お正月
あけまして、おめでとうございます。
とばかりに始まったお正月。今日はみんなで初詣。
近所になかなか大きな神社があるので、皆で集まってお参りします。
小川鎮守 素鵞神社。実は百里基地脇の百里神社も、こちらで管理されている。
たぬきは、明け番の聖一叔父さんから、結構な額のお年玉をもらったらしい……クリスマスのコートと合わせて、一体どれだけ使ってるんだろう。
響は両親から、常識的なお年玉をもらった。
うさやは明日、本家に新年の挨拶に行くそうだ。大体毎年、妹共々ここでいい感じに色々貰えると言っていた。
「じゃ、わたしらからもお年玉をあげよう」
理沙さん、美智子さんも一緒に来ていた。
「はい、彩香ちゃん、詠美ちゃん」
二人に渡したのは……ヘルメットだった。
「いや、習志野で訓練続けるなら必要だしね。いつまでも響ちゃんのお下がりじゃ寂しいでしょ」
「ありがとう、理沙さん、美智子さん」
「大切に使わせてもらいますね、ありがとうございます」
と言っても、これは日本国からのお年玉だ。なんせ一つで高級乗用車がポンっと買える金額だし。そんなもの、理沙や美智子には買えません。
オリーブ色をした、響とお揃いのジェットヘル。実戦中は理沙や美智子も同じものをかぶっている。
カーボンカーボンコンポジットの外殻に、耐衝撃高密度ポリマーと、低密度衝撃吸収材を組み合わせた軽量モデルだ。
内装は魔物のジャイアントワームから取ったシルクで織ってあり、高吸収超分散でいつもサラサラな被り心地最強を謳っている。
「きちんとレーザー通信機も入ってるからね、今度基地で練習しましょう。いつもアイテムボックスに入れといてね」
『はい、わかりました!」
「で、理沙さん、美智子さん。わたしは……?」
響が拗ねた?
「響ちゃんには、はいこれ」
「?」
「新型プロテクター。軽くて薄くて丈夫なのよ」
「おおっ! ゴワゴワしなくて済むのかな? ちょっと嬉しいけど、制服の上に着るのは微妙かも?」
もっとも、ヘルメットもプロテクターも、大人のエゴでしかなさそうだ。なんと言っても響は最強の防御魔法、リフレクト・マジックが使えるのだから……
それにしても、正月早々甘い感じがひとつもないな。色気も何もないプレゼントだし……
『綺麗なオリーブ色だよっ』
いや、それ綺麗っていうのは、ちょっとセンスおかしいからっ!
五人はそのまま参拝者の列に並び、そろって素鷲神社でお参りを済ませた。
そして今年もよろしくねーと話してから、それぞれの家へと帰っていった。
理沙と美智子は今日も仕事。来週から四日ほどお休みをもらえる事になっている。
その間の担当官は、普段は週に二回本部からやってくる男性職員にお任せする。
武藤首相は約束をきちんと守ってくれた。
現在、響担当官として登録されているのは、合計六人。岡田主幹を入れて七人が担当している。
もっとも、専属となると未だに理沙と美智子の二人だけなのだが……
麻紀さんも一緒に初詣に行きたがっていたが、麻紀さんの母親がどうしても温泉年越ししたいと駄々を捏ねたらしく、昨日から草津温泉に行っている。
草津で年越しとか、きっと天国に違いない。
ちなみに、さっき響が自宅の赤外線ネットワークに端末を繋いだら、湯畑の前で撮ったセルフィーが送られてきていた。
温泉上がりでほんのりと上気した顔が、めちゃくちゃ綺麗でドギマギしてしまった……あたしの婿は世界一だ!
あれ? いつの間にか麻紀さんのこと認めちゃってる?
