体育祭
年に一度の体育祭がやってきた!
と言っても響は競技には参加できないので、応援とダンス頑張る!
うさやは元々結構足が速かった。
たぬきはちょっと駆け足苦手だった。
しかし、二人とも練習でトップタイムとセカンドタイムを叩き出し……マイクロマシンさんが何かやらかした感がひしひしと感じられる。
「これ、あーしらも出るなって言われないかな?」
「今回までは何とか出させてもらいたいね。来年の魔法学科では流石に無理だろうけど」
もしくは魔法学科だけのレースをするか……響が独走する未来しか見えないけど。
サッカー部のエースストライカー、吉野くんはそこそこ速い。じゃないとエースストライカーなんてやってられない。
しかし、やはり陸上部の短距離の奴らと走ると分が悪い。だけど愛しの樽木さんにいいとこ見せたいから全力で頑張る。
イケメンのくせに努力家とか、何その優良物件。でも報われないのが可哀想だ。
陸上部の顧問は、我らが担任山本則夫だ。
以前、たぬきが吉野くんの薄い本を描いた時の、カップリング相手だった焼き海苔だ。
というわけで、真っ黒に焼けた山本先生と吉野くんが並んでたりすると、女子達が心の中で叫んでたりする。
もっとも、カップリングの方向性の違いで相容れない子もいるらしいが……
『何で山本×吉野なのよ……そこは吉野タチでしょうが!』
実際には吉野くんは樽木さんが大好きだし、焼き海苔先生は既婚者だ。前の学校の音楽教諭とゴールイン。かなり熱心に口説き落としたという噂だ。新婚二年目のホヤホヤです。
♦︎
「位置について、用意、パァンッ」
四人横に並んで走り出す。今は男子が100m徒競走をやっている。
女子は準備体操中だが、体操クラブに通ってるだけあって響のぐにゃぐにゃさが目立っていた。
「よっと……」
立ったままの状態から上体を反らしていき、そのまま足のすぐ脇にタッチするオメガ型ブリッジ。そこからの倒立。
タッパがあるから見応えがある。
「相変わらず変な身体してるよね、響っち」
「変って言われたぁ……しくしく」
泣き真似しながら股割りをしていく。ぺたんとついたところから腕で体を持ち上げ、再び倒立に。
父兄席からも当然その姿は見えているため、響のことをよく知らない人々が何とも言えない声をあげ、響を眺めていた。
「まぁ、準備体操頑張ってもわたしは走んないんだけどね」
魔法使わないでも100m11秒前半を叩き出すのだ。女子中学生としてだと、日本記録級である。
そして魔法も使えば6秒台が軽々と……
『完全に飛んでいいなら3秒有れば十分なんだけどねぇ』
こんな奴競技に出せるかっ!
25m/s^2の加速度ですっ飛んでって、100m地点での速度が250km/h超えてるとか、ドラッグマシンかよっ! もう人間の範疇に入らねーよ!
おっと、吉野くんの出番だ。
みんな一斉に注目した。
女子の視線の三分の一は憧れ、三分の一は腐りかけ、残りの三分の一は腐敗。
吉野くん、泣いていいよ。でも、悪いのは君の想い人だからね。と言うか、あそこでリスペクトされるような告白した君の自爆だ。
ちなみに、どんな告白されたのかはたぬきさんは一切教えてくれなかった。
「位置について、用意、パァン!」
焼き海苔の撃った電子スターターピストルの音で、一斉に飛び出す。
さすがエースストライカー、立ち上がりが速い! 30m地点ではトップを快走しているが、徐々に陸上部の田所くんが追い上げてきている。
50m、まだリードを保っている……70mほぼ並んだか? いや、まだ吉野くんが頑張っている。
「吉野くんがんばれー!」
たぬきが叫んだ! 吉野くん、一発奮起! 並んだままゴール!
「だぁっ、はぁっ、はぁっはぁっ」
そのまま倒れ込んだ吉野くんに向かって、たぬきが近寄っていく。
「吉野くん、よく頑張ったねぇ。いい感じだったよ!」
「 ‼︎ 」
うん、悪女だね。間違いない。
さっきの『いい感じ』も、スタート地点で焼き海苔と並んで立ってたあたりを指していると思われる。
『いやいやいやいや、ちょっとそれは解釈に悪意入ってない? わたしそこまで腐ってませんよ?』
じゃ、何が良かったの?
『スタート前の焼き海苔とのアイコンタクト』
そんな事実ねーし!
よっぽど酷い捏造してるじゃねーか!
