入った剣を騎士に与える。

 それが、ヴェルテ式の主従契約の結び方だと知らなかった俺は、テオを自分の騎士にしてしまった。

 解除するには、騎士から剣を返してもらうという方法があるらしい。

 とりあえず、ルドルフ立会いの下、テオと話をすることにした。


「テオ、お前本当に僕が主でいいのか」

「なんで今更そんな事聞いてくるんだよ。いいから受け取ったに決まってるだろ?」

 尋ねればテオは、何を言ってるんだというように眉を寄せる。


「俺さ、剣を捧げるならアレンがいいってずっと前から思ってたんだ! 最初は守られてばかりのひ弱な王子様って感じで、絶対に嫌だったんだけどさ。お前エリシア様のために強くなっただろ」

 熱のこもるテオの口調。

 そこには俺に対する尊敬の念とか、信頼とか、そういうのが見えた。


 この城でエリシアと暮らし始めて、少し経った頃。

 エリシアと二人でいる時に、刺客に襲われた。

 ルドルフが来て助けてくれたけれど、俺は何もできなくて。

 その時に、自分が無力な子供だと思い知らされて、せめてエリシアを守れるくらいに強くなりたいと努力した。


 それから、ルドルフの稽古に遠慮がなくなって。

 同時にテオとの距離もかなり縮まっていった。

 彼らの態度が、ひ弱な王子様に対するものから、肩を並べる友人に対するものへ変わったのはこの頃だったと思う。


「それにお前は、下の者たちを見下したりもしないし、気遣ったりもできる優しさがある。だから俺はお前を主にしたいって思ったんだ」

 テオの視線は真っ直ぐで、はぐらかしたりすることなんてできないと悟った。

 こうやって俺の事を認めてくれるテオに、自分の騎士になって欲しいという気持ちが、無視できないほどに大きく膨らんでいくのがわかった。

 

「きっと僕が主だと苦労する。敵も多い」

「それくらいわかってて受け取った。自分から剣をくれたくせに、何で今頃確認してくるんだよ?」

 俺の言葉に、ははっと笑ってテオがそんな事を言う。


「何があろうと、オレはお前がやることについていく。例え何がお前の敵になろうと、この剣でお前の志を守ってやるよ」

 真摯な誓いの言葉。

 何もかも承知で、テオは俺の騎士になってくれた。

 それなら、俺もそれに答えなきゃいけない。

 腹をくくろうと、その瞬間に決めた。


「テオ、改めて言う。僕の騎士になってくれ」

「……アレン」

 俺の言葉に、テオが嬉しそうなほっとしたような顔になる。

 騎士になれと直接言われたわけじゃないから、不安だったのかもしれなかった。


「あぁ。オレは今日からお前の騎士だ」

 俺から貰った剣を胸に、儀礼のポーズをとってからテオは笑う。

 その言葉を確認してから、俺は黙って成り行きを見守っていたルドルフに向き直った。


「ルドルフ。テオを僕の騎士にする。言うのが後になってすまないが、どうか認めてくれないだろうか」

 そう言って、テオの上司であるルドルフに頭を下げれば、小さく溜息を付いたのが聞こえた。


「テオはこう見えて優秀ですし、引き抜かれると私の隊としては痛いんですけどね。姫に加え、私の部下まで貰っていくんです。彼らに恥じない立派な王子になって下さらないと困りますよ?」

「あぁ、わかっている」

 そのつもりだと頷く。

 真っ直ぐにルドルフを見つめれば、まるで成長した子供を眩しく思うような目つきで俺を見ていた。


 俺の国・グリムントでの正式な騎士契約は、俺が成人してから。

 それまではテオは今までどおり、ルドルフの隊に所属しながら俺の護衛任務を続けることで話がまとまった。

 それから、テオにもう一度向き直る。


「僕もずっと前からテオを僕の騎士にしたいと思っていた。ただ、僕が主でテオが苦労するのが嫌だった。けど、テオが僕を主に選んでくれるのなら、それに恥じないように精一杯主らしくする」

 テオが誓ってくれたのだからと、自分の気持ちを言葉にして伝える。

 こうやって思っていることを口に出すのは、正直苦手だった。

 けれど、言わなきゃわからないと告げてきたテオに、俺の想いを知っていて欲しかった。


「アレン……」

 テオは感動しているようだった。

 勇気を出して、剣を渡した時に貰った、親愛のキスのお返しをテオの頬へ贈る。

 テオだけじゃなく、側にいるルドルフまで驚いた顔をしていた。


 やり方を間違ったのだろうかとドキドキしていたら、テオががばっと抱きついてきて。

「これからよろしくな、アレン!」

 さらに親愛のキスを返してきた。

 さっきのお返しのお返しだからどうすればいいんだろうとか、そんなことを迷いながら、また頬へキスを返せば、ルドルフが俺たちを引き剥がした。


「王子。親愛のキスは返すものだと教えましたが、律儀に全部返さなくていいです! あとテオ、スキンシップがすぎます。王子が驚いているでしょう!」

「ルドルフ様も、認めてくれてありがとうございます!」

 叱ってくるルドルフに今度は抱きついて、テオはその頬に親愛のキスを贈る。

「テオっ!」

「オレ、もっかい皆に自慢してくる!」

 ルドルフの怒る声を背に、テオは嬉しさを抑えられないというように、部屋を飛び出して行った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 テオは割とキス魔だったなぁと思い返しながら、真っ暗な道を歩く。