今日は沢井の家には麻紀がいないため、久しぶりの親子水入らずである。
と言っても、居間でゴロゴロしながらニューイヤー駅伝を眺めてるぐらいしかしてないけど。
うさやさんは明日の本家行きの準備で忙しい。
本家は伊豆にある。
この巨大なうさやの家の、更に何倍もあるお屋敷が伊豆の山中に建っている。
そこに、年に一度宇佐美氏族が集まるのだ。そのため今日は一家で明日の準備で忙しい。
実はさっきの初詣も、割と無理を言って出させてもらっていた。
宇佐美の両親は、彩香が小学生の時に起きたあの事件以来、とても慎重に娘二人を育ててきた。
ただ、仲の良い友人沢井響の近くにいると、国会議員並みの警備の中に常に置かれることになる。だから響と遊ぶと聞くと、どんな場所へでも安心して送り出せるために出来うる限りのわがままを聞き届けていた。
たぬきは家に帰ると、まず弟と一緒に母方の祖父母の家へと向かった。
自転車で二分ぐらいのご近所さんだ。
この家には現在、祖父、祖母と聖一叔父さんが住んでいる。
あ、あと、猫二匹。
「「あけましておめでとうございますー」」
二人揃って玄関で大きな声でご挨拶。
「はい、あけましておめでとう。おじいちゃんも待ってるから行ってあげて」
「はーい……おじいちゃーん、あけましておめでとうございますー」
玄関をあがり、リビングのドアを開けながら新年の挨拶をしていく。
うん、お行儀悪いな……
二人はこの家に来ると、徹底的に甘やかされる。そのため色々と、人には見せられない状況も発生するのだ。
「おーおー、おめでとう詠美、浩太」
蕩けまくった顔でおじいちゃんが応えた。
「よしよし、はいじぃじとばぁばからのお年玉だぞ」
「おじいちゃん、ありがとう!」
「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃんっ」
おばあちゃんが後ろから、甘酒を淹れた湯呑みを出してくれた。
「聖一叔父さんは寝てる?」
「ああ、仮眠しとるよ。朝は聖一とあったんじゃろ?」
「仕事帰りにうち寄って、一番でお年玉くれたよ」
「相変わらずだなぁ、聖一は」
姪っ子甥っ子に全てを注ぐ消防官!
「ま、そろそろ起きてくるだろ」
樽木の家のお雑煮は醤油仕立て。大根にんじん牛蒡に鶏肉、柚子の皮。お餅は角餅。
お節料理に舌鼓をうち、お雑煮をお腹いっぱい食べていたところに聖一叔父さん登場だ。
「詠美、浩太っ! よく来たなぁ、よし、どんどん食べるんだ。ほら、きんとん好きだろ、ほらほら!」
詠美さん、少々体重計が怖くなりそうです。
「昨日の夜中にさ、火災出場したんだけど怪我人とか出なくて良かったわ。叔父さん、二階から飛び降りた女性を受け止めたんだぞ」
「おお、おじさんすごいっ!」
浩太が目をキラッキラさせて聞いている。
「人命救助できると、消防士やっててよかったなー! って感じるんだよな」
聖一は強がっているが、昨日三浦めぐみさんを抱き止めた時に痛めた腕や足は、まだ痛い。
申し出れば労災として取り扱われるが、なんとなくそんな気になれなかった。
『なんか、不思議な魅力のあるおばさんだったな……』
昨日救助した女性、三浦さんを脳裏に浮かべながら、甥っ子相手に自慢話を続ける聖一だった。
翌日、一月二日は八時半からの勤務だ。
「あざざーっす」
通勤用の電動スクーターを駐輪場に停め、やる気のなさそうな挨拶をしながら署内へ。
急がないと申し送りとラジオ体操に間に合わない。
慌てて着替えながら、ホワイトボードの今日の予定を確認していく。
「さて、今日も張り切ってやりましょうかねぇ」
朝のルーティンを終え、機材点検、運行前点検を済ませてデスクワーク。消防士だって体を鍛えてるばかりじゃないんです。
「おーい、染谷。お客さん」
「あ、今行きます!」
はて、ここにお客さんって珍しいね。一体どこのどなたでしょう……
「染谷さま、一昨日は本当にありがとうございました」
「あ、えーと……三浦さん?」
「はい、救っていただいた三浦めぐみです」
あの、二階から飛び降りたおばさまだった。
当日は本当に憔悴して見えていたが、今日は随分元気になったみたいだ。良かった良かった。
「わざわざありがとうございます。あ、いえ、我々消防官は御礼の品とか受け取ってはなりませんのでお気持ちだけで……」
聖一叔父さんの日常も何かが変わっていきそうな気配である。
ああっ、なんかしばらく、魔法少女が活躍してないっ⁉︎
大変…でもめぐみさん気になるし、うーんうーん……
それではまた、お会いいたしましょう。




