河童大戦
河童。
緑色した小さな体躯。甲羅と頭の皿が特徴的な妖怪。
その河童の名を得た魔物たちは、その名の通りの姿形をしていた。
浜から続々と上がってくる河童の群れ。速度はそれほど速くないが、それでも避難中の人々に追いつくのは時間の問題であろう。
『たぬきです! 河童が浜に上がりました。攻撃開始します』
『たぬきちゃん了解、状況開始!』
『状況開始します』
目を薄く閉じ、集中する。
目から入った情報に、超センスの情報が脳内でオーバーレイされ、周辺状況が展開されていく。
(距離は200mちょっと……必中距離……弾はある……)
『たぬきです。レールガンで応戦します!』
電子雲の銃身を前方へと延ばし、レールガンの弾体を浮かべる。
目標を選択し、発射!
「バンっ」
パンっ! 弾体が超音速に飛び込む衝撃波が鳴り響き、200m先の河童の頭が吹き飛んだ。
「パンっ、パンっ、パンっ、パンっ」
呪文を唱えるごとに弾が飛んでいき、河童の頭が吹き飛んでいく。
しかし、あまりに数が多かった。
響の様に秒間数百発もの弾幕を展開することはできない。しかし一匹ずつ処理することならなんとか……
『理沙さん、たぬきです。数が多すぎます。間に合わない……』
『たぬきちゃん、一匹ずつでも大丈夫。処理していって。うさやさん、直美ちゃん、誘導どうかしら?』
『理沙さん、うさやです。言うことを聞いてくれない人が湖岸に向かっていきます。魔物を見たいとか言う人たちが沢山、止められない……』
湖岸は暗く、まだ人々には状況が見えていないのかもしれない。
魔法使いの脳裏には山盛りの魔物たちが映っているのだが……
『たぬきちゃん、理沙よ。人のいない方の魔物に向かって、何発かファイヤーボール撃ち込んでっ! 派手に爆発する奴でっ』
『は、はいっ! 派手目のいきますっ。ファイヤーボールっ!』
ファイヤーボールは普通の呪文なのね。
そんなこと言ってる間に、たぬきの前にソフトボール大の火の玉が浮かび上がり、湖岸に向けて飛んでいった。
ボゥンっ!
尚子のファイヤーボールには劣るが、それでもTuned by HiBiKiの魔法だ。弾着と同時に大きな火炎となり、直径10mほどの範囲の河童が燃え上がった。
炎は大量の河童を浮かび上がらせ、野次馬たちの瞳に、幾百もの魔物の姿を映し出した。
「ふひっ!」
誰かが息を吸い込む音がした。そして、悲鳴が鳴り響いた。
「前の人を押したりしないでっ! 立ち止まらないでっ!」
うさやと直美が必死に誘導するも、パニックに陥った人々は女の子の声などに従うはずもない。
しかし、魔物の群れは着々と人並みに寄ってきていた。
『うさや、直美っ、駆除の方手伝って……わたしだけじゃ止められないのっ』
たぬきが魔法通信で二人に支援を頼んだ。
もう、四、五十匹は倒したはずだが、まだまだ目で見える範囲だけでもその十倍はいる気がする。
追加でもう一発、ファイヤーボールをお見舞いした。一発で七、八匹は倒した。しかし、まだまだ奥から上がってくる……
『理沙さん、たぬきです。魔物の数が多すぎます……避難誘導もうまく行ってません……どうすれば……どうすれば……』
『たぬきちゃん、もう少し頑張って。今習志野から特戦群が飛んでくるわ。小波さんも来てくれるから、もう少しだけ』
『たぬき、遅れたごめん。援護するよ』
避難誘導を諦め、うさやが飛んできた。しかし櫓の上には二人は多すぎる。浜手前の土手に降り立ち、うさやも、そして直美もレールガンによる攻撃を始めた。
魔法使いが三人も揃って攻撃を始めると、そこには大きな魔力の流れが発生する。
魔物はさまざまな物に惹かれて移動をする。
時にはそれは、大きな電力であったり。
時にはそれは、核エネルギーであったり。
時にはそれは、人々の活動であったり。
そして、時には魔力の流れであったり……
人々の方へと向かっている魔物の流れが、三人に向いた瞬間だった。
「これ、これなら魔物の誘導できる? みんなのところに行かせないように……」
しかし、ここにはもう一つ、魔力が常に流れている場所があった。
「あれ? あの群れ……動きが……吉野くんっ!」
少しでもたぬきの役に立ちたかった吉野くん、頑張って避難誘導を続けていた。
うさやと直美が戦線へと移動しても、一人で避難誘導に奮闘していた。
そこへ、魔物の群れが襲いかかっていく。吉野くんの周りへと、緑の小人が集まってくる……
「吉野くん、吉野くんがっ! うさや、ここお願いっ」
たぬきは飛んだ。今にも襲われそうな吉野くんの元へ。
吉野くんはカッコいい。
『え? それ今言うの?』
と思った方。まだまだ吉野くんのかっこよさを舐めている。
吉野くんは魔物の気配を感じる。
吉野くんは振り返り様に魔物の顎先を蹴り飛ばした。
幾ら軽い河童の頭と言っても、サッカーボールと同じように蹴ると、足を怪我してしまう。
しかしカッコいい吉野くんは、きちんと顎先だけを狙い、最小の力で河童を倒した。
しかし、それにしても相手が多すぎた。
最初に蹴り倒した河童が倒れ切る前に、次の河童が飛び出してくる。このままでは……
二匹目をヒールで蹴り飛ばし、三匹目に対して身構えたところで……三匹目の頭が消えた。
「え?」
言ってる間に、四匹目、五匹目の頭が消え、周囲に赤い霧と血の匂いが漂った。
今、やっと三匹目の身体が崩れ落ちる。
六匹目の左半身が消えた。そして、空から天女が降りてきた。
「吉野くん! 遅くなってごめんなさいっ! 今、今助けるからっ!」
ばんっ! ばんっ! ばんっ! ばんっ!