結局、吉野くんは陸上部の田所くんと同着一位となったが、本人は完全に舞い上がってるためになんかふらふらふわふわ歩いてる。
そんなに嬉しかったのか……樽木さんの一言が……
さぁ、続いて女子の徒競走だ。
「じゃ、わたしはゴールで待ってるからね」
そう言ってゴール地点まで駆けていく。軽く風魔法でアクセラレーションしながら駆けていく。
あまりの速度で父兄が騒然としているが、まぁ気にしないでおこう。
「位置について、用意、パァン!」
やはり陸上部の娘たちは速い。しかし、うさやはそれについていく速度で二位に食い込んだ。
たぬきは強敵のいない組になり、ぶっちぎりで一位である。
「まさかわたしが駆け足で一番取れるとか、違う世界線に来ちゃった?」
「いや、違う世界線に来てるっしょ? たぬっちもあーしも、魔法を知らない世界線から離れちゃったんだから」
やはり、ステータスオープン魔法を覚えてからの体調変化は、気のせいではないらしい。
寝つきは良いし、ストレスを感じることもあまりない。頭の回転も自覚できるほど良くなった上に苦手だった運動ですらこの有様。
「今の所デメリットが、希望した学科に行けなかった事ぐらい?」
しかしまだ油断は禁物だ。響みたいになったら困るし!
続いて一年生の障害物競争、二年生のムカデ競争と続き、全校生徒での表現……いわゆるダンスのお時間です。
響も参加できるので張り切っています。
響はダンス、得意だと思っている。
表現力も十分高いと思っている。
響の中ではね。
側から見てると、時計のようであった。
音楽に対しての揺らぎが一切ない、機械以上の正確さ。何度繰り返しても確実に同じ場所をトレースしていく。
作り物のような無気味の谷を、わざわざ渡ってあっち側に行ってしまったような、そんなダンスが繰り広げられる。
ダンスの専門家ではない教師では、ここが悪い……とか指摘できないのだが、全ての人が不安を覚えるダンス。これは専門家に見てもらった方が良いのかもしれない。
チャップリンのモダンタイムスみたいなダンスを披露した後は、綱引き、玉入れと続き、最後は締めの全学年参加のリレーである。
チームごとに各学年男女二人ずつ、合計十二人一チームでの対抗戦。
やっぱり響は参加できないので応援である。
響のクラスからは、吉野くんとうさやも選ばれていた。後の二人は陸上部だ。
たぬきは響と一緒に応援合戦を頑張る。
「位置について、用意、パァン!」
一年生女子からスタートした。
赤組、白組、青組、黄組。みんな頑張る。
あ、赤組の子がバトンを渡し損ねておっことした。拾い直した男子は頑張るものの大きく遅れてしまった。
再び女子にバトンが渡る。この娘は速かった。あっという間に遅れを取り戻し、黄色を抜いた上で一年生のアンカー男子へ。
順位は青白赤黄。そのまま二年生女子へとバトンをつなぐ。
その後もデッドヒートが続いたものの、赤組二年生アンカーの少年が、足をもつれさせて転倒してしまった……
赤組三年生の一番手はうさやである。
『赤組、二年の川田くん、転倒しながらよく頑張りました。続いてバトンは三年生の宇佐美さんに渡ります。宇佐美さん、綺麗にバトンを受け取って……え? え? え?』
場内放送担当の放送委員が戸惑っている。
見ている人たちも呆然としていた。
うさやは全力で走っていた。転倒してしまった男子が負い目を感じないように、全力で走った。
走りたいと思ってしまった。
その思いはマイクロマシンに伝わり、運動機能がマイクロマシンの制御下に置かれていく。
筋肉のアクチン繊維とミオシン繊維の間にマイクロマシンが潜り込み、強制的に筋収縮を発生させる。
呼気の中から酸素を取り出し、肺胞に触れる部分の酸素濃度を極端に高める。
身体の動作指示を神経接続を無視して脳と手足を直結させる。
響が過去に叩き出した記録など、ものともしない高速で200mを駆け抜け、二位まで順位を上げて吉野くんへとバトンを繋いだ。
その後は大きな順位変動もなく、赤組はそのまま二位でゴールした。
これが魔法使いだ。
まだ魔法使いになって二ヶ月の少女でも、覚醒したらこんな風になってしまう。
うさやはもう、普通のスポーツは出来なくなるだろう。どんな競技であっても、魔法使いというだけで公平ではなくなってしまう。
この日もこのリレーの結果をどうするのかで、実行委員会はもめにもめた。
結局、今年はそのままの成績で順位づけが行われたが、来年からは魔法使いと認定されたものは競技には出られないと決定された。
「あー、あーしのせいで後進の魔法使いの楽しみ、奪っちゃったかなぁ」
「いや、遠からずこうなってたよ。うさやのせいじゃない。わたしだってあんなに走れると思ってなかったしさ」
「じゃ、みんなでダンスチーム作ろう!」
「「それはヤダ」」
「しょぼーんだよっ!」
魔法使いの悩みは、まだまだこれからも増えていく。
ご覧いただきありがとうございます。
魔法使いの体育祭とあうと、やはり箒に乗って球をゴールに投げ込むやつとかでしょうか。
この世界の魔法使い、箒使わないんですけどね……箒に乗って飛ぶこともできるけど、それは
『普通に歩けるのに、わざわざ箒をまたいで歩く人はいないでしょ?』
ってことらしいですし。
ああ、空、飛びたいですねぇ。
それではまた、お会いいたしましょう。