 すでに終電は逃していた。

 冬の冷たい空気が、耳に痛い。

 テオは俺が主従契約を結んでから、ハグだけでなく、ことあるごとに親愛のキスをかましてくるようになった。


 特に酔うとそれが酷くなった。

 前世では、成人の十五歳になれば酒が飲めた。

 テオはお酒が結構好きみたいで、よく飲んでは、エリシアや仲良しの同僚、ルドルフにまで頬にキスをしまくって叱られてばかりいた。


 酒癖の悪さは、今世でもあまり変わっていない気がする。

 穂積ほづみ先生は、まだキス魔ではない分、テオよりもいくらかマシと言えるかもしれなかった。

 ――いやでも酔いすぎると、服とか脱ごうとするんだよな、あいつ。

 テオもよく暑いとか言って酒の後半になると上半身裸だった。けれど、穂積先生がやると洒落にならない。

 女である自覚が足りなさ過ぎると思う。


 新しく入ってきた俺の歓迎会で、酔った穂積先生が服を脱ぎ始めたときにはどうしようかと思った。

 慌てて人のいないところに連れていって落ち着かせたら、いきなり人の服に吐き出して。

 主役なのにも関わらず、途中で穂積先生を連れて帰ることになってしまった。

 その日のお詫びとして、ふたりっきりで飲みに誘われて。

 結局介抱することになって、それの繰り返しで今に至っていた。


 何やってるんだろうな、俺は。

 前世からテオには振り回されてばかりだ。

 どちらかというと、俺は人を振り回す側だったはずなのに、あいつだけはいつも俺の思い通りにはならない。

 俺の運命にテオを道連れにしたような気がしていたけれど、そもそも巻き込まないようにしたのに、それをよしとしなかったのはテオの方だ。


 前世の後半から、俺はかなり黒かった。

 エリシアを陥れた奴らや、ロクでもない貴族共を罠にしかけ。国が破滅するためのシナリオを描いて、そのために人を動かしていた。

 全ては俺の手の中にあったし、望み通りの展開に進んでいたのだ。

 けれど唯一。俺の思い描いたシナリオと違っていたのは。

 敵側の中心に、テオがいた事だった。


 今世は今世で、女になってるし。

 本当に予想外な事ばかりしてくれるヤツだと思う。

 こっちはペースを狂わされっぱなしだ。


 前世なんてロクなものじゃない。

 そう思っていたから、俺は今までその記憶に蓋をして、見ないふりをして。

 中々今世での人生は上手く行っていたのに、秋吉に会ってからケチが付き始めている気がする。


 この世界に生まれたばかりの俺は、悪王だった頃の嫌な記憶が強くて。

 楽しかった記憶は、辛い記憶を引き立てる材料でしかなかった。

 けれど、こうやって懐かしい彼らの面影に触れれば、嫌な事ばかりじゃなかった事を思い出す。

 再会できたことが嬉しくて、愛おしく思ってしまう。


 俺が今世で生まれた家は、とても信心深い家だった。

 日曜日になると教会で祈りを捧げる両親を横に、どうして自分だけこんな記憶があるのかと神に恨みの言葉ばかり投げつけていた。

 けれどこの記憶がある理由が、また彼らと出会って幸せになるためだとしたら。

 それも悪くはないかもしれないと柄にもなく思う。


 またあの楽しい日々のように、皆で笑い合えたらいい。

 とりあえずは、寂しいクリスマスを送るであろう穂積先生を誘って、秋吉や若槻とクリスマスパーティでも開くか。

 そんな思いつきに、なんだかわくわくしてくる。


 秋吉のやつ、どんな反応するだろうな?

 自分でも性格悪いなと思うけれど、あいつが戸惑う顔を見るのは結構楽しい。

 若槻は穂積先生の事を知ってはいるけれど、担任になったこともないし、あまり関わったことがないだろう。

 テオはルドルフを慕っていたし、穂積先生は惚れっぽいところがある。もしかしたら、何か一悶着起こるかもしれない。


 正直クリスマスなんて、大嫌いだったけれど。

 今初めてクリスマスが楽しみだと、そんな事を思った。

 テオとの過去編はこれで終了です。明日は2話番外編を更新して、「王子」の更新ラッシュは終わりとなります。

 楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

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「金の姫と黒の騎士」。冬童話2015に投稿。新作短編です。
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