集まってくる河童の群れを、バッタバタと薙ぎ倒してゆく想い人。
近づいてきた河童の血を浴び、二人とも酷い格好になりつつあった。
ばんっ!
また一匹倒した。
と、左手側から一匹飛び出してきた。
「樽木さんっ!」
吉野くんが弾ける様に突進し、河童に体当たりをした。弾かれた河童は、姿勢を立て直そうとしたところで吉野くんのニーキックの前に沈み込んだ。
「吉野くん、ありがとう」
「でもまだっ、樽木さん後ろっ!」
「ばんっ!」
本気になった魔法使いは、真後ろであっても狙うことが可能だ。
しかし、魔物の数はまだまだ多い。このままではジリ貧に……
『たぬきちゃん、理沙です。間も無く特戦群が到着します。誘導用に花火一発あげてもらえる?』
『たぬき了解です!』
たぬきは右腕を真上へと向け、ファイヤーボールを一発撃ち出した。
威力を抑え、代わりに大きく広がる様に調整されたそのファイヤーボールは、光跡を残しながら上昇し、300ftほどの高度で炸裂した。
第一陣はV-280三機だった。
湖の縁へと対空侵入し、高度30ftでホバリング。ファストロープで飛び降りてくる特殊戦闘群の精鋭たち。
タタタタタタタタっ! タタタタタタタタっ!
アサルトライフルの射撃音が響いてくる。
「遅れてすまんっ! たぬきっ! 無事かっ?」
「さ、小波師匠っ!」
アサルトライフルを袈裟懸けにしたまま、両手にバヨネットを握りしめた師匠が降ってきた。降り立つなり三歩で二頭の河童を切り伏せる。
「櫓の上にうさやが、下に直美がいるはずです。お願いします。師匠、お願いします」
「そっちにも隊員が向かってる、もう大丈夫だ」
「うー、師匠ー」
師弟の感動のやりとりの間も、河童は絶え間なく襲いかかってきた。
小波とたぬきの防戦を掻い潜って飛び出してきた河童の脚を、吉野くんが刈り取った。
倒れた河童のレバーを、力一杯蹴り抜く。
「おお、少年やるなっ! 今度習志野に来い。鍛えてやるぞ!」
「え……えええ?」
一瞬引いた吉野くんだが
「わたしも師匠に習ってるの」
たぬきの一言で食いついた。
「はいっ、ぜひよろしくお願いしますっ!」
吉野くん、良いのか? 本当に?
特戦群の参戦により、河童の群れは徐々に数を減らし始め、その後二十分ほどで掃討された。
土浦方面へと飛んだ響は、土浦駐屯地の武器教導隊、霞ヶ浦駐屯地のヘリコプターと共に共同作戦を実施、数千頭に及ぶ河童の群れを撃退した。
この事件は霞ヶ浦河童大戦として記録され、長く戦闘教訓として資料が使われることになった。
♦︎
「それにしてもさ、二年連続でお祭りの最中に出なくても良いでしょうに……」
たぬきがボヤく。
翌日、関係した面々が対策室に集められ、聞き取り調査を行った。
魔法少女四人だけではなく、吉野くんも呼ばれていた。
ちゃっかりたぬきさんの隣に座っている。
「で、吉野くん……」
理沙が声をかける。
「大変申し訳ないんだけど……陸上自衛隊の榊原三等陸佐が君のことを偉く評価しててね」
「は、はぁ……」
「ぜひ鍛えさせてほしいと。絶対サッカーにも役立つぞ……と」
小波さんは吉野くんが幾らカッコ良くても、それだけで評価する様なことはない人だ。
と言うことは、相当何かやらかした……と言うことなのだろう。
「まぁ、学校の書類を見る限りはスポーツ教育を希望しているんだよね?」
おいっ、個人情報保護法っ! 法の遵守どこ行ったっ!
「いえ……あの、できれば選手になりたいなと……」
たぬきを追うために書いただけの、フェイクな希望進路だ。
「サッカー選手かぁ。まぁ、相談してみよう。じゃ、あとで一緒に習志野に行こうか。あ、他のみんなも行くから安心してね」
吉野くんは、チラッと横目でたぬきを見た。
たぬきは吉野くんに微笑みかけながら頷いた。
……あ、吉野くん、悶えて昇天してる……
少年は、こうしてまた一歩、大好きなあの娘に近づいた。
あ、そのあの娘は、家に帰ってから『大軍の河童を次々と陵辱していく吉野くん』のお話のネームを一本、描き上げたらしい。
近日中に公開できるとこまで持っていくってさ。
小波さんに鍛えられるのかぁ……生きて帰れるかしら……
それではまた、お会いいたしましょう。




