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こんなの、知らない

男が上着の内側から拳銃を引き抜いた。


「動くな!」


銃口が、スーツ姿の若い男へ向けられる。


若い男は表情を変えず、わずかに重心を落とした。


直後、銃声が夜の路地に響いた。


昌道は思わず身をすくめた。


だが、若い男は倒れなかった。


その目の前に、青白く透き通った板が浮かんでいて、弾丸が表面で火花を散らし弾かれた。


「……何だ、あれ」


『……私にも、理解できません』


昌道は目を疑った。


「構築型か……!」


拳銃の男が舌打ちした。


若い男が右手を動かす。


板が細長い帯へと形を変え、拳銃を握る男の腕へ伸びた。


男は身をひねってかわす。


だが、帯はそのまま弧を描き、背後へ回り込んだ。


「くそっ……!」


男が慌てて距離を取る。


再び銃声。


若い男は足元に青白い板を構築し、それを踏んで跳び上がった。


弾丸が地面を弾く。


空中で、帯が街灯の支柱へ伸びる。


帯が支柱に巻きついた瞬間、勢いよく縮んだ。


若い男の身体が宙へ引き上げられる。


その勢いを利用して身体をひねり、街灯を中心に大きく弧を描く。


こんなの、知らない。


目の前で起きていることが、本当に現実なのかさえわからなかった。


男が慌てて銃口を向け直す。


だが、若い男は空中で身を翻し、銃口の先をすり抜けた。


「ちょこまかと……!」


若い男は答えず、帯を男の手首へ巻きつけた。


銃口が大きく跳ね上がる。


男は必死に腕を振り、拘束から逃れようとした。


その拍子に、銃口が昌道の方を向いた。


『昌道! 右へ!』


「え……?」


突然の声に、昌道は動けなかった。


『右へ回避!』


二度目の鋭い声。


昌道はとっさに右へ身を投げ出した。


銃声が響く。


直後、目の前に青白い盾が滑り込んだ。


甲高い衝突音。


弾丸が盾に弾かれた。


「うわっ!」


昌道は地面に転がった。


「くっ……!」


若い男が顔をしかめる。


「……民間人を巻き込むとは」


男へ向き直ると、足元に新たな板を構築した。


板が勢いよく押し出され、若い男の身体が前方へ加速する。


拳銃の男が構え直すより早く、懐へ飛び込んだ。


帯が拳銃を握る手に絡みつく。


続いて、足元にも別の帯が走った。


男はバランスを崩し、地面に倒れ込む。


帯は硬質な枠へと変形し、男の手足を固定した。


「くそっ! 離せ!」


「抵抗するな」


若い男は拘束を確認すると、昌道へ歩み寄った。


「……すまない。俺の判断が甘かった。危険な目に遭わせたな」


「い、いえ……」


昌道はまだ震えていた。


若い男はその様子を見て、申し訳なさそうに眉を寄せる。


だが、ふと何かを思い出したように視線を細めた。


(……待てよ)


盾が銃弾を防ぐ直前。


昌道は確かに、右へ動いていた。


(銃声より先に反応していた……?)


ただの偶然か。


それとも。


若い男は、昌道をもう一度見た。


「……少し、話を聞かせてもらえるか」


夜の路地には、まだ硝煙の匂いが漂っていた。


ーー第8話・了

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