追放アイドルは元最強闘士をおとせるか
何だか分からないまま莉愛は言われた通り闘技場の外に出る。
「大丈夫だったか? スーツのトラブルだろう? ケガや体の不調は?」
「あ、うん、大丈夫。スーツ脱いだらもう平気。あの時は動けないまま落ちたらどうしようかってすごく怖かったから、助かった。ホントにありがとう」
心配そうに声を掛けてきた昴に、莉愛は笑顔で礼を言う。
「いや……別にそんな……」
昴は首を振りながら呟くと、少し安心したようにほっと息をついた。
「それと……ルキの攻撃に巻き込まれそうになった時も、助けてくれたんでしょ? あたしに攻撃しなかったら、きっと――」
「あれは助けたつもりなんてない。俺はお前に反撃しただけ。ルキの攻撃を完全に躱しきれなかったのは俺のミス。二つが重なっただけだ」
「でも、それならあの後、すぐにあたしを攻撃すれば――」
「ルキの方が優先度が高かった。その後すぐに、お前が円盤を捕まえるなんて思ってもみなかった。位置的に遠いと思ってたんだよ。ルキを倒してしまえば、お前を倒すのは訳ないと思ってたんだ。とにかく……俺が見誤っただけだ。お前を助けたつもりなんぞ、これっぽっちもないから安心しろ。そんな風に考えるな。純粋にお前の勝ちだ」
昴は早口に、苛立ち交じりに答えた。まだ納得出来ない様子の莉愛に、
「大体、俺がお前を勝たせる理由なんてないだろ? 研究費、入らなくなったらどうすんだよ。滝田研メンバー全員から袋叩きに合うのは御免だ。スーツ無しの俺に切り抜けられねえからな」
と、彼は冗談めかして肩をすくめた。
「あ、それなんだけどね。あたし、ルキと一緒にいるのは止めた。アン社長にも、今まで通りにして下さいってお願いした。だから、研究費? のことは大丈夫だよ!」
「そうか」
大して驚くでもなく、昴は頷いただけだった。昴も莉愛がそうするであろうことを分かっていたようだった。
「これで、今まで通り。じゃ、あたし帰るから」
何となく気まずさを感じて去ろうとする莉愛を、昴が追いかける。
「あ……その、悪かったな、お前に冷たい態度を取って。お前も最近よくいる、闘わずに適当にパフォーマンスして、それでファンを増やして、そこからあわよくばアイドルに戻ろうって奴だとずっと思ってたんだ。でも試合を見て違うって分かったよ。勝つ工夫も、努力もしていた。だけど何だかその、どうしても認められなくて。そうこうしているうちにルキについていっちまうし……」
昴はいつもの彼とは違って、たどたどしかった。
「だから……お前と闘えて良かったし、お前があいつのところから去ってくれて良かったよ。お前がどう思っているかは知らないが、俺は良かったと思ってる」
「ありがと、昴」
その言葉に莉愛は二コリと昴に微笑んだ。莉愛に微笑みかけられて、昴はどぎまぎした様子で視線を逸らすと、速足に歩き莉愛を追い抜いていく。
「ふぅん……まあ、いいけどねー。でもやっぱりちょっと謝罪にしては誠意が足りないかなあ?」
そんな昴に莉愛は冗談めかしてそう言って、ニヤリと笑う。
「なんだよ誠意って」
「黒毛和牛炭火焼肉……?」
「結局金か。お前の誠意の単位は円か」
「闘技場の無敗の帝王……あ、もう無敗じゃないか、とはいえ変な人気もあるSランク闘士様なんだから、ファイトマネーはがっつり稼いでるんでしょ?」
「変な人気とか言うな。それにファイトマネーは全額俺に入るわけじゃねえ。でも……まあいいさ。それくらいは何とかなる」
ふう、と昴がため息をついた。
「やった! じゃあ行こう! 高級焼肉!」
「……でもいいのか? アイドルが男と二人でメシとか」
「今は闘士だし、まあ試合後に同僚とコミュニケーションなんだから、何にも問題ないと思うよ?」
ニコリと笑って、莉愛が答える。昴が少し眉根を寄せた。
「あ、もしかして同僚じゃ不満?」
「いや。同僚でいられて良かったよ、本当に。お前には負けるわ、再戦の機会は無いわじゃやりきれなかったからな」
昴が肩をすくめた。うまくはぐらかされて、今度は莉愛が顔をしかめる番だった。
「いつでもかかってきなさい! 返り討ちにしてやるから!」
莉愛はファイティングポーズを取った。
「菰田テクニカの欠陥品のチートスーツ無しに一対一でまともに戦って、俺に勝てると思うなよ。次は絶対に勝つ」
その莉愛を、昴はハッと笑い飛ばす。
「ま、だが今日のところは休戦だな。ほら、いくぞ。高級焼肉だろ?」
「うん!」
二人は元気よく並んで歩き始めた。
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