勝者の望み
「アキリア、大丈夫?」
アンが莉愛のヘルメットを脱がせながら尋ねた。
「アン社長……? あれ? ヘルメット! どうして……」
「スーツのトラブルじゃないかって、M45から聞いたわ。大丈夫なの?」
「それが……体が動かなくて……」
「一旦スーツの電源を切るわね。それでロックは外れると思うわ。体は重いけど、一応動くようになるはずよ。……メロディア! 手伝ってあげて! ああ、大丈夫よ。もう観客からは見えてないから。表彰式は悪いけど切り上げさせてもらったの。だから、後でワタシのところへ来て頂戴」
メロディアに支えられて、莉愛はロッカールームへ戻る。
「そのスーツ、運営の方が言うようにやっぱり何か問題がありますのね。でも……そんな事はどうでもいいんですの。今回は素直にわたくしの負けですわ。でも、次も勝てるなんてお思いにならないことね」
ようやく重くなったスーツから解放された莉愛に、メロディアがそう告げた。突然のことに、莉愛は怪訝な顔で音夢をじっと見る。居丈高なようでいてどこか照れたようにこちらを窺っているのが見て取れた。
「望むところ! また返り討ちにしてあげる!」
莉愛も立ち上がり、胸を張り高らかに宣言する。二人はしばらく見つめ合っていたが、やがてどちらから、というわけでもなしに笑い出した。
「それでは、また闘技場で。ごきげんよう」
珍しく声を上げて笑ったことに照れたのか、音夢は急にいつものすました顔に戻ると、そう言って踵を返した。
「またね」
去っていく、お互いに認め合ったライバルの背中に莉愛も笑顔で手を振った。ルキのパートナーである莉愛が勝ったというのに、メロディアは、自分が闘技場から追放されるとは微塵も思っていないようだった。それが莉愛には嬉しかった。
「アキリア、待っていたよ。社長、直接君の意見を聞くって言ってきかないんだよ。勝ったのは僕らなのにねえ。そうだろう?」
社長室に入るや、ルキが笑顔を貼り付け、両手を大きく広げて近づいてきた。
「……違うよ、ルキ。勝ったのは、あたし」
莉愛は静かに、だが力強く答えた。
「何を言ってるんだ! この裏切り者! 誰のおかげで勝てたと思ってるんだ⁉ 僕がいなければ、君は輝けないだろう?」
「ルキがいなかったら、勝てなかったと思う。こんなに短期間では強くなれなかったと思う。そこは感謝しているよ。でもルキのパートナーってことで人気になるのはやっぱり違うと思うし、そもそもパートナーなんかじゃなかったんだって、今回のことで思った」
「馬鹿な事を! 君は僕のパートナーだよ。これから僕たちで闘技場を盛り上げ、みんなの注目をもっともっと集めるんだ! 僕といるなら、君は闘技場の女王でいられるんだよ⁉」
「ルキの言うことを聞くなら、でしょ? ルキに嫌われたら、ルキの関心が他の子に移ったら、それでおしまい。……ヴァンパイアリズムみたいに、解散でしょ? そうならないように顔色を窺ったり、人を蹴落としたりするのは嫌。そんなの疲れるもん。でも、今の闘技場は試合で楽しませられたら、お客さんが楽しんでくれる。またここに見に来てくれる。誰にでも、そういうチャンスがある。そこが良いところだと思う。強くなって、お客さんに愛される努力の方がずっといいよ」
「なら、勝手にするがいい! 君はクビだ!」
莉愛が二コリと微笑むと、ルキは面白くなさそうに唇を噛み、くるりと背を向け去っていった。
「だから、今まで通りが良いと思うんです。誰でもなりたい人が闘士として戦えて、試合で魅せた人が人気になって、闘技場が盛り上がっていくのが。だからアン社長、よろしくお願いします。あたしは美少女闘士として今まで通り……今まで以上に頑張っていい試合をしますから」
莉愛は社長室の執務机から二人の様子を黙って見ていたアンに、若干たどたどしくなりつつも精一杯自分の気持ちを伝えた。
「もちろんよ! アナタにはこれからも、人気闘士として闘技場を盛り上げてもらうわよ。頑張りなさい!」
アンはにっこり笑って、莉愛に近づき、その手を取った。
「よう秋山! おめでとう! 大金星じゃねえか!」
「社長? 試合を見に来るなんて珍しいですね」
ラウンジに戻ったところで、加藤が駆け寄ってきた。その顔には、やはりどこか金の臭いを嗅ぎつけた、とでもいうような雰囲気があった。
「貰っちまったチケットが転売出来……いや、とにかく折角チケットも手に入れたから、見に来たってわけだ。で、これからどうするんだ? ルキの所はクビだろ? だったらオレが――」
「あ、そのことでしたら今はとにかく闘技場一本でいこうと思ってますし、ドリーミィメロディアも個人でマネジメントしているみたいでしたから、あたしもそうしてみようかなって。というわけで、今までお世話になりました。社長にここに連れてきて貰わなかったら、あたしこんなに活躍出来なかったと思うんです」
加藤が勧誘の言葉を言い切らぬうちに、莉愛は深々と頭を下げ、それを断った。彼女の意思が固いと見た加藤は、諦めたようにため息をついた。
「そうか、それならまあ頑張れ。またオレの助けが必要になったらいつでも来いよ!」
それだけ言ってそそくさと去っていく加藤の背中を、莉愛は少しだけ寂しそうに見つめた。
「莉愛ちゃんおめでとう! ついに闘技場のトップなんてスゴイよ!」
「いい試合だったよ! 最後、上手く隙をついたもんだねえ! でもそこまでの闘いも凄かったよ。よくあの中で残ったもんだ!」
加藤と入れ替わりに飛鳥と安恵がやってきて、口々に祝いの言葉を述べた。
「ありがとう。何とか勝てて良かった。二人とも、また戦いたいな!」
「ま、その前にSクラスに昇格しないと、だけどねえ」
「Sクラス、遠いなぁ……。でも、わたしも頑張るから!」
頭を下げる莉愛に、二人がそう言って笑った。
「って……こんなところで私達が足止めしちゃダメだった。早く行きなよ、莉愛ちゃん」
「え?」
「アンタのこと、待ってるみたいだよ。ま、とにかく早く外に出る!」
「ええ? ちょっと、一体何……?」
「いいから、いいから!」
飛鳥と安恵が、ニヤニヤしながら莉愛の背を押した。
